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気がつけば、窓から差し込む光がオレンジ色に色づいていた。どんなに世界が違ったとしても、空の色だけは変わらないものらしい。
目覚めたあの部屋で、鈴音は一人寝台に乗っていた。
玄武が暮らすこの館には、玄武と鈴音以外の生き物はいないらしい。手伝いを呼ぶにも少し時間がかかると言われたので、断った。自分のことくらい自分でできる。
ただ、この世界で使われている一般的な明かりは蝋燭。朧気な明かりが、ほんのりと辺りを照らすだけだ。
必要最低限の物しか置いてない部屋は、とても物悲しく感じられた。
乾いたからと返された服を抱きしめ、仰向けに倒れ込む。お気に入りの部屋着から、慣れ親しんだ我が家の匂いを大きく吸い込んだ。
鈴音がこの世界に持ってこれたものは、自分の身と、身につけていた部屋着だけ。この手に残ったものは、あまりにも少なかった。
(きっと、皆心配してる……お父さんも、お母さんも、涼も……みんな)
家族の顔が浮かんでくる。
両親はとても心配して悲しんでいる。いつもはそっけない弟の涼も、きっと必死になって姉を探している。
家族の悲しい顔が、弟の悲痛な声が、想像できる。家族と離れたのは少しの間だけのはずなのに、随分昔の様に思えてくる。
モヤがかかった朧気な記憶の様に、視界もぼやけてくる。その瞳いっぱいに溜まった涙の所為で。
「……っくぅっ、ひっく……うあぁっ……」
誰かがいることで我慢されていた涙が、押し込めていた胸の思いが、決壊して止まらなくなる。
どんなに似た空があって、似た景色があって、似た服があったとしても、ここは自分の世界ではない。今まで暮らしていた世界ではない。身体が、心が、悲鳴を上げている。“ここは違う”と叫んでいる。
(どうして私だったの……!? なんで、どうして……)
自分を責めた所で、ましてや彼を責めたって、仕方がないことはわかってる。
それでも、もどかしいこの気持は、ぶつけることの出来ないこのモヤモヤは、どうすればいい。
(どうしたら……いいの……?)
服を胸にいだいたまま、自分を強く抱きしめる。小さく嗚咽が漏れる。
ふと、かすかな風が頬を撫でた事に気がついた。窓は、確かに閉まっていた筈だ。
覚えのない風に、身体を起こす。そして、目に映った光景に、息を呑んだ。知らないうちに開いていた片方の窓。窓枠に足を掛け、こちらを覗いているのは。
「泣いてる……? 俺で良ければ、話くらいは聞くよ?」
上半身しか見えていない状態でも分かるくらい大きな獣。白銀の毛を持つ優美な虎は、金色の瞳を細めて微笑んだ――――。




