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次の朝、目覚めると、既に白虎の姿は跡形もなく消えていた。あれが夢でなかったと証明するものはなにもない。
もしかしたら夢だったかもしれない話を、玄武にする気には到底なれなかった。
昨日通されたあの部屋に向かい、だぼだぼの服と同じ色合いの小さな服を渡された。この短時間で用意してくれていたらしい。せっかくなので、仕切りの影で着替える。
手間を掛けさせてしまったことは申し訳なかったが、大きすぎる服で生活するのは大変だったのでとても助かった。
品のある黒塗りのロングテーブルには暖かな湯気を立てた食事が並べられ、同じ色の椅子に座りながら、優雅に茶を飲んでいる玄武。食事には一切手をつけた形跡がないので、多かれ少なかれ待たせてしまったことには変わりないようだ。
「大きさはちょうどいいようだな。急ぎで作らせたものだからピッタリとはいかないだろうが、しばらくは我慢して欲しい」
「いえっ、これで大丈夫です! ぴったりです!」
黙っておいたら、一から十まで測って作られそうだ。
「そうか……? もっと色を使ったものや、飾りとかもあるのだが……」
「本当に大丈夫です! むしろこれがいいです」
玄武の口ぶりから、望めば際限なく与えられそうで怖い。もともと鈴音は華美な物は好まないし、物持ちもいい。
巫女服の色合いを赤と白から、黒と白に変えた様な感じ。使われている布は前の服同様上質なのがわかかるし、型も微妙に違う。こんな素敵な服を用意してもらって、文句なんか言ったら罰が当たる。
これでいいと言い張るっていると、玄武はやや不満そうなもののしぶしぶ諦めてくれた様だ。
「君がそれでいいなら構わないのだが……」
着飾りたかった、という玄武の呟きを拾って、身体がビクつく。
(薄々感じてはいたけど……私を着飾りたかったんだ……)
それはごめんだけど。
身の危険を感じるので、鈴音は聞かなかった事にした。着せ替え人形にされるのは絶対に嫌だ。玄武が悲しそうな顔をしていようが、捨てられた子犬のような目をしていようが、鈴音には関係ない。
(と思いたい。罪悪感凄いけど)
別にはっきり言われた訳ではないし……と誰に言うわけでもないが言い訳をしてみたりする。
「あぁ、後。この世界では一応その服が身分証明になる。今の所一人で行動することはないだろうが、気をつけて欲しい」
「服が身分証明って、どういう事ですか?」
アクセサリー等の装飾品なら、身分証明として聞いたことあるが、服が証明になるのは聞いたことがない。異世界なのだから、今までの常識で考えてはいけないのかもしれない。
「四神にはそれぞれ司っている色があるんだ。特定の色をまとうことは、その神の庇護下にある事を示している。別に服である必要性はないが、一番目につきやすいから一般的だな」
アクセサリーでもいいらしいが、見えづらいそうだ。
確かに服のほうがわかりやすい。
「それに関してはこちらで用意するからな。勝手に脱ぎ捨てたりしなければ気にしなくていい」
「脱ぎ捨て……って、痴女じゃないですか……!」
「ふむ、そうとも言うか?」
鈴音には脱ぎ癖はない。
(むしろあってたまるか!)
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