12話 討伐依頼【ホワイトウルフ】
少し短いかも?ほんの少しだけど。
一晩、明けて次の日。ユキは宿で遅めの朝食を取った。そして朝食を食べ終えた後、街に繰り出していた。メンバーはユキ、エレミリナそしてスイだ。言語関係については昨日の夜、色々試行錯誤した結果―――特殊能力“刻印疎通”で解決された。
“刻印疎通”は所謂『念話』の能力だ。そして、ユキがエレミリナから渡された記録は何時でも何処でも頭の中で本を開くような感覚で思い出す事が出来る。
これを利用して、ユキはそのイメージを凝縮し“刻印疎通”を五重で発動――ブーストして使い、スイに送り込んだのだ。
ただ、それでも一度に全てを送り込む事は出来ず、夜通しで送り込み続けた。にも拘らず記録のコピーは百分の一程度しか進まなかった。
そして結局ユキは数十万単位であった魔力を全て使い切りへとへとになって眠ったのだった。
ただ、百分の一だけでも記録をコピーした事によって、スイは異世界の言葉が使える様になっていた。
五大国の内、ラノマギステ公国とエハルド神国、エベルゲン王国で使われているメゼルラ語。フェルニア王国、リトネア帝国で使われているリゼネラ語。共にネイティブな発音が可能である。
他にもエルフのエルフェネーラ語に獣人のミードロイラ語、ドワーフのゲルノストラ語などなど多種多様な言語が使える。余談だが、五大国にいる人間以外の種族は大体が母国語と所属国の二つの言語を覚えていたりする。
(閑話休題)
――そんな訳でユキは冒険者ギルドで依頼を探しに、スイは昨日のユキ同様登録に向かっていた。
「凄いですね、ご主人様!」
宿からギルドへと向かう途中の道でスイは異世界に浮かれていた。色々なものが気になる様でフラフラとしていて危なっかしい。
「何と言うか…… 何時もの三倍くらい好奇心旺盛だな」
ユキは目を輝かせてワンピースの裾をはためかせながら周囲を見て回るスイを見て呟く。ゲームの頃は事務的なやり取りが多かったが此方に来てからスイは他愛もない話を良く喋る様になった。言い方を変えるとシステムやプログラムから外れた。一人の個となった。といった所だろう。
何故だかよくは分からないがユキはそれを嬉しく思ったのだった。
◆
ギルドに着いてから二手に分かれた。ユキは依頼の張り付けられている掲示板へ、スイは登録窓口へだ。エレミリナはスイに付いて行った。と、言うよりもユキがスイのフォローをお願いした。心配はしていないが文化の違いで失敗しない為にだ。実際スイの能力は全般的に高い。その中にはコミュニケーション能力も入っている。そう考えるとユキの方が問題があるのかもしれない。
掲示板の前で依頼を一つ一つ見て回る。採取依頼に討伐依頼、魔物の素材収集や解体の依頼、お手伝いや荷物運びなどの依頼もある。
数ある依頼の中からユキが選んだのは……
「え、えっと、依頼は【ホワイトウルフ討伐】に【スノウマン討伐】【ニードルラビット討伐】【ホワイトモンキー討伐】【ホワイトミスト討伐】【ミル・アルミラージ討伐】ですか? あの、これだけの量を一度に受けるんですか? それに全てCランクの依頼ですし、失敗した場合、依頼達成時のポイントの半分が減点になりますよ? それだけでなく命の危険もありますし、ホントのホントの本当に大丈夫なんですか?」
全部討伐依頼だった。更に職員さんを困らせるというおまけ付き。今回ユキはPtまたは達成報酬の金額が高めのCランク依頼を選んだ。昨日体を動かしてみてCランク程度の魔物なら恐らく大丈夫だろうとユキは見ている。
ちなみにフロストドラゴンだが討伐難易度はS+ランクとなっていた。この難易度はSランク冒険者5人とSSランク冒険者1人のパーティーで適正という意味らしい。討伐難易度の誤差は+や-の数で上位ランクまたは下位ランクが何人で適正かを表しているらしい。つまりAA--だとAAランク冒険者4人とAランク冒険者2人という意味で、AAA+++だとAAAランク3人とSランク3人という意味だ。
今回ユキが受けた依頼は全てCランク。つまりはCランク冒険者6人で適正という事だ。ユキのステータスはBランクのグレンの5~10倍。俊敏値に至っては20倍近くある。手数で押すタイプという事も合わせて見て問題は無いだろう。
更に魔力保有量無限化によって魔力が大量に貯まっている。具体的には十数万くらい。氷結刃で換算すると2,000発分だ。依頼は各種十体ずつで計六十体。多く見積もって一体に付き10発の氷結刃を使うと考えても1,400発もお釣りがくる。
