14話 決闘! そして演技が白々しい。
街に入ったユキは通りをぶらついていた。その行動に特に目的は無い。スイと合流するまでの時間潰しだ。
合流した後、宿に戻ったら鞘の魔道具化と『神刀の王』の特殊能力に使う刻印を量産する予定だ。
その量産しようとしている刻印だが、色々な事に使える。例を挙げると“刻印転移”や“刻印通話”“刻印疎通”などがそれにあたる。
“刻印転移”ならポイントを設置するのに最低でも刻印を1つ消費するし、転移を発動する時にも転移ポイントに設置した刻印の属性の内の1つを消費する。
ちなみに神殿には赤と燈(茶)属性の刻印をグァネストの街には赤と白属性の刻印を設置している。フロストドラゴンから逃亡する時の転移に使ったのは燈の刻印だ。グァネストの街に向かう時に使ったのは赤の刻印だ。その時は赤羽を起点に発動した。
そんな訳で宿に戻れば幾らでもやる事はあるのだが、延々と同じ作業を繰り返す事になると分かっているから憂鬱で戻る気になれないのだ。
「あー、暇だー」
そして今の現状をユキのその一言が如実に表しているだろう。結局、何にも考えず適当にブラブラしていると遠くから喧騒が聞こえて来た。
「ほぅ。事件の匂いがするぞ?」
冷やかし成分100%でユキは様子を見に行く。
「おー、やれやれ!」
「負けんなー! レギウス!」
「ほぅら、もっとだ! もっとやれー!」
「頑張れー! エボイドー!」
ユキが人ごみを分けて覗いて見ると広場で二人の男性が戦っていた。片方は武器に槍を持った40代くらいの男性で、もう片方は長剣を握っている。容姿を見るに10代後半といったところだ。
「うぉら! ‘スマッシュ’!」
「ぐぉ!」
長剣使いの男が長剣を振り下ろす。槍使いの男は握り部分で受け止めて、長剣を無理やりいなす。観客には上手にいなした様に見えただろう。
だが、ユキはしっかりと槍を持つ手が震えているのを確認していた。恐らくもう一撃入れられたら武器を落としてしまうだろう。
それでも槍使いの男は震えた手で槍を握りしめる。彼もあと数発しか打ち合えないと悟っているのだ。
「はぁあああ! ‘二段突き’ィイイ!!」
気合の乗った武技が発動する。連撃で右肩、左腿と順に突く。長剣使いの男は一撃目を弾いた後、二撃目を回避する為に後ろに跳び退く。
「届ぉけぇぇええええ!」
「ぐッ!?」
はたして……槍使いの男の渾身の一撃は届いた。
ただ、狙い通りにはいかなかった様で、狙っていた左腿には命中せず、その代わりに左膝を穿った。跳び退いた長剣使いの男は着地し片膝を着く。
どちらも手負いの体で恐らくあと一撃で勝負が決まるだろう。それは二人にも分かった様で、結果二人は睨み合い――何方ともなく動き出す。
「「うぉおおおおおおお!!」」
槍使いの振り下ろしと長剣使いの切り上げがぶつかり、両者の武器が持ち主の手から弾き飛んだ。長剣は地面に叩き付けられて転がり、槍は宙を舞う。
そして、クルクルと回転しながら宙を舞う槍の行き先にはユキがいた。
「えー…… なんつーテンプレな展開だよ……」
ユキは言葉通りあまりのテンプレ的展開に思わずボヤく。ボー、と飛んで来る槍を眺めながら如何すれば面白そ……ではなく、如何すればユキが美味しいおもいを出来るか考える。
一瞬の思考の果てにユキが辿り着いた答えは……
「きゃあッ!?」
左手を顔の前に掲げ、身を守る様な体勢を取る。それに合わせて尻もちを着き、如何にも対応できずに固まってしまった……という態度を取る。これで後は飛んで来る槍を待つだけだ。
ユキが小芝居を打っている間にも槍はユキに近づいている。
そして、ユキにぶつかる寸前で消滅した。まるで槍など元々無かったかの様にだ。
「はっ?」
誰が呟いたのかは分からないが、その一言が現状の皆の困惑具合を表していただろう。
酷く間抜けな声だが、思わずそんな声を上げてしまうのも仕方が無いだろう。
事情を知らない人間からすれば、決闘を行っていた二人の最後の打ち合いで武器が少女目掛けて飛び、少女は驚いていて避けられる素振りは無い。そんな状況だ。その場にいた全員が少女が悲惨な目に合う事を想像しただろう。
だが、現実は違い少女の手前で槍が消滅したのだ、最後の一コマだけがすげ替えられた紙芝居の様な違和感たっぷりの状況に誰もが唖然とするだろう。
そんな中、ユキは白々しくも来るべき痛みが来なくて驚き、目をパチクリするといった演技を行っている。本当に白々しい。
しかも、妙に演技が上手いのが事情を知っている者のイライラを加速させるだろう。本当の、本当にこの場に事情を知っている者が居なくて良かったと思う。もし、居たらユキに丸五日は白い目を向ける事だろう。
それと消滅した槍だが、実際は槍が消滅したのでは無い。ユキに当たる直前でインベントリに収納しただけだ。少し高価そうな槍だったので、迷惑料として貰っておこうと思ったのだ。
これが、ユキのする美味しいおもいの正体だ。やられた側はたまったモノではない。
更に、もし男がユキに因縁をつけて来た場合の事も考えている。その場合は決闘に持ち込んで身ぐるみを全て剥いでしまうつもりだ。考えが下種である。
「えっ? えぇ?」
如何いう事? とでも言いたげにユキは周囲を見渡す。それに呼応して固まっていた人々も動き出した。
「すみません!大丈夫ですか!?」
「うぇ!? え、あ、はい。大丈夫です、よ?」
「本当に大丈夫なんですか?」
そう言って槍使いの男はユキの周囲をくるくると回って怪我が無いか確認する。そして、ユキの演技が白々しい。
まあ、それは置いておくとして、ユキは槍使いの男の手を取って立ち上がらせて貰う。その後、腕や足を見回し怪我が無いか確認するフリをする。
「はい、大丈夫そうです。ありがとうございました」
そう言ってチョコンとお辞儀する。ちなみに最後の一言には武器の事も含まれていたりする。
「ほっ…… 可愛らしいお嬢さんに怪我が無くてそれは良かったです。よろしければこの後、お詫びに食事でも……」
だが、事態はユキの想定外の方向へと向かいだす。槍男がサラッとナンパしだしたのだ!
