15話 スイ、やり過ぎる。
何時もより短いです。何かごめんなさい。
「こちらが今回の依頼の報酬となります。どうぞお確かめ下さい」
そう言って差し出された小袋の中身を確認する。
「大銀貨3枚に銀貨5枚、大銅貨8枚か」
日本円にして35万8千円という大金が入っていた。あと、3回これを繰り返せば1人分の入学金が手に入る訳だ。
「あの、ところでですがパーティーメンバーの方はいらっしゃっていないのですか?」
「パーティーメンバーですか?」
「はい、そうです。報酬の受け取りは何処も不正が起こらない様に団体でいらっしゃることが多いので、不思議に思ったんですが……拙かったですか?」
聞いてはいけなかったのかと心配そうに尋ねてくる受付嬢にユキはニコリと微笑み言った。
「いえ、ソロですので……」
「えぇ!? 流石にそれは有り得ませんよ! 一人でこの量の魔物を狩ったとでも言うんですか!?」
「ええ、まあ、そうですよ」
それが如何した?とでも言いたげにユキは小首を傾げながら受付嬢に告げる。それを聞いて唖然とした受付嬢は口を開けたり閉めたり繰り返すフリーズ状態に陥ったのだった。
そして数秒して復活した受付嬢が何かを言おうとしたその時。
ガダダダダダダダダダン!!
訓練場の方から途轍もない激音が響き渡った。
「な、何だ!?」
隣で受付と話をしていた男が叫ぶ。それに合わせてギルドの中にいた人達は皆、何事だとばかりに訓練場の方を向く。
「あー…… なんか凄く嫌な予感がする」
そんなユキの不吉な呟きと同時に訓練場から冷気が漂ってきたのだった。
◆
時は少し遡る。ユキに頼まれていたお使いを終え、冒険者登録に来ていたスイは、ユキと同じような説明を受け紙に個人情報を書いていた。
「スイ、17歳、女。風車の風亭。クラスは……魔法使いにしておきましょうか」
当然の事ながら年齢17歳は嘘である。ユキに生み出せれてまだ一ヶ月もたってはいない為、本当の年齢は0歳だ。ただ、ユキの従者という立場上、同年代の方が都合が良いのでそう記載した。
それと、クラスだが流石にクラスの欄に青の神刀と書く事は仕無かった。ただ、そうなると剣士にするか魔法使いにするかでユキと同じ様に迷い、これから行く場所の事、つまりは魔法学校の事を考えて魔法使いを選択した。
「こんなモノですかね」
そう言ってスイは正面にいる登録専用窓口の受付嬢に紙を渡す。それとついでに受付嬢を睨み付けるのも忘れない。睨まれた受付嬢はスイから放たれる怒気に「ひっ!」っと後ずさる。
(な、何で私、こんなにこの人に睨まれてるの!? 何か気に障る事でもした!?)
スイがこれ程までに怒っている理由は単純で、ユキから受付嬢がヒートアップして職務を蔑ろにしたのを聞いたからだ。
(その上、ご主人様に多大な迷惑をかける何て……許せません)
スイは内心の思いを隠そうともせずに受付嬢を急かす。嫌な客である。
結局、ギルド証を発行するまで受付嬢のストレスは溜まり続けるのだった。
15時になり昨日と同じ様に集合の声が掛けられる。ただ、昨日とは違う点が幾つかあった。受験者は当然の事ながら、試験官もグレンやミスティアでは無かったのだ。
(ご主人様のメイドとして相応の結果が出せるよう精一杯頑張るとしましょう)
スイが内心で気合を入れている間に試験官3人の自己紹介が終わる。続いて試験官達は受験者側の自己紹介を求めた。
「……-い、おーーーい!」
その間もスイは思考の海に没頭しており、試験官に大声で呼ばれて初めて自分の番が回ってきた事に気が付く。
「申し訳ありません。少し考え事をしておりました。私の名前はスイと申します。どうぞお見知り置きを」
丁寧に謝罪と紹介の二重の意味でお辞儀をする。そのお辞儀は非常に優雅で洗練されたものだった。それを見た周囲の者達が感嘆の声を上げる。
