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現代遠野物語 2.猫の生まれ変わり

作者: 畠山憲昭

十七年生きた猫に死に間際、二、三不思議な事が起こりましたので、元気な頃のエピソードと共にちょっと書き残しておきたいなあと思いました。

今から二十数年前、東京でアパート暮らしをしていた妹が ある日突然に子猫を二匹持って来た。

JRには客車にペットを持ち込んではいけない規則が有るらしいが、車掌さんに見つからない様にうまくごまかすのに苦労したとか何とか言いながら・・・


私の所は田舎の一軒家なので猫は何匹いても構わないのだが、世話の事を考えると一匹以上は余計なのだけれど、元来が動物好きの私の性格を考えて、予告無しにいきなり持って来ても何とかなると計算しての事だろう。

妹の話ではアパートの隣の部屋の住人が大家に内緒で猫を飼っていて、その猫が時々妹の部屋に遊びに来ていて そのうちに妹の部屋の中で七匹もの子猫を生んだんだそうな・・・。

猫好きの妹はあちこちと里親探しをして五匹までは引き取り手を見つけたのだが、この二匹だけはどうしようもなくて実家に持ってきた様な事を言いながら・・・どこまで本当の話しなんだか・・・。


母猫が真っ白なので子猫も七匹全部真っ白だったみたいなのだが、もともと雑猫の系統だから ようく見ると部分的に黒色や茶色のトラ模様がうっすらと付いている。二匹とも尻尾に難が有り 一匹は途中で短く切れていて、おでこのあたりにちょうど眉毛のような黒い点々模様が付いている。これを公家くげ猫と言うんだそうな・・・。

もう一匹の方は尻尾がくの字に曲がっていて、頭のてっぺんの辺りにだけ茶トラ模様が付いてる。だから貰い手が付かなかったのだろうが、二匹ともオスなので子猫を生んで増えていく事は無いからその点は心配しなくて済む。


二匹の動作を見ていると兄弟の上下関係が見えてくる。

尻尾の短い方の猫はいつも尻尾の曲がった方の猫に甘えるように付いて歩いて、寝る時もペタっと寄り添うようにしている。

尻尾の曲がった方の猫は落ち着きがあり威可にも兄貴、と言うようなおっとりとした動作がある。

飼うからには名前を付けなければ不便なので付ける事にした。

昔かってたメス猫はチャコと言う名前だったので、この兄貴猫もチャコと付け様としたのだがオスなのでチャーにして呼ぶときは「チャー公」と呼ぶことにした。

弟分の公家猫には面倒なのでチャー公を反対にして「コチャ」と付けた。

兄貴分のチャー公は頭も良かったのだが、弟のコチャはどうも動作も馬鹿っぽく 外に出て道を横切ったりする時などは危なっかしくて、左右安全を確かめないでそのままふっ飛んで行く・・・。

こいつは何れは車にはねられるかも知れないなあ、と思っていたんだけれども うちに来てから1年ぐらいした頃にやはりはねられて死んでしまった。朝の6時ごろだった・・・

車にはねられる30分ぐらい前に私の枕元で何度も鳴き声をあげるもんだから、私が目を覚まし「なんだコチャ・・・? うるさいよ・・・」って言いながら頭を撫でてやったら、嬉しそうに私のその指先を2~3回ペロペロッと舐めてからそのまま出かけて行ったのが最後になった。


その時兄貴のチャー公は別行動で 弟がはねられたのは知らなかったのだろう。お昼頃まで家に戻らなかった。

いつかはこうなるだろうと覚悟はしていたのだが、現実になると可哀想で涙が出てくる。

家の前の道端に倒れていて、近所の人に教えて貰って気が付いたのだが、意外と身体はきれいなままで半開きの口元にうっすらと血が滲んでいるだけだった。

すぐに裏の堤防の所に穴を掘って埋めてやった。

昼過ぎに兄貴のチャー公が戻ってきたのだが、いつもと全く変わらない様子で弟がこんなことになったなんてまるで気が付いてないようだった。

やがて日が暮れて寝る近くになっても 弟が戻ってこないので様子がおかしいと思い始めたのだろう。盛りが付いたときのような鳴き声でまず家の中をあちこち探し始めて、中にはいないとなったらひっきりなしに鳴きながら外に出て行ってしまった。


