22話 入学試験・筆記の部
ユキの天才的頭脳(笑)が光ります!
文中の『解答:○○』はユキの解答です。
ユキが公都に着いて約2週間が経った。既に魔法学校入学試験第2次試験への受験登録は済ませてある。
そして今日の日付は2月5日。つまりはその受験日である。
ユキは可も無く、不可も無くといった地味な服の上に<深黒グラシャルナ>を着込んで受験会場へと向かう。そのユキの横にはハクと黄伊が、そして一歩後ろに下がった位置でスイが付き従っている。エレミリナは相も変わらず空中で寝そべっている。
今ココいる5人の内エレミリナを除いたメンバーが学園入学組だ。ユキとスイは高等部、黄伊とハクが中等部だ。
初めはユキ・スイが高等部。黄伊が中等部でハクが初等部の予定だった。ただ、神刀の少女達の殆どがハクを一人初等部に入れる事を心配したので黄伊と同じ学年に入れる事となった。
そんな訳で2グループに分かれて試験会場へと向かう。エレミリナはユキ達の下に2体のミニミリナを残して黄伊とハクのグループについて行った。
試験は午前中に筆記試験を行い、午後に実技試験と面接試験を行う運びとなっている。
筆記試験は『社会常識』『歴史』『魔法知識』の3科目。各教科の配点は『社会常識』100点、『歴史』100点、『魔法知識』300点の500点満点となっている。
実技試験は『魔力保有量』『魔力純度』『魔力発現量』『属性適正』『各属性熟練度』『魔法熟練度(4分類分)』『魔法耐性』『魔法戦闘』8科目。この内『魔法熟練度(4分類分)』と『魔法戦闘』が100点満点。他が最大50点となっている。8科目500点満点だ。
ここまで全てが満点だと1,000点。合格目安が800点の為、優秀な者はここで受かっている。
残るは面接試験だが、10人の試験官が各自持ち点50点満点で採点する。つまりこれも500点満点だ。
最後に推薦点が最大500点で入り、合計2,000点満点の試験となっている。
これだけの数の試験があるのに結果発表が2日後だというのだから驚きだ。
試験会場に到着したユキは割り振られた席に座る。隣はスイだ。恐らく同時登録の為、試験番号が連番になっているからだろう。ちなみにユキの受験番号は『442212』、スイは『442213』だ。試験番号の始まりにある『4』は高等部受験者の事らしい。後ろの『42』は第42回という意味らしい。中等部受験の黄伊とハクは『342○○○』だった。
ユキの周囲には緊張感を漂わせている者や何やら本を読み耽っている者がいる。そんな中でやる事が無く暇なユキはスイと駄弁っている。これが見た目美少女で無ければ誰かがぶち切れていただろう。
余談だがこの試験会場、かなり強力な魔封じが掛かっている。カンニング対策らしい。魔法が使えないという事で危険に感じるかもしれないがそんな事は無い。試験官は魔封じの効果を無効化出来るアイテムを所持しているので、すぐさま対応が可能な様になっている。
ユキはこの事をそれ程気にしていない。理由は単純。やろうと思えば無効化出来るからだ。正確には魔封じの魔法そのものを破壊できる。まあ、そんな事で試験管に目を付けられたくないのでやらないが。
試験5分前を切った。ユキはスイの分も合わせて筆記用具を取り出す。如何やら宝物庫やインベントリは使えるらしい。そして新しく覚えた魔法≪時空庫≫は残念ながら使えなかった。
この二週間の間にユキはエレミリナから魔法を教えて貰っていた。教えて貰った魔法は全部で3つ。どれもこの世界で有名なものばかりだ。
一つが≪浄化≫。軽い状態異常の回復が可能な魔法で魔力消費は少ない。魔法の属性は白系統光属性の中級支援魔法だ。そこそこの実力を持っている白系統適正持ち魔法使いはほぼ全員が覚えている代表的な魔法らしい。そうエレミリナに言われてユキも覚えた。