少ししても全員がスイを見ており、このままでは試験が開始が遅れると思ったスイは試験官に目をやる。そして隣の人物に流し目を送る事で次に移る様に試験官達を促した。
それを見た試験官達はハッとして、すぐさま次の受験生の自己紹介を求める。さらにその様子を見ていた受験生達も順次、やるべき事を思い出していった。
自己紹介の後、ユキの時と同様に最初に近接戦闘の試験が行われた。スイは参加するか迷ったが結局は参加せず素直に魔法の試験まで待つ事にした。
そしてこちらもユキの時と同様に近接戦闘の試験の次に行われることになった。ただ、その内容はユキの時とは少し異なっていた。それでは一体、どの様な試験かと言うと……
「それじゃあ、魔法の試験を行うぞ。俺の試験は単純だ。あの魔道具(ユキが前回壊してしまった案山子だ)にお前達の最大威力の魔法を打ち込んで貰う。それを見て俺が点数をつける。な?単純だろ? よし、分かったな? 質問があれば今のうちに言っておけよ?」
普通はこの説明で質問が出る事は無いのだが、そこに一名手を上げるものがいた。スイである。だが、当然スイもそんな事は百も承知である。それでは、一体どの様な疑問を持ったかというと、
「私の最大威力で魔法を放ちますとこの訓練場が凍り漬けになりますがよろしいでしょうか?」
淡々と試験官にそんな言葉が告げられる。思いも寄らない言葉に試験官は一時呆気に取られるが、すぐに見栄を張っているのだろうと理解し軽く言う。
「まっ、そんなのはやって、俺に見せてから言ってくれや」
この時、そんな事を言ったのが試験官の過ちだったのだろう。
「了解しました。それでは、一番は私でよろしいでしょうか?」
スイはそう言ってぐるりと他の受験生(と言っても二人だけだが)を見回す。そして二人が頷いたのを確認し、前に数歩進み出た。
「ふぅ……それでは行きます。
―――〝我、氷の女王にして最強の魔導師。全ての事象を捻じ曲げ氷の世界へ誘う魔女であり、万物を屈服させる魔導師なり。
集え氷の精霊達よ。今、此処に我の意思を反映し具現化する。炎も光も闇も時も空間さえも凍てつかせろ。
氷魔の世界へ誘え"‘絶対零度’!!」」
詠唱が完了し氷魔法‘絶対零度’が発動する。
変化は劇的だった。スイを中心に冷気が荒れ狂い、一瞬にして周囲を満たす。
「な、何だ!? さ、さむ、寒い!?」
「〝凍てつき、覆い尽くせ"」
さらにスイが発動のキーとして設定した呪文を唱える。すると、それに呼応するようにスイの足元から氷が広がり30秒も経たない間に地面や壁、さらには天井までも覆い尽くす。唯一凍っていないのは訓練場にいた人々の足元と案山子だけだ。
そして、当然の事ながらスイの魔法はこれだけでは終わらない。その為、スイは第二の発動キーを口にする。
「〝槍と化せ"」
呪文通り周囲の氷から氷槍が出現する。ただし、その数は十や二十などと生易しいものでは無い、五百や千といった数の氷槍だ。当然、そんなものを叩き込まれれば如何なるかと言うと、
「〝放て"」
スイの口から破壊の言葉が紡がれ……一斉に氷槍が射出される。
ガダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダン!!
轟音が響き渡り、砕けた氷槍が氷の礫となって辺りに飛び散る。そして、その様な事になると怪我人が続出するのは想像に固くないだろう。
「「「うわあああああああああ!!」」」
何人かが飛んで来る礫への恐怖で悲鳴を上げる。だが、この様な事になるのはスイも分かっていた。その為、しっかりと対策を用意していた。
「〝氷壁"」
第四の発動キーを紡ぐ。ただ、それだけで周囲の人々を守る様に氷の壁が瞬時に形成された。
氷の礫は周囲の者の直前で割り込んだ壁に激突し停止する。数秒し、礫が収まるとスイは最後の発動キーを唱えた。
「〝消失"」
パンッとスイが手を叩くと同時に呪文通り氷は消え去るのだった。