翌日になっても戻らず、二日目・・・、三日目・・・やっと夕方に例の変な鳴き声を「ギャオン!・・・ギャオン!・・・」と、ひっきりなしに発しながらフラフラと戻ってきて、食事はほんの少し・・・ 一口、二口、食べただけで出窓近くに置いてある猫専用の座布団のうえに、ばたっと倒れるように横になって寝たかと思ったら、ものの十五分もしないうちに起き上がり、また「ギャオン、ギャオン・・・!」と鳴きながら出て行ってしまった。


また更に三日位して戻ってきたのだが、やつれ方が半端ではなくげっそりと痩せて、声が枯れてしまい 鳴いてはいるのだが声になってなく、何よりもびっくりしたのが目の変わりようで、内まぶたと言うのかな、目頭にある薄い膜が目の中心部まで広がってしまい、両目とも半分以上塞がってほとんど見えてない状態になっている。

前に戻って来た時のように餌を二口ぐらいと水を少し飲んで、ばたっと倒れるように休んだかと思うと また十五分もするとフラフラッと起き上がって 声にならない鳴き声をあげて探しに行ってしまう。

こんな状態が二週間続いた・・・。

弟の「コチャ」を埋める前に兄貴の「チャー公」になきがらを見せればよかったのかなあ・・・。ここまで探し続けるとは・・・。


10日ぐらい経った頃、いったい何処まで探しに行くんだろうと思い、夜だったけれどもチャー公の後をついて行ってみたら なんと1キロぐらい先の山の中まで行って、後は見失ってしまった。

たかが猫・・・と思っていたのだけれども、兄弟とか親子とかの思いは人間と大して変わらないものだとこの時つくづく思った。いや、むしろ子殺しとかせっかん死とかのニュース見ると 猫以下の人間のほうがよほど多くいるように思う。


この弟探しの件が落ち着いて暫くしてから 東京の妹に今回の事について話をしたら、実は妹の部屋で七匹も産んだ母猫も子猫が全部居なくなった事に気が付いて、探しに出て行ったきり戻らなくなってしまったとの事だった。

妹が言うことには、猫の生態に詳しい人から聞いた話では、猫は数が数えられないけれども一匹ぐらいは親元に残しておかないとだめなんだそうな。


話を戻すが、やっと弟探しをあきらめてから体力回復まで十日ぐらいかかったチャー公。

見ている側からするとこのまま死んでしまうかと思う程げっそりとやつれてしまった。

ほとんど見えなくなっていた目の内幕もだんだん戻ってきて、いつもの出窓に置いてある猫用の小さな座布団の上で横になっている時間も だんだんと多くなってきて、徐々に徐々にだけれどもいつもどおりの行動パターンに戻っていった。


そのうちに体力も回復し始めてもとの体格に戻ってきたのだが、もともとでっかい猫で体重計に乗せてみたら七kgあった。普通の猫は五、六kgだからそれと比べるとかなりでかい。

近所の人の話では「お宅の猫はこの辺りのボス猫だ!」・・・って 何を根拠に言ってるかは聞かなかったけれどもほとんどの人が言ってた。確かに行動範囲は家を中心に半径一キロ以上離れた場所でも時々見かけたから、縄張りの広さから言ってもボス猫なのかも知れない。尻尾の曲がり具合に特徴があるから見間違いということは無いだろう。


ある時には自宅から四、五百メートル離れた友達のうちで 夜中に麻雀やっていたら、チャー公の鳴き声がした。麻雀の区切りがついた時に窓を開けてみたら、やはりチャー公で私の顔を見たら安心したようにどこかに行ってしまった。

またあるときには朝野球していて私が打席に立っていたら、外野フェンスの後ろの方をチャー公がさりげなく横切って行った・・・。尻尾がくの字に曲がっているから間違いない。

ここの野球場はかなりの高台にあって車で登って来ないと大変なんだけれども、あいつはこんな所まで縄張りにしているのかぁ・・・なんて思っていたら後ろの審判が「ストライク、 バッターアト!」・・・て、まったく調子狂っちゃうよなぁ・・・


