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「玄武さま! いい加減にして下さいませ!」
本格的に、鈴音がキレた。
外にも出られない、一人になれる時間も殆ど無い今の状況に、保護して貰ったとかの恩も吹き飛んだ。
「毎日何処を行くにもくっついてきてっ、私に自由はないじゃないですか! 保護していただいたことは感謝してますけど、それとコレとは話が別です。今の状態は軟禁ですよ!?」
「いや……それは……」
「私にはなんにも情報を与えないで一人で考えて! 私は貴方のお人形ではありません!!」
普段滅多に怒ることがない鈴音は、一度怒り出したらとまらない。
単純な怒りに加えて、家族と引き離された事に対する悲しみやら、この世界に来た所為で溜まりに溜まったストレスやらが混ざり合って、とんでもないエネルギーを作り出していた。
「大体っ、何も伝えられずに貴方を信用出来るほど、私も馬鹿じゃないんですっ。それでも……助けていただいたから悪い人じゃないって…………もう……いやぁ……」
「鈴音!?」
ぽろぽろ、ぽろぽろと、瞳から溢れ出す涙。爆発した感情が、怒りだけでなかった為に、器から溢れ出してしまった様々な感情。
鈴音は、自分が泣いている事すら気が付かない。拭うこともしないまま、頬に涙の筋が出来ていく。
とまることのない鈴音の涙に一番焦ったのは、余裕を見せていた玄武だ。
自分の行動が、言葉が、彼女を傷つけていた事を自覚している故に、どうすればいいかわからない。
言動が、全て自分本位であった事を、玄武は十分に理解していた。
「……頼む、泣かないでくれ」
優しく包み込むように抱きしめる。
掛ける言葉は見つからない。このまま側に黙って側にいることが正しいとも言えないが、泣いている鈴音を放っておくことはできなかった。
「いや……離して……っ!」
かと言って、信頼できないと言った手前鈴音は大人しく収まっていることはしない。
この数日で嫌というほど触れた体温は、鈴音の心をかき乱すだけで落ち着かせる事は出来ない。この腕の中は、安心出来る場所ではない。
絡みつく腕を引き離そうと必死で力を込める。しかし、鈴音の持てる力全てを出しても腕は離れるどころか更に力強く抱きしめてくるのだ。
(いや……!)
「離してっ!」
「駄目だ! 離さない……絶対に離さない。私の行動が君を傷つけているのは分かっている! だが……泣いている君を離す訳にはいかない」
「どうしてよ……一人にしてよ……!」
鈴音は自由だった腕を振り上げて、拳を振り下ろす。だが、その拳は玄武に触れる前に力なく下ろされた。
玄武が心からの悪人ならば鈴音は躊躇うことなく殴っていただろう。
(この人が、優しいのを私は知っている)
鈴音は、与えられていた優しさは嘘でない事を知ってしまっているから、殴れなかった。一度、平手打ちをしてしまっている負い目もある。
逃れることも、大人しく収まっている事も出来ない鈴音は、体力の続く限り暴れ続けた。