流石にあの一瞬でナンパしてくる可能性までは考えておらず、ユキは想定外の事態に困惑する。
「へ? えと、あの」
「いえいえ、大丈夫ですよ。勿論、お代は私が持ちますよ。何か苦手なものはあったりしますか?」
ユキがあたふたしている間にも男の猛攻は続く。ただ、救いの手は予想外の方向から差し伸べられる。
「親父! やめろ! そんな年端のいかない子を口説いて如何するつもりだ? それ以上やると母さんに言いつけるぞ」
「ぐっ……」
どうやらこの二人家族だったらしい。ユキが内心で「似てない」やら「俺は17歳だ」などと如何でも良い事を考えていると、長剣使いの男がユキに向かって頭を下げた。
「申し訳ない! この馬鹿親父が迷惑をかけた。本当にすまない」
「あ、はい。大丈夫ですよ?」
かなりの大声にユキは思考の海から引き戻される。ハッとしながらとっさに返事をするが、その所為で疑問形になってしまった。
「お詫びに何かしたいのだが、何か希望はあるか?」
その言葉にユキは身構える。
「ああ、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。本当に純粋なお詫びだよ」
「いえ、本当に何事も無かったので大丈夫ですよ。それより、お友達との待ち合わせがこの後、すぐなのでそろそろ行かせて貰ってもよろしいでしょうか……」
長剣使いの男が予想外に良い人すぎてユキは、良心の呵責に耐えられなくなりその場を逃げ出したのだった。
◆
決闘の場から逃げ出して数分後、ユキの姿は冒険者ギルドの中にあった。時刻は15時半といった所だ。
その位の時間になると仕事に出ていた冒険者たちもチラホラと帰って来ている様で、3つある窓口が全て埋まり更に5人程の列が出来ていた。
依頼の報告をするつもりのユキも当然その後ろに並ぶ。
1人、2人と前の冒険者が少なくなっていき、気が付くとユキの順番が回って来る。
そして受付嬢が次に順番待ちしていたユキを呼び、その顔を見て安堵の表情を浮かべる。そう、ユキの番に回って来たのは偶然にも朝の受付嬢だったのだ。
「お待たせしました。依頼の報告ですか?」
「ああ、はい。そうなんですよ」
「それではギルド証の提示をお願いします」
ユキは“深黒グラシャルナ”の右ポケットからギルド証を取り出し、受付嬢に渡す。少しして、確認が終わったギルド証が返却された。
「受領中の依頼は【ホワイトウルフ討伐】【スノウマン討伐】【ニードルラビット討伐】【ホワイトモンキー討伐】【ホワイトミスト討伐】【ミル・アルミラージ討伐】でしたね。
ところで、初の依頼は如何でしたか? 大丈夫でしたか? 怖くはありませんでしたか?」
受付嬢のあまりの心配ぶりユキは苦笑しながら「大丈夫でした」と告げる。それを聞いて受付嬢は胸を撫で下ろして微笑を浮かべた。
「それは良かったです。あ、ギルド証をお返ししますね。……それでは討伐証明部位の提示をお願いします」
ユキは受け取ったギルド証を右ポケットにしまい、代わりに左ポケットから大量の、数にして百を超える討伐証明部位の入った袋を取り出した。余談だが袋の中身は分かりやすいように小袋で小分けされている。
「こ、これは……」
袋の中を見て上擦った声を上げる受付嬢。それでも流石と言うべきか、すぐに復帰して討伐証明部位の鑑定を始める。
数分後、確認が終わり依頼の達成報酬と討伐証明部位の売却額が支払われた。
そして当然の事ながら百を超える数の売却額と依頼の達成報酬を足せば額はそれなりの額になる。
「大銀貨3枚に銀貨5枚、大銅貨8枚か」
こうしてユキは一日で日本円にして35万8千円というかなりの額を手に入れたのだった。
この間、学校のテストの結果が返ってきました。国語89点、数学100点、英語86点でした。
この結果だけ見ると英語が悪く見えますが最も酷いのは国語でした。何故かというと………なんと!国語の中のある分野だけがCランク評価だったのです! あ、A、B、Cの三段階評価です。
そして、その分野と言うのが『敬語』でした。0/6です。全滅です。見ててよく89点も取れたなって思いましたよ、えぇ。
まあ、それは置いておいて。私は思いました。
あれ、敬語苦手なのに小説書けるの? と。
………色々と手遅れな私ですが助言や誤字、脱字の報告などなど、読者の皆様に支えて頂ければ幸いです。他力本願? えぇ、その通りですとも(開き直り)