こんなチャー公も十七年生きて大往生するのだけれども、タイトルの「生まれ変わり」の話はもうちょっと待っててね、まもなく書きますから・・・

その前に二、三 猫らしくないエピソードを・・・


あるときネズミを捕まえて来た時の話。


口が塞がってる物だから「ふぐー・・・、ふぐー・・・」っと変な鳴き声で庭にいた私の所に来て、足元にネズミをゴロンと置いたものだから 私が驚いてとっさにそのネズミを蹴飛ばしたら 五、六メートル先の植え込みの中に入ってしまい、チャー公が慌てて追いかけて行って しばらく探していたのだけれどもとうとう見付からないとなったら、何するんだよう・・・と言うような目付きで私の足元に来て、かるく唸り声を上げながら頭でゴツン、ゴツンと二、三回体当たりをして来た・・・


またある時、前足の関節が外れてブラブラさせて帰って来た時の話。


私は高校時代柔道をしていたので 捻挫なのか骨折なのかあるいは関節が外れた(脱臼)だけなのかは見れば分かるので、これは脱臼だと直ぐに分かった。

問題は外れた関節をどうやって戻すかなんだけれども、強めに引っ張って真っ直ぐにして放せば簡単に戻るのだけれども、相手が人間ならばちょっと痛いけれど我慢してね・・・で済むのだけれども、これが猫となると説明の仕様が無いし、暴れて引っ掻掛かれたり噛み付かれたりされたら半端じゃないだろうし・・・鳥の骨付き腿なんかバリバリ音立てて骨ごと食べちゃうからなあ・・・。

膝の上に抱いてそーっと外れた前足を触ってみたら、まだ外れたばかりらしくあまり腫れてはいない。腫れて硬くなってしまうと戻りにくくなってしまうから、やるなら今しかないのだが様子見に軽く触ってみると「ウーン・・・」と猫が喧嘩する時のような唸り声を上げる・・・ちょっと引っ張ってみたら「カー・・・!」って威嚇するような声を出すし・・・ただ、私がチャー公の足を心配して触っているということは理解しているのか、膝の上から逃げようとはしない。

よし、一瞬だからやっちゃえ・・・。

意を決して、右手でチャー公の外れた前足首をしっかりと押さえて、左手は外れてぶらついてる足先を素早く掴んで気合一発、「えいやっ!・・・」と引っ張って放した。

チャー公はよほど痛かったのか咄嗟に「カー・・・!」と言って私の右腕にガブリと噛み付いた・・・! が、直ぐに噛み付くのをやめて私の膝の上から二、三メートル向こうの方に飛び退いた。

私は「やられた・・・」と思い、かまれた腕に目をやった。相当深く傷が付いたかなと思い 噛まれたあたりを見たら牙のあとがプツプツと2つ付いてるだけで穴は開いてなかった。これ以上強く噛んだら穴が開くというところで噛むのを止めたみたいで、空手で言うなら寸止めみたいな・・・。

ほっとしてもう一度チャー公の方を見たら,痛めた前足の辺りをペロペロ舐めてその手で何事もなかったかのように顔を洗っていた。間もなく歩いて台所の方に水を飲みに行ったけれども、その足は先ほどのようにブラブラしてないで、軽く引きずってはいるけれどもちゃんと歩いていた。

我ながら旨くいってホッとしたが、それにしても「寸止め」とは・・・ チャー公もたいしたものだと感心した。


外ではボス猫として相当はばを利かせていたようだが、家に帰ってきて特に私の前では図体に似合わずめちゃくちゃ甘えるようなそぶりをする。


そんなチャー公も十五歳を過ぎたあたりから歯が全部抜け落ちて普通のキャットフードが食べれなくなり、老描用と書いてあるペースト状の猫缶しか食べれなくなってしまった。

外出しても家からあまり離れず、見た目にも歳を取ったなあ・・・と思えるほど衰えが目立って来た。


十七年目の秋の終わり頃・・・朝晩めっきり冷え始めて来たので、我が家では電気炬燵に火を入れ始めたのだが、チャー公・・・こたつからほとんど出て来なくなり、そのうちにとうとう糞尿垂れ流し状態になってしまった。

