8話 冒険者ギルド登録 Ⅲ
ユキはエキサイトした女性職員に躊躇無く一撃を入れた男性職員を見て固まっていた。
「えーっと…… その人、大丈夫ですか?」
「……非常に残念だが……此奴はもう……手遅れだ」
首筋に手を当てた男性職員の思わぬ一言にユキはギョッとして女性職員に向けて‘識別’のスキルを発動した。
それによって女性職員の情報が流れ込んで来た。女性職員の名前は「ファルナ」、レベルは「28」、年齢は「21」、種族は「人間」、職業は「冒険者ギルド:グァネスト支部職員」、クラスは「無し」、技能は「業務」「経営」、特性は「無し」、特殊能力も「無し」、加護も「無し」、称号も「無し」、魔力は「40/40」、闘気が「40/40」そして状態異常が「気絶」となっていた。ユキは最後の表示を見て、ホッとする。
「ハハッ、焦るな焦るな。手遅れなのは此奴の頭の中って話だよ」
ユキは男性職員の質の悪い冗談にハァっと溜息を吐いた。
「おっと、俺はもう行くな。此奴を奥に運ばないといけないし。まだ、仕事も残ってるし。ココにいたって事は嬢ちゃんの方はこれから試験だろ? 頑張ってなー」
「あー、はい。職員さんもお仕事頑張って下さい」
「おう! じゃあな!」
男性職員は言うやいなや、女性職員を担ぎ上げて奥へと消えていった。その場に放置されたユキは取り敢えず訓練場に向かう事にした。
◆
ユキは訓練場の端にフードを被って座り、先程‘識別’を使った時の事を思い出していた。
(あれは如何いう事だ?)
ユキは流れ込んで来た情報が今までと違った事に思わず首を傾げる。女性職員に‘識別’を使った時と転移前のプレイヤーに使った時との相違点が幾つもあった。
特に変わったのが「職業」だ。元の世界での「職業」は戦闘に関するクラスの事だった。だがこちらの世界では本当の職業の事になっている。代わりに元の世界での「職業」は新しく「クラス」となっていた。
他にもステータスの表示からHPやMP、ATK、DEF、SPDといった様な表示がすべて消え、魔力の一つだけになっていたり。属性適性や弱点属性、武器特性などの表示が無くなっていたりする。
その他にも多数変わった所はあるのだが、ユキはそれよりも原因の特定を最優先にする事にした。
「と言う訳で、エレミリナ。キリキリ吐け」
「如何言う訳なんだい!?」
ユキは‘識別’の表示が変わった事をエレミリナに素早く簡潔に説明する。
「そういう訳で……俺に何しやがった」
「うーん。理を捻じ曲げて、身体の造りを変えた位しか心当たりが無い、かな」
さらりと爆弾発言をしたエレミリナに怒鳴り散らしそうになるのをユキは必死に堪えた。今ココで吠えたら、一人で怒鳴り散らす可哀相な人として見られてしまう。
「……明らかにそれが影響してるな。本当に人の体に何してくれてんだか……」
ユキはあまりの出来事に頭を抱えて蹲る。
「まず、やったのは魂の定着、かな。ユキ、君の存在ってすごく不安定だったんだよ」
その後もココが大変だったとか、あれで神力を大量に消費しただとか、ユキは自分が怒っている筈なのに愚痴られ続ける。
そして最後までエレミリナの愚痴を聞いて分かったが、特に大事なのは三つだけだった。
1つ目は、ユキの理を捻じ曲げた件だ。それでユキの能力や魔法などの効果がこちらの世界に合わせたモノに変わったらしい。
2つ目は、身体の造りを変えた件だ。これにより、基礎運動などでレベルアップせずとも多少だが能力値が上げられるようになったらしい。もちろんHP――体力や魔力の最大値もだ。
最後は、枷を破壊した件についてだ。エレミリナに聞いた所によると、全ての枷には役割があって、破壊した枷の役割には制限が無くなるらしい。例えば4つ目の枷は「成長」だった、そしてコレを破壊されたユキは限界無く成長し続ける事が出来る訳だ。ただ、枷の破壊には見合った器を持っていないと反動が発動するらしい。今回は「成長」の反動で「退化」した訳だ。
「なあ、枷の破壊って神なら誰でも出来るのか?」
「一応出来るよ。ただね、枷の破壊っていうのは自分の神格の一部を分け与える必要があるから枷の破壊をする神は滅多にいないんだよ」
神力を大量に消耗して疲れたとぼやいていたのには意外な背景があったらしい。この話を聞いてユキは、エレミリナは本当にそれで良かったのか気に成った。
ただ、この話は聞いても良い事なのか、エレミリナにとってあまり触れてほしくない部分の可能性もある。ユキは数秒間の黙考の後、自分に関わる事なので自分は知る権利があると自分を納得させ質問する事を選んだ。
「お前は良かったのか?」
「何がだい?」
「自分の神格を俺に渡したりして、だ」
「緊急事態だしね。仕方ないよ」
エレミリナが肩を竦めるのを見て、ユキは一言、そうかと呟き目を伏せた。目を伏せる直前、ユキの目に映ったエレミリナは何処か悲しげな雰囲気を纏っていた気がした。
それから、3時の鐘が鳴り訓練場に試験の監督達が来るまで、二人の間には嫌な沈黙が流れたのだった。
◆
訓練場に試験官達が現れた事で子供達が集まって行く。それを見て、ユキも腰を上げた。