その次に覚えたのが≪付加≫。攻撃力や防御力、走力などを底上げする支援魔法だ。どの能力を底上げするかは使用する属性で変わるらしい。例を挙げれば赤系統が攻撃力、青系統が防御力、緑系統が走力、黒系統が吸収といった所だ。難度は中級、上級、超級が存在する。噂では聖級の≪付加≫魔法も存在するとか……
そして最後が≪時空庫≫。時空属性の超級支援魔法。この魔法が使えれば超が付くほどの一流として認められるらしい。理由は簡単で、まず時と空間属性の適性を持つ魔法使いがこの世に少なすぎるから。適性の無い魔法を使う場合、魔法の難度が一段階、魔力の消費量が二段階格上げされるからだ。それでもこぞって皆がこの魔法を覚えようとするのはそれだけこの魔法のメリットがデカいからだ。
≪時空庫≫は個人所有の亜空間を作り出し、そこに物を入れて置ける魔法だ。しまってある物の時間は停止し腐ったりする事は無いらしい。≪異界創生≫を使うユキにとっては案外簡単な魔法だった。後でエレミリナに聞いた所、ユキの≪異界創生≫は聖級の上の破級、さらにその上の滅級、そのさらに上の天災級に当たるらしい。この話を聞いた時ユキはそんな魔法を何も考えず使い続けていた自分に思わずヒいた。
指定の時間になった。
教卓に試験官が立つ。試験官は威圧するように受験者を見回すと話始めた。
「これより、第42回ラノマギステ魔法学校高等部入学試験・筆記の部を始める。受験者諸君は指定の席に着いてくれたまえ」
ガタ、ゴト、ガタガタ、ガタ……
「それでは、これから試験問題と解答用紙を各自に配布する。私が「開始」と言うまで一切、手をつけるな。もし触れた者は失格とし、即時この部屋から出て行って貰う事になる。
待ち時間は試験問題の表紙にある注意事項を読んでおいてくれたまえ。質問は後に時間を取る為、そこでする様に。以上だ。それでは問題を配るとしよう」
そう言葉に合わせてぞろぞろと試験官達が動き出した。
数分後。全員にプリントが行き渡った。
ユキは待ち時間の間に注意事項を読み終えている。暇つぶしに手に持ったペンをくるくると回していた。隣のスイはそんなユキを見て微笑みを浮かべている。
「試験用紙を受け取っていないものは手を上げろ」
………。
「よし、いないな。
それでは、試験を開始する。試験時間は90分。入学試験・筆記の部……開始!」
そうして、難関で有名な試験が始まった。
◆
【社会常識】
[1]経済
Q1 銀貨より高価な貨幣を1つA~Dの中から選択せよ。
A.銅貨
B.大銅貨
C.金貨
D.ミスリル貨
解答:C
Q2 少年は単価が銅貨2枚のリンゴを3つ買った。この時、少年は大銅貨1枚を支払った釣り金は幾らとなるか選択せよ。ただし、リンゴの値段は税込とする。
A.銅貨1枚
B.銅貨2枚
C.銅貨3枚
D.銅貨4枚
解答:D
問題はマークシート制だった。最初の30問は簡単な問題が続く。
ユキはその問題を魔法の多重使用で身に着いた処理能力を使い手早く解いてゆく。その速度は高い身体能力と相まって、周囲の人間の倍速は出ている。
シュルシュルという丸を描く独特の音が試験会場に響く。参加者全員が黙々と問題を解いていく様は圧巻である。
Q79 貴族の女性がもしもの時の為に短剣を持つ意味を答えなさい。
A.夫との離別を告げる為の縁切用
B.復讐の為の暗殺用
C.緊急時に外敵から身を守る為の護身用
D.男性に襲われた時に自らの尊厳を守る為の自殺用
解答:D
…………
………
Q86 庶民の年間平均収入(前年度・公都調べ)を答えなさい。
A.金貨1枚と大銀貨3枚
B.金貨1枚と銀貨7枚
C.大銀貨8枚
D.大銀貨5枚
解答:B
ユキはCとBで悩んだ末にBを選んだ。
その時、視界の隅で座っていたミニミリナが立ち上がり、小さな手でバツ印を作って答えが間違っているのを告げてくる。その後、問題用紙テトテト歩いてCを指さした。