こうなってしまってはもはや家の中では飼えなくなってしまい、やむなく離れのガレージ兼物置小屋の中に寝床を作ってやった。その中にヒーター付きの便座だけを買ってきてバスタオルで包んで温かく尚且つ柔らかくし、寒くないように大き目の段ボールで回りを囲って寝心地良くしてやったら気に入ったらしく ずっとそこにいるようになった。


最初のうちはチャー公が何時もの様に家に入ってこようとしたらどうしようかとか考えたのだけれどもその心配は全く無かった。新しい寝床が炬燵の中状態に似ていたために気に入ったのか、それとも動き回る気力が無くなったのかは分らないがすぐにその場で生活する様になった。

もちろん水や餌トイレも近くに設置してやり毎日見に行って、垂れ流し状態のバスタオルはその都度取り替えてやったのだが、気がかりはたった一匹だけでガレージの中に朝から晩まで置きっぱなしにされて可哀想じゃないか、という飼い主の勝手な気持ちで・・・しかし何ともならないし・・・


半月ぐらい経った頃、十二月の初めごろに 何時もの様にチャー公を覗きに行ったら見慣れない猫がピタッと寄り添って一緒に寝ていた。普通の野良猫は私を見たら逃げるんだろうけれども、その猫は私を確認しても逃げようとせず、チャー公に寄り添ったまま 時折こちらを見たりしながら動こうとしない。それどころかそれ以降は毎日ひと時も離れずと言っていい程ほとんど一緒にいる。


今から10年以上前にチャー公はゴマ猫(煎り胡麻を全身にまぶした様な模様の猫)と言われる模様の雌猫を連れて歩いていたことがあるが、その時の猫ともちょっと違うけれども似たような感じのゴマ猫だった。


「おい、チャー公、凄いなあ・・・そんなになってもまだモテるのか・・・」

私はチャー公にからかうような言葉をかけながらも 内心これで寂しくは無いなあ・・・とホッとすると同時にこの野良猫に感謝した。

それからは此の野良猫用の食事も毎日用意してやった。

一週間ぐらい経ったある日、何時もの様に汚れたタオルを変えに行ってあることに気が付いた。チャー公に寄り添っているゴマ猫・・・よく見たらオスだった。

チャー公は雄だからこのゴマ猫は雌だとばかり思ってたのだけれども、雄同士とは・・・

猫の生態に詳しい人の話だと 通常雄同士はなわばりの関係で近づいてきても追い払われて一緒にいることは無い筈だそうだが・・・

模様が昔のゴマ猫彼女に似ているから、もしかしてチャー公の子供なのかな・・・でも猫の場合は大人になると、親子でも雄同士はお互いに寄せ付けないって言うし、まあなんであれ付き添ってくれるのは有り難い事だから、こちらとしては何も心配することは無い。


三月になり辺りの雪も解けて温かくなり始めた頃・・・

毎日のようにチャー公の様子を見ていたから、いよいよ今日辺りかな・・・というのを感じて チャー公の入っている箱ごと家の茶の間に移動して看取ってやる事にした。さすがに箱をガサゴソやり始めたら一緒にいた野良猫は箱から出てどこかに行ってしまった。


家の中に入れて半日ぐらい経った頃から呼吸がどんどん荒くなっていき、時折痙攣する。

痙攣が起きる度に体を擦ってやるとやがて収まり、呼吸も穏やかになる。

そんな状態が一時間おきに・・・やがて三十分おきに・・・とだんだん間隔が短くなり、最後に大き目の痙攣を二、三回したかと思ったら呼吸をしなくなった。

人工呼吸や心臓マッサージで息を吹き返させても かえって苦しむ時間が長引くだけだろうからあえて何もせずに 顔のところだけ出るようにバスタオルで包んで、可愛がっていた小学生の娘が帰って来るのを待って裏の堤防のところに穴を掘って埋めてやった。

娘はチャー公の大好きだった煮干しとその辺から摘んで来た花を 土をかぶせる前に一緒に添えていた。

土をかぶせ終わるとその辺から大き目の石を拾って来て、マジックペンで「チャーちゃんの墓」と書いて盛り土の上に置き、また煮干しと花をその前に供えていた。

考えてみれば娘が生まれる七、八年前からこの家にいたんだなあ・・・

悲しかったけれども不思議と涙は出て来なかった。十七年も生きると飼っている方もこれだけ長生きしたのだし、ちゃんと面倒も見たし・・・みたいな納得したような感じが有ったからかなあ・・・。


