5話 魔法審問
・前回までのあらすじ!
ユキ達が炬燵作りをしてのんびりと過ごしている今日この頃。その一方でスイ達はユキの代わりに街へと向かっていた!
スイ達は移動中、先程ユキを襲ったと思われるフロストドラゴンと遭遇する。スイと赤羽はフロストドラゴンと戦闘に突入した!
戦闘は序盤からスイと赤羽の一方的な戦いが続く。連撃を打ち込むスイと赤羽、それを必死に耐えるしぶといフロストドラゴン君。だが、この戦い?にも終わりが訪れる。スイが宝物庫から取り出した‘禁呪式魔導狙撃砲マギ・カノンレーヴァテイン’の一撃により、しぶといフロストドラゴン君にも限界が訪れたのだった……
現在、ユキは9つ目の椅子を作っていた。まあ、それは置いておいて。
「なぁ。今、スイから連絡が入ったんだが…… あと5分位で街まで着くらしい」
「それで、如何したの、かな?」
「いや、気を付けておいた方が良い事ってあるのかなーって」
「まずは、言葉の矛盾に気を付けた方が良い、かな」
「例えば?」
「MPだっけ? 魔力の事だよね?」
「ああ、うん。なるほど」
ユキは記憶を辿る。1,000回の勇者達の記録を見た時に現地の言葉はすでに理解している。その時の記憶ではMPなどと言う単語は一度たりとも使われてはいなかった。
そして現在、ユキ達は元の世界の言葉で話している。今からでもこちらの世界の言葉を使い始めた方が良いだろうとユキは一人で納得し言語を切り替えた。
「と、言う訳で。喋れてるか?」
「うん、バッチリだね」
エレミリナもこちらと同じ様に現地語で話し出した。2人共、違和感なく会話できている。いや、エレミリナは元々こちらの住人なのだが……
「さて、っと」
三度、スイから刻印通話が入った。如何やら着いたらしい。そんな訳でユキ達は作業を一旦中止する。炬燵布団に綿詰め中の黄伊とベットの枠組みを作っているフウにも作業を中止させた。そのままの流れで二人を刻印化し、炬燵布団とベットの枠組みをインベントリに収納した。
「んじゃ、行きますか。“刻印転移”」
ユキは離れた場所にいるスイを意識しながら刻印転移を発動した。
◆
先に辺境にあるグァネストの街の説明をしようと思う。グァネストの街はラノマギステ公国の辺境に存在し、主に他国や魔物への防衛を担っている。
そのため、街の外縁部には巨大な防壁が備わっている。具体的には高さ25m、厚み2mと言った所だ。そして、そんな街に身分証も持たない怪しい人物が立ち入ろうとすると如何なるかと言うと……
街道らしき道に出たユキは近くなってきた巨大な建造物に目を向ける。
「無駄にデカい防壁だな……」
「ちょっと前に魔法使い達が頑張って作ったんだよ」
「ふーん、大変だっただろうな。お、並んでる並んでる」
ユキは6、7人が関所のような場所で順番待ちしているのを見つけた。遠くに場所の団体が見える。恐らく並んでいるのが彼らのリーダーなのだろう。ちなみにスイは連れていない。だって、現地語喋れないし。
と、言う訳で現在はユキとエレミリナの二人での行動だ。ミニミリナはエレミリナが取り込んだ。ちなみに原理は良く分かっていない。ユキは質問する気が無いようだ。
「あそこだろ? 多分」
「そうじゃない、かな? 多分」
二人とも結構適当である。恐らくこの関所に興味が無いのだろう。二人の意識は完全に中に向いているようだ。
ユキは伸びをしながらのんびり歩き、エレミリナは相変わらずユキの周りグダ~っとしながら漂っている。
「むっ?」
何故か衛兵が向かって来た。順番待ちをしていた数人と馬車の周りの十数人の下にも衛兵が向かっている。
ユキはその衛兵に向けて笑顔を作り問いかける。
「衛兵さん? 如何かしましたか?」
衛兵が向かって来る途中で硬直した。
「……ぁ。も、申し訳ありません……」
たっぷり数秒かけて再起動した後、居心地悪そうに狼狽える衛兵。ユキはその間もニコニコと笑顔を作って回答を待っている。エレミリナは相変わらず空中でだらけている。
ちなみに空中でだらけるエレミリナは衛兵には見えていない。理由は単純でエレミリナが顕現していないから。今のエレミリナを見ることが出来るのはエレミリナの血液を枷を破壊する時に摂取したユキ(本人は寝ていたため血を飲まされたのは知らない)と、ユキとの間に魔力的繋がりがある神刀の少女達のみだ。つまりは周囲から見た場合、ユキと衛兵の二人が会話している様に見えるのだ。
「それでですね。近隣でフロストドラゴンを見たという情報がありました。一度詰所まで避難して頂けますか?」
内心であー、あれか。と呟くユキ。だが、そんな事は顔に出さない。下手に倒したなどと発表して注目されたく無いからだ。という訳でユキは演技を開始する。
「そんな事が…… それは大変ですね。急いで避難しましょう。衛兵さん案内お願いしますね」
「はい!お任せ下さい!」
美人顔を最大限に活用した営業スマイルである。効果は抜群だ! ……冗談は程々にして。
ユキは衛兵とまったく同じ速度で並走する。無許可で関所を通り過ぎて街中に入る。走っていると周囲から避難の勧告が聞こえて来た。
ただ、悲鳴は殆ど聞こえない。恐らく避難は終わりかけか、コレが良くある事態なのかのどちらかなのだろう。途中そんな事を考えながら、速度を上げても良いかという衛兵の質問に頷きで返し、勢いを上げて詰所まで走った。