普通に考えて問題があるとすればそれだけの数の討伐証明部位を持って帰る必要がある事だが、ユキにとってはそれほど問題にはならない。全てインベントリに収納して持って帰るので量はあまり関係ないのだ。問題があるとすればインベントリに収納する事で“深黒グラシャルナ”の重量が少し増す事ぐらいだろう。
「大丈夫です」
故に断言する。この程度の依頼で如何にかなるユキではない。
「……分かりました。ですが、魔物は大変危険な生き物です。準備は万全に整えて向かって下さいね。出来れば強い方と組んで向かうと尚良しです」
職員はユキの事がよほど心配らしく、まだ言い足りないという目をしていたがユキの後ろに他の冒険者が並んだのを見て諦めた。職務に忠実で何よりだ。
職員はユキからギルド証を受け取って一度奥に向かう。そこでユキのギルド証を書き込み用の魔道具に乗せ、依頼書を書き込み用魔道具に一枚一枚入れる。全て入れ終わると文字盤を操作して魔道具を起動する。すると魔道具の一部が発光した。
(プリンターみたいだな)
ユキが抱いた感想通りプリンターとやっている事は大して変わらない。違うのは書き換えが出来るのと電気で無く魔力で動いている二点だけだ。少しして発光が収まると職員はユキのギルド証を持って戻って来た。
「依頼の期限は全て7日間となっております。お気をつけ下さい」
ユキは受け取ったギルド証に魔力を込めて文字を浮かび上がらせる。プレートを裏返し【受注中依頼】の項目を見ると、そこには今受けた6つの依頼が書かれていた。
「さてっと。行くか」
何の気負いも無くユキは討伐に向かった。当然の事ながら生息地域や討伐証明部位などは調査済みである。
◆
指先に魔力を集中する。その過程で無属性の魔力を黒の属性へと変化させ、変換された魔力で空中に魔術陣を描く。∞の様な魔術陣を9つ程描き終え、発動直前で待機状態にした。これでユキが魔術名を唱えれば魔術が発動する訳だ。
今、ユキは樹上で5匹のホワイトウルフ相手に奇襲をかけようと息を殺してスタンバイしていた。と、言ってもずっと待ち伏せしていた訳では無い。
適当にホワイトウルフとホワイトミストの生息地域を歩き回っていると偶々ホワイトウルフ5匹の群れに出くわしたのだ。ただ、出くわしたと言っても気が付いたのはユキの側だけで、ホワイトウルフの群れはユキに気が付いていない。ユキはそれをいい事に気配を消して先回りして、今に至ると言う訳だ。
やがて先頭のホワイトウルフがユキの発動待機状態にしている魔術の範囲内に入った。そしてそれに続く様に続々と残りのホワイトウルフも範囲に入って行く。最後の1匹が効果範囲内に入った瞬間にユキは魔術を発動した。
「黒魔術じゃなくて、こっちでは黒魔法だったな。‘ダークチェーン・バインド’」
そう言って黒魔術(こちらの世界では魔法も魔術も魔導も全て魔法と呼ばれている。)ではなく黒魔法‘ダークチェーン・バインド’を発動した。すると、描かれていた魔法陣は消え、魔法の効果が現れる。
「「「「「キャウン!?」」」」」
降り積もる雪の中から的確に黒い鎖が出現して1本が首と前足に、もう1本が後ろ足に絡みつき地面に縫い付ける。1匹だけ鎖が足りず後ろ足しか拘束されていないが即座に動く事が出来ないという意味では同じだ。
ユキはすぐさまその1匹に狙いを定め樹上から飛び降りる。その手にはすでに“月鏡刀”が握られており明確な近接戦の意思を見せている。
ここで余談だが、“月鏡刀”はユキの腰に携えている6本の刀の内の1本で他に“火月刀”“水鏡刀”“暗風刀”“純土刀”“鈍暗刀”の5本が在る。各刀ごとに長さと適応属性が変わり、“月鏡刀”はその中でも一番の長さで光・白・聖の属性の長刀だ。具体的には刀身で1m20㎝を超え、柄も合わせると1m50㎝を超える。そして実はユキの身の丈より長かったりする。
その為、抜刀するのにも一苦労で、一々剣帯から外し、両手を目一杯使ってやっと抜ける。流石にそれでは戦闘中不憫なので、普段は鞘を残してインベントリに刀だけを『収納』し、持ち手に『排出』するという方法を取っている。
(閑話休題)
「‘閃剣・雷’!」
紫電を纏いながら高速で落下しあらゆるものを貫く武技。ユキはそれを発動してホワイトウルフの首と胴を別つ。確実に仕留めた手応えを感じたユキはすぐさま次の獲物へと向かう。
まだ、どのホワイトウルフも鎖から抜け出せてはいない。それどころか一瞬で仲間が1匹殺され混乱が加速してしまっている。だが敵が立て直すまで悠長に待ってくれる筈も無く……
「‘疾剣・一糸’」
1匹、また1匹と狩られていったのだった。