さて、その後 やっと本題の「生まれ変わりの話」に入ります。


まずはチャー公にずっと付き添ってくれていたゴマ猫の事なんだけれども・・・

チャー公亡き後、そのままガレージや庭の辺りに居着く様になった。

私もチャー公に付き添ってくれて有り難かったので追い払う気はなかった。

引き続き庭の辺りに餌を置いてやったのだけれども、そのゴマ猫の方もだいぶこちらに慣れてきたみたいで少しずつ玄関に近づく様になり、そのうちに家の中を歩き廻るほどではないが、玄関の中に入って来て隅の辺りで寝るようになった。このまま家の中で買ってやってもよいと思っていたのだが、チャー公が死んでから五日位経ったある日の午後・・・


私が庭に出ていると猫の鳴き声がして振り返ると・・・

「あれ?、チャー公・・・?!」と思う程よく似た白猫が鳴きながらこちらに近づいて来る。

全身真っ白な猫は珍しくなくあちこちにいるのだが、体重七㎏のチャー公と同じぐらいの体格となるとなかなかそうはいるものでは無い。

よく見るとチャー公の場合は頭の上がうっすらと茶トラ模様だったが この猫にはそれが無く全身真っ白。さらに大きな違いはしっぽが真っ直ぐに伸びていることだった。

チャー公の場合は完全に上に曲がっていて 遠くから見ると犬のスピッツの様に見えた。

近づいて来たこの猫は しっぽが曲がって無いこと以外は顔つきも体の手足のバランスも死んだチャー公によく似ていた。

更に不思議な事に堂々と私の顔を見て 鳴きながら何かを訴えてくる。

「なんだよお前は・・・チャーじゃないんだから家に帰れよ・・・」

と言っても言葉が通じる訳じゃないから、どんどんすり寄って来て家の中にまで入ろうとする。

チャー公に付き添っていたゴマ猫と喧嘩する訳でも無く、二匹で玄関の辺りにいるので、

「こっちは(ゴマ猫の方)飼ってやってもいいけども、お前は(白猫の方)関係ないから帰れ」

と言いながら追い払うんだけれども、全然聞かない・・・。


おなかをすかした子猫が必死に人間に近づくことはあるのだが、見た感じでは七、八歳の大人猫が知らない人に近づくなんてことはまず有り得ない事で、お腹を空かしている様でも無い。体もそれほど汚れていないし人馴れしているみたいだから何処かで飼われていた猫のように見える。

しまいには堂々と家の中に入って来て、その辺りで昼寝をし始める始末・・・。

夕方中学生の息子が帰って来て、 

「このチャー公に似た猫、友達の家の近くで何度か見たことがある」

と言うもんだから、ここから五、六百メートル離れたその友達の家の近くまで持っていって放して来いと言って持たせてやった。

十五分位したら猫だけ戻って来た・・・

それから十分位して戻ってきた息子に ちゃんと放して来たのかと聞いたら、

「うん、友達の家の近くまで抱いて行って放してやったよ」

・・・だと。


大人の猫が突然にお腹を空かしている訳でもないのに、人の家に迷い込むなんて事はまず有り得ない事なので これはもしかしたらチャー公が生まれ変わって入って来たのかなあ・・・なんて薄々考え始めたのだけれども、私は元来そういう事はあまり信じない方なので、まさかそんな事は無いだろうと直ぐに思い直した。


二日後、私が外出から帰ってきたら庭の隅でゴマ猫の方が死んでいた・・・。

前日まではとても死ぬほど具合悪そうには見えなかったし、何かに襲われた様子もないし、いったいどうしたんだろう・・・。

チャー公に付き添うために何処からともなくやって来て、チャー公が死んだら自分も役目が終わったみたいに死んでしまった。不思議な事があるもんだなあと思いながらも、当然チャー公の傍に埋めてやった。


こうなるとこの堂々と家に入ってくる白猫・・・、私の顔に向かって堂々と鳴きながら何かを訴えてくるこの白猫・・・、私が炬燵にあたっていると膝の上に上がって来て丸くなって寝てしまうこの白猫・・・、まるで昔からそうしているかのように・・・。いったい何なんだろう・・・?

