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「暑いねぇ……」
思わずそんな言葉が出てしまうくらい日差しが鋭く暑い夏の日。
家である神社の周りを掃除していた鈴音はゆったりと目を細めた。
「こんな暑い日ばかり続くと、嫌になってきますね、ほんと……」
先程からひっきりなしに汗は流れていく。
汗を吸い取ってじっとり濡れた巫女服が、気持ち悪かった。
土なので、照り返しがそこまでないのが救いかもしれない、と遠くを見た時、足にひんやりとした何かが触れる感触がした。
「ひゃっ!?」
慌てて足元を見ると、今にも死んでしまいそうな程ぐったりとした白蛇が。
「え、あ、白蛇!? み、水!」
どうしていいかわからないまま、持ち上げて水道へ向かう。
直接掛ける訳にもいかず、とりあえず目の前に水を差し出した。
ぐったりとしていた白蛇は水の気配に気がついたのか、ぼんやりとしていた瞳に生気が宿った。
初めに手ですくってあった水に頭を突っ込み、それがなくなると出しっぱなしになっている水道の真下へ滑りこんだ。
「それなりに勢いがあるはずなんだけど……痛くないの?」
ある程度高さのある場所から流れているので、勢いは水圧は割りとあるはずなのだが、痛がっている様子はない。むしろ大喜びして水遊びをしているので、気にする必要はないのかもしれない。
しばらく楽しげに水と戯れるその様を眺める。
割りと鈴音は爬虫類系が苦手ではなく、それに加えて白蛇は神様のお使いという認識があるので、見ていて気持ち悪くなることはない。
バシャバシャと水を叩いて遊んでいる様子を見ていると、こちらも涼しくなってくる。
「ほんと、可愛いよね……」
つかの間暑さを忘れて和んでいると、ようやく気が済んだのか白蛇が小さな水道の滝からのっそりと這い出てきた。
地面に出ると暑いことを学習したのか、未だに排水口の網上に留まってはいるが。
「もういいの? 大丈夫?」
満足気な様子に思わず問いかけると、まるで同意するように頭を下に振った。
白蛇なので、もしかしたら本当に神様のお使いなのかもしれない。神社の娘なだけあって、鈴音は多少のことでは動じないのだ。
嬉しそうに身体を揺らす白蛇の頭を指先で撫でてみる。反応が意外と可愛い。
調子に乗って撫でていると、機嫌を損ねてしまったらしく避けられた。
「……撫ですぎた?」
びたんびたんと尾を地面に叩きつけている様子を見ると、本当に怒ってしまったようだ。
「えっと……ごめん」
「フシャーっ」
わかったならいいのよ、と言わんばかりのこの態度。
しばらくチロチロ舌を出し入れした後、静かに視線を鈴音へ向けた。
「なぁに? どうしたの?」
白蛇は甘えるように足に頭を擦り付け、近くの茂みへと姿を消した。
「不思議な蛇さんだったなぁ。っといけない、掃除がまだだった!」
人間の言葉が分かっているような、不思議な行動をする蛇だったと消えた茂みへ目を向けたものの、頼まれた掃除が終わっていなかったことを思い出した鈴音は、慌てて掃除を再開した。
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