「さて、俺も行くか」
「うん、頑張ってね」
試験官達の集まれーと言う声を境に二人は沈黙を破る。まだ、間に流れる雰囲気はギスギスしていたが幾分かマシになった様だ。
ユキ達は集合を掛けていた試験官の下に向かう。すると、如何やらユキが最後の受験者だった様で皆の視線がユキに向いていた。その中には先程の兄妹――ローネアとガレルの姿も見える。
「よっし! お嬢ちゃんで最後だな」
そう言って試験官の内の一人のがたいの良い男がユキの頭を撫で繰り回す。ユキは男のその行動にムッとして手を払い退ける。
ただし、ムッとしたのは手が重かっただけであって、決して女性と間違われて不愉快になったとか、子ども扱いされてムカついたとか、背が低いのを強調されてイラついた訳では無い。無いと言ったら無いのだ。
「やめろ。俺は女でもないし子供でも無い。不愉快だ。氷漬けにするぞ」
「おうおう、怖いね~」
「こらダイル! 子供相手に喧嘩吹っ掛けないの!」
「だから、俺は子供じゃねぇ……」
もう二人にはユキの声は届いていない様で、試験官二人の痴話喧嘩が始まった。ユキは溜息を一つ吐き、傍観に徹している最後の三人目の試験官を見た。
「止めないのか?」
「えぇ。二人の痴話喧嘩は見ていて面白いですから」
ユキは試験官の性根が腐っている様な人間が言いそうな一言に思わず顔を顰めた。
「今、僕の事『性根が悪そうだー』とか思ったでしょ?」
ユキはその一言を聞いて、心底嫌そうに眉根を寄せた。そのまま、こめかみの辺りをグリグリと解しながら試験官からゆっくり距離をとる。
「おやおや、嫌われてしまいましたね」
「あの言い方で嫌われないと思っているお前の方が可笑しい」
「あはは、ごもっともです」
そう言いながら、試験官は流石に看過出来ないレベルになってきた痴話喧嘩を止めに向かった。
性根の悪そうな試験官による喧嘩の仲裁が済んだ後、試験官の三人は何事か少しだけ話しをしてこちらを向いた。痴話喧嘩していた二人の顔付きがまじめなものになっているので恐らくは試験が始まるのだろう。
「それでは試験を始めます。最初の試験は近接戦闘の試験です。試験官はグレンさんです」
試験開始を告げた性根の悪い試験官が一歩下がり、代わりにユキを嬢ちゃん扱いした男の試験官が前に出る。
「今回の登録試験で近接戦闘の試験官を務める事になったB級冒険者のグレンだ。よろしくな」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
ユキ以外の全員が挨拶を返す。ちなみにその頃、ユキは欠伸を噛み殺していた。突然の欠伸の為仕方ないとは言え態度としては良ろしく無い。恐らく原因は慣れていない野外での睡眠だろう。
「よっし! それじゃあ、近接戦闘の試験を受ける奴は俺について来い」
「「「はい!」」」
その声に6人が反応した。如何やら試験を受けるのはユキとガレル、そして声に元気な返事を返した6人の様だ。ちなみにその頃、声に反応しなかった二人だが、ユキは眠たそうに眼を擦り、ガレルは無言でムスッとしていた。
ユキ達――近接戦闘の試験受験者はグレンの後ろに続いて訓練場の中央に移動する。中央でグレンが振り返ってユキ達の方を向いた。
「1、2、3、4、……8人か。よし、誰からやるかの順番を話し合いで決めろ。試験はそれからだ。あと、お前とお前。お前達は最後に回れ」
グレンの言葉により、ユキとガレルに視線が集まる。ユキは取り敢えず頷いておいた。ガレルは面倒くさそうに、手をぱっぱっと振る。他の受験者達は不思議そうな顔をしたものの、すぐに自分の順番の方を意識しだし話し合いを開始した。
「ふわぁ…… 暇だな」
「そうだな」
二人がのんびり過ごしている間に中央での話し合いは徐々にエキスパートして行く。ユキは止めないのか?とグレンに視線で問いかけると、グレンは肩を竦めて試験官の二人を連れて何処かへ向かって行った。ユキがそれを目で追い、行き先を予測した結果、三人は如何やら隅に置かれた練習用の武器を取りに行った様だ。まあ誰が見ても一目瞭然なのだが……
「俺が最初にやるんだ!」
「ふざけるな! 俺が先だ!」
「私は最後で良いです」
「ずるい。最後は私が……」
ユキが中央に視線を戻すと四人の子供達が最初と最後を取り合っているらしい。残りの二人はオロオロしている。
「ほら、お前ら決まったか?」
そうこうしている間にグレンが戻って来ていたらしい。両手には剣が一杯に詰まった缶が一つと槍が一杯に詰まった缶がある。後ろの試験官二人も杖を詰めた缶と盾を詰めた箱を一つずつ運んで来ている。
グレンはごとっと缶を4つ横に並べてユキとガレルとオロオロしている二人に好きな武器を選ぶように言う。
「まだ、決まりそうに無いな」
ユキがチラリと激論している四人を見て言う。
「そうみたいだな。まあいい。お前からやるか」
「「なッ!?」」
激論していた二人が驚いた様にこちらを向く。指名された子も更に慌てふためいている。その後もグレンが勝手に六人の順番を決めて行ったのだった。
すみませんでした! 予告詐欺です。戦闘まで行けませんでした……