しょうがないから 同じに「チャー公」と呼んでそのまま飼い始めたのだけれども、うーん・・・いったいこれは・・・ やっぱり生まれ変わりなのかあ・・・、でもなあ、そんな事ある訳無いし・・・。

そうだ、チャー公しか知らない秘密のくぐり戸があるから試してみよう。

それは縁の下をくぐって外と家の中を行ったり来たりできる 猫が一匹くぐれるほどの小さな穴で、死んだチャー公が元気な時に便利に使っていたところだった。

住宅の床下で仕切りが何か所か有る筈だから 知らなければ簡単に出入りは出来ない筈なので、試してみれば生まれ変わりかどうか確認できそうだと思い早速やってみることにした。


この新しいチャー公を抱いて外まで連れていき、縁の下の入り口に無理やり押し込んで出られない様に塞いで、何分かほおっておいた。

中から「ニャー、ニャー・・・」、「ニャー、ニャー・・・」っと不安そうな鳴き声がひっきりなしに聞こえて、一向に秘密の入り口から家の中に入ってくる様子が無い。

私は家の中に行って秘密の入り口のところで

「おーい、チャー公・・・! こっちだよ、こっちにおいで・・・!」

と叫んでみたけれども、全然こちらに向かってくる様子も無く 相変わらず先ほど押し込んだ場所から外に向かって鳴き声を上げている。


「だめだこりゃ・・・そうだよな・・・そんな筈無いもんなあ・・・」

やっぱり生まれ変わりじゃ無かった・・・。

そうと分かりや可哀想だからこの新しいチャー公を早く縁の下から出してやらなければ・・・塞いだ蓋を外してやったらのそのそと出てきて、ゆっくりと家の中に入っていき何事もなかったようにこたつの横で丸くなって寝てしまった。


結論として生まれ変わりじゃ無かった様な気がするけれども、チャー公が老いて家の中で飼う事が出来なくなってからの四か月の間、突然現れて付き添ってくれてチャー公の後を追う様に死んでしまったゴマ猫といい、チャー公そっくりなこの猫といい、私にとっては不思議な出来事としか言いようが無く、今思い出してもあの出来事は何だったのだろう・・・やっぱりチャー公の奴が生まれ変わって出て来て、とぼけていたんじゃないだろうかなって思う様になりました。


読み終えた方は なんだ生まれ変わりだなんて大袈裟な事を言って、大した事無いじゃないか・・・と思う方もいらっしゃるでしょうが、現実にこのことを体験した私にとってはちょっと理解し難い出来事でした。

元来が霊とか魂とか心霊的な事は全然信じない方でしたので、今でもあれは偶然が重なったのかも知れないなあと思う反面、「チャー公」と言う猫は猫らしくなく、かなり人間的な頭のいい感情豊かな猫でしたので、付き添いのゴマ猫にしても 生まれ変わりの白猫にしても、私に面倒をかけたり悲しい思いをさせたりしない様に、チャー公が最後の力を振り絞って仕組んだのではないかと・・・。

そう思う事にした方が単なる偶然だろうと割り切るよりも気分もいいし後味もいいからね。


「おい、チャー公・・・! おまえなかなかやるじゃないか、何時かまた会おうな・・・!」


               完



私が子供の頃から数えて四匹目に飼った猫がこの「チャー公です」

殆んどの猫は三、四年から七、八年で死んでましたので「チャー公」の十七年は私にとっては驚異的な長生きでした。今ではキャットフードとか犬猫病院などが身近になってきた時代背景もあるので 十年、二十年生きるのは珍しくないのでしょうね。


その後、新しいチャー公は元のチャー公のようなボス猫になる訳でも無く、家の中でのんびりと暮らしているような感じで元のチャー公に変わってのんびりと余生を送ってるように見えました。

うちに来てから三年後、猫の間で流行った猫インフルエンザにかかって一週間位寝込んだ後死んでしまいました。この猫インフルエンザは当時は犬猫病院でもどうしようもない病気だったみたいです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] チャー公とコチャを見守る視点。 鳴き声や仕草一つとっても、臨場感に満ちており、愛が感じられました。 [気になる点] 物語が大きく三つに分かれるので、ここは思い切って転生前、猫らしからぬエ…
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