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暴れる体力も気力も尽き果て、鈴音が大人しくなった後。玄武は優しく鈴音の頭を撫でながら小さく言葉を零した。
「少し、この世界の話をしようか」
鈴音が視線をあげると、どこか悲しそうな、寂しそうな瞳をした玄武がこちらを見ていた。
「遥か昔から続く、この世界の理のような話だ」
お伽話を読むような優しい声音で、玄武はつらつらと物語を語りだした。
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この世界は、四神の為だけに創られた、箱庭のような世界である。
そもそも四神とは、元々自然に生まれた神ではない。高位の神によって意図的に創造され役割を与えられた神である。よって神であろうとも人間が思っている以上に出来る事は少なく、制限される。
四神は高位の神に与えられた役割通り、方位を守護し、人間の営みを見守る。時として下界に出向き、人間に知識や力を与えた。
神によって創造された四神は、高位の神に都合の良いように出来ている。余計な知識は持たず、余計な疑問も持たない。ただただ、自分に与えられた役割を果たすだけの神。
しかし、四神が創造されてからしばらく経った時、高位の神が考えてもいなかった事態が起こった。
四神は完璧な神ではなく、創られた特殊な神。故に、時を刻めば刻む程、能力に陰りが見え始めたのだ。
まるで人間が歳を重ね、衰えていくように。人間に比べれば穏やかに、でも確実に、力が弱っていく。
高位の神は焦った。
新しい神を生み出すのは、いくら高位の神と言えど容易ではない。四神が衰える度、新しく同じ役割を持つ神を創造するのはかなりの手間がかかる。
悩んだ神が目をつけたのが、異世界の――下界の人間であった。
四神同士が交わることは出来ない。特定の神に、2つ以上役割を与えることは出来ないからだ。
だが人間ならば。人間と四神の間に生まれた子供ならば。
神の血を引く子供ならば、代替わりという形で役割を受け継ぐ事が可能ではないか。
人間の血と、神の血ならば、当然神の血の方が強い。
よほどの事が無ければ神としての力を十分受け継ぐ事が出来るだろう。もしかしたら元の神を超えるかもしれない。
新しく神を創り出すよりは、人間を連れてくる方が楽であったし、都合が良かった。
そして一人目の女性が連れてこられた。
あくまで表向きは神の世界に迷い込んだ哀れな人間として。本来の目的は、神の子を産む"花嫁"として。
この一人目の女性が、初めの花嫁であり、四神の祖である。
「彼女にとっては、悲劇としか言いようのない出来事だったが」
閲覧ありがとうございました。
次の投稿予定日は、問題が無ければ明日10月12日です。
6話目では女性の妊娠等に触れています。極力濁して表現しているつもりですが、閲覧にご注意下さい。