数十秒後、詰所らしき建物に到着した。周囲にはもう殆ど人がいない。恐るべき避難の速さだ。これによりユキはこの件がよくある事なんだろうと悟ったのだった。
衛兵と二人で詰所の奥まで行く。今の内に入場許可を取り付けて貰おうという算段だ。ちなみに防衛にはA級以上の冒険者パーティーと領主側近の腕利きの兵士数人が向かったらしい。
「早速、初めても良いですか? まず始めに身分証明書を見せて貰えますか?」
身分証明書。冒険者ギルドのギルド証や魔導師協会の術士証、民間の住民証、他には貴族に書いてもらう保証書などだ。
「あー……すみません。一つも持っていなくて……」
ユキが恥ずかしそうに告げる。
「それは無くしたと言う事ですか?」
「いえ、本当に何も持って無くて……」
少し衛兵の頬が引き攣った。ユキはもちろんこうなるのを予想していた。
それでも嘘を吐かないのは最初から決めていた。下手に嘘を吐いて確認でもされたら大変だし、無理して弱みを作る必要は無い。
「冒険者じゃ無かったんですね」
「如何してそう思ったんですか?」
レベルが下がった今でもユキの身体能力はかなり高い。衛兵は自分の動きを見てそう思ったのでは? と、ユキは推測した。
「いや、腰に6本もの剣を携えておられたので」
違った。如何やら見た目の問題だったらしい。羞恥で終始笑顔のユキの頬が少しだけ朱に染まった。
「いえ、その…… そこそこなら戦う事は出来ますが本職の方々にはかないませんよ」
恥ずかしがりながら謙遜するユキ。その後も他愛無い話を少しした後、本題に戻った。
「それでは私はこの街に入れ無いのでしょうか……」
そんな事は無いと分かっていて
「いえ、いえ。魔法審問を受けて頂ければ入る事は出来ますよ」
魔法審問。‘真偽’の魔法または“審議の魔眼”で悪人か善人かを見極める事が出来る。
真偽の方は相手が嘘を吐いているかまたは本当の事を言っているかが分かる魔法だ。ただ、高位の魔法師や耐性持ちには効かなかったりするらしい。
そして、もう片方の審議の魔眼。こちらは嘘を見抜く事が出来るらしい。しかもほぼ確実に欺かれる事は無いらしい。その為、大事にはこちらが用いられるらしい。今回、ユキが受けるのは前者だ。
「それではココでお待ちくださいね」
ユキは首肯した。
そして、待っている間に椅子に座る以外に何か出来ないかとユキが考え出した頃にその人物は来た。
「初めまして。この度の魔法審問を務める審問官のドレイドです」
「初めまして、ユキです。よろしくお願いしますね」
二人で向かい合いお辞儀をした。例の衛兵さんも一緒だ。ドレイドは頭を上げ、ユキの向かいの椅子に座る。
「まず、初めに審議の魔法を掛けさせて頂いても宜しいですか?」
「はい」
もちろん了承する。
「では早速。御手を……失礼します」
ドレイドはそう言って机の上に出していたユキの右手をとった。一瞬、ユキの白雪の様に真っ白い肌を見て固まった後、すぐに我を取り戻して作業を開始する。備え付けられていた筆を何かの液体に一度浸し、ユキの手の平に魔法陣を描く。筆がこそばゆくピクリと震えたユキの手に過剰反応を示しそうになるドレイド。そう、ユキは見た目は美少女なのだ。見た目は。中身は普通の高校生男子である。
そんなこんな有りながらも、ドレイドは鍛えられた職業魂でぶつぶつと自己暗示を呟きながら魔法陣を描ききる。
「ふぅ。終わりました」
その顔は達成感で満ち溢れていた。ユキもこの世界で初めてみる魔法に期待を寄せている。
「それでは……真実それは光への道。虚偽それは闇への道。真実と虚偽それは鏡写し。二つの道の先には天界と獄界が広がっているであろう。さあ、審議を以って真偽を成せ。‘真偽’」
地味に長い詠唱が終わって魔法が発動する。
だが、特に変化は訪れない。精々、掌の魔法陣が発光しだした程度だ。ユキは思う。地味だな、と。ただ、まあ、見た目にほぼ何の変化も起こらないのは魔法を解析したので分かっている。
ちなみに如何やって解析したかだが、心内詠唱(文字通り声に出さずに頭の中で詠唱出来る能力だ)を使い‘解析’のスキルを発動した。それによって詠唱、構成共に把握済みだ。
そして‘解析’のスキルだが、文字通り魔法や文字などの解析が出来るスキルだ。解析が完了するまでの間に掛かる時間は対象の魔法や文字の複雑さによって決まる。ゲーム時代はウィンドウに情報が表示されたが、転移後は脳内に直接情報が入って来る様になっている。
「コレで完了しました。それでは魔法審問を始めさせて頂きます」
「はい」
ドレイドは定型文と思われる会話を進める。ユキもそれに合わせて頷いておく。
「貴方は本当に身分を証明する物を持ってはいませんか?」
「はい」
「貴方がこの国に来た目的は?」
「魔法学校です」
ドレイドはじっと目を見つめて来る。ユキは特に嘘を吐いている訳では無いので気兼ねなくドレイドを見つめ返す。今の所、後ろめたい事は特に無いのだ。
「では、次の質問です。貴方はこの町で犯罪行為を行うつもりはありませんね?」
「ありません、よ?」
直答過ぎる質問にユキはついつい疑問形で返してしまう。それでも一応大丈夫だったようだ。
結局、その調子で幾つもの常識的な質問を受ける。こうなると知識で知ってはいてもユキは拍子抜けしてしまうのだった。