「Cか……」
ユキはBのマークに二本線を引いてCを塗り潰す。
それ以降、『社会常識』で間違う事は無かった。しかし、『歴史』は別である。
結論から言おう。『歴史』の問題はQ1から間違えた。Q2も間違えた。Q3からは全てミニミリナに指さして貰った。
「歴史のテスト無駄に難しすぎんだよ……」
思わずボヤいた。その声が聞こえたのか試験官の一人がユキの方向を向く。ユキはすぐさま下を向いた。
【魔法知識】
[1]魔法基礎
Q1 魔法の基本系統は赤・青・緑・白・黒である。
A.○
B.×
解答:B
Q2 魔法を使うには必ず魔力を必要とする。
A.○
B.×
解答:A
Q3 魔力は魂と密接な関係にある。
A.○
B.×
解答:A
Q4 後天的に魔法の適性を得る事は不可能である。
A.○
B.×
解答:B
ユキにとって『魔法知識』の問題は感覚的に分かるものが多かった。特に最初の魔法基礎は全て感覚的に理解できた。問題がQ51から魔法常識に変わった。こちらは一種の世間知らずに当たるユキにとって「え? そうなの?」の連発であった。
例えばQ56。
Q56 白系統と黒系統は反発する属性である。
A.○
B.×
解答:B
ここでミニミリナが立ち上がって×のポーズを取った。ユキは思わず首を傾げた。
何故ユキがBを選んだかというと、白と黒属性の合成魔法をユキが使えるからである。よくよく考えてみると対魔法とか解説欄に掛かれてた気がしないでもないユキであった。
Q78 魔力とは過剰に溜め込むと体に悪影響を与えるモノである。
A.○
B.×
解答:×
ミニミリナがまた×マークを作る。間違いらしい。
ユキはすぐに書き換えた。
Q79 魔物が使う瘴気とは魔力が不の属性に転じたモノである。
A.○
B.×
解答:A
Q80 空気中には魔力の素なる魔素が漂っている。
A.○
B.×
解答:A
Q81 白系統の最上位属性は聖属性である。
A.○
B.×
解答:A
Q82 魔法は世界を書き換えている。
A.○
B.×
解答:A
また立ち上がったミニミリナが×を作る。ユキはまたしても首を傾げる。如何やらまた間違っているらしい。マークに二本線を引いてBに書き換えた。
[4]魔法条件
Q159 術式を使用しなくても魔法は発動する。
A.○
B.×
解答:A
Q160 詠唱を使用しなくても魔法は発動する。
A.○
B.×
解答:A
Q161 詠唱と術式を使用しなくても魔法を発動する事は可能である。
A.○
B.×
解答:A
………………
…………
……
[5]魔法知識
Q201 古き時代、魔法は何と呼ばれていた?
A.マジック
B.呪法
C.魔術
D.陰陽術
解答:C
Q202 魔法を極めた者は魔導士と呼ばれる。では、その魔導士と呼ばれるに至るには何級の魔法を使用できなければいけない?
A.聖級
B.破級
C.滅級
D.天災級
解答:B
Q203 魔力を使い切ると色々な症状が出る。その中でも後遺症として残る可能性が無いものを答えなさい。
A.昏倒
B.失明
C.精神崩壊
D.体力低下
解答:A
Q204 加速の付加は何系統の付加か答えなさい。
A.赤
B.青
C.緑
D.橙
解答:C
…………………
……………
………
…
Q300 壊滅の魔法は何属性・何級の魔法か答えなさい。
A.地属性・破級
B.地属性・滅級
C.闇属性・破級
D.闇属性・滅級
解答:A
「あ~、終わった~」
ユキはペンを投げ出して机の上に項垂れる。
「もう、無理。疲れた、座学は嫌いだぁ……」
残り時間60分。ユキの筆記試験は周囲より随分と早く終わったのだった。
……余談だが、残り時間ずっとウトウトしていたユキは試験官に何度か注意をくらっていた。
以上! ユキの天才的頭脳(外付けソフト=ミニミリナ)でした~。
……これ、カンニングじゃね?




