04 もう一回状況確認
どうも、こんにちは。未輝です。今日も元気に生きています。記憶を取り戻してから10年経ちまして、今は高校1年の夏です。その間にこの世界について分かったことがたくさんあるので紹介したいと思います。
まずは歴史から。細かい点を上げていったら日が暮れるので大事なところだけ。
2566年、第三次世界大戦が起こる。人口爆発による食糧危機と国土領有の意見の食い違い、経済の停滞などで国家間の争いが激化した末の戦争だ。この戦いはアメリカ、ヨーロッパ、アジアだけでなくアフリカ諸国をも巻き込んだ大きな戦争だった。
―が勝者は決まらないまま各国は講和条約を結ぶことになる。
なぜなら世界各地にとんでもないもの、“スポット”が現れたからだ。スポットは魔力を放出する土地のことだ。このスポットというのがなかなかの曲者で、その周りには常に大量の魔力が垂れ流しになっていて、近づいた生物は流れ込む魔力に耐えきれずショック死したり魔力を中和できずに衰弱死するというとんでもないものだ。しかも今まで何にもなかった場所に突然出来ていたりするので対策のしようがなかった。中には民家にスポットができて町一つ壊滅したり、山が巨大なスポットにのまれてその周辺の生態系を全て無に帰すなんてのもあった。下手したら戦争の被害よりスポットによる被害のほうが大きい。現代ではこのスポット問題は解決しているが、なんせ500年も前のことだ。戦争中にそんな物騒な、コントロールできないようなものが現れて世界中がパニックにおちいったらしい。
2568年、講和条約を結ぶと同時に各国が共同でスポットの研究に乗り出した。ちなみにこのとき国家として成り立たなくなった国が多かったので、講和条約の際研究を共同で行うことと、すべての国家を大陸ごとにまとめ地区として管理することが決められていた。
2666年、ついに人類はスポットをコントロールする手段を得る。これは“トトルの奇跡”と呼ばれていて、なんでもコントロールする技術を発見した人の名前だとか。これ以降、400年間つまり現在にいたるまで大きな戦争は起きていない。
皮肉な事に各国の争いを止めたのはスポットで、争う原因になった食料危機も人口がスポットと戦争による被害で激減したおかげで無くなった。スポットが現れてなけりゃ戦争はもっと長引いていたかもしれない。辛くも今の世があるのはスポットのおかげかもね、ということだ。この一連の出来事は歴史の教科書にも載っている。
次に現在についてだ。私が前生きていた世界よりも1000年ほど後というだけのことはあって科学技術は結構発達している。と言っても大まかなところは変わっていない。電車がリニアモーターカーになっていたり、自動車が電池式になってたり、電子書籍がとても普及していたり、あとよくSFなんかでよく見る超小型端末とかホログラム式テレビがあるくらいだ。記憶を取り戻した後、車で出かけているときうっかり家族の前でガソリンスタンドに寄らなくていいのかと聞いてしまったときの冷や汗を私は忘れない。すぐに五番目の兄ちゃんが「車は電池で動いているので、ガソリンは必要ありませんよ」と教えてくれたのでなんとかごまかせた。ありがとう兄ちゃん。まさか記憶があることでこんな弊害が生まれるとは思ってなかった……。ホログラム式テレビを見たときもちょっとビビっていたので家族に怪しまれていないかちょっと心配だ。
家族といえば母さんはいつ帰ってくるのだろう……。実はお風呂での魔法講座のすぐあと、母さんが転勤で単身赴任することになったのだ。母さんは魔法局というところに勤めている。魔法局は大陸の首長(大陸で一番偉い人)直轄の機関で魔法に関するすべてを扱う機関だ。母さんはうちは常に人手不足だから異動なんてよくあることさと言っていた。中間管理職って大変だな……。ちなみに異動先はドイツ地区だった。驚いて地区外!?と思わず言ってしまった。今までも長期出張とかで家に帰ってこない日なんか何回もあったけど転勤は初めてだ。まあ海外っていっても一ヶ月に一回は帰ってくるんだけどね。
家を空けることがなにかと多い母さんだが、夫婦仲はそんなに悪くないと思う。むしろ熱い。この前帰ってきた時に一番上の兄ちゃんが「新しく弟妹できたとかいわねえよな……」と心配するぐらいには。
次は魔法について。
実は母さんがドイツに出発する直前に「よいこのまほうずかん」なるものをくれた。これはその名の通り魔法がたくさん載っている。子供でも読みやすいようご丁寧に漢字だけじゃなくカタカナにもフリガナが振ってある。魔法について基本的なことが分かったので説明しよう。
その1 魔法は大きく分けて二種類。
・属性魔法:火、地、水、風、闇、光の六属性の魔法。
・無属性魔法:属性の無い魔法。
回復魔法や補助魔法は無属性で、「ウォーター」は属性魔法。召還魔法とかもあるらしいが分類が難しいらしく、呼び出すものによって無属性だとかが決まるらしい。
その2 魔法を使う素質と魔力の両方がないと魔法は使えない。
これは母さんに教えてもらったな。魔力を一言で言うとMPだろうか。才能と魔力がないと使えないせいで魔法を使える人は少ない。しかも魔力の上限は生まれたときにあらかじめ決まっているそうでこれが魔力量。たまに厳しい修行により魔力量を増やす人もいるが、普通の人は生まれたときの魔力量のままで一生を過ごす。
図鑑に載っていたのは主に攻撃魔法、おまけ程度に回復魔法と補助魔法が一種類ずつだったが属性ごとに項目が分けられていてとても読みやすかった。……絵本タッチの挿絵に出てくる魔法使いが笑顔で人を燃やしてたり燃やされてる人も笑顔だったりとか、挿絵のブラックさをなくしたら素晴らしい本になってると思うけど。題名詐欺だなこれ……。この前、母さんが帰ってきたとき図鑑に載ってた魔法の練習をしてたら「未輝、それどうやって覚えたんよ?」と言われて図鑑で覚えたと答えると「あんなんで覚えたん……?」と返された。挿絵のこと分かってて渡したの!?子供に見せていい内容じゃないって知ってたならなぜ渡したんだ……。
と、そんなこんなで科学技術の発達に記憶が取り残されながらも私は元気に生きている。今は暇なときは魔法の練習を主にやっている。初めてウォーターを発動した日から図鑑の魔法をちまちま練習して今では結構たくさんの魔法を使えるようになった。最近は風の魔法に力を入れている。扇風機の代わりになって気持ちいい。家の中だとちょっと危ないので練習はいつも外でやっている。人がいるから余計外って危ないんじゃないか?と疑問に思うだろうが心配無用だ。私の家は田舎にある。未来の田舎なんていっても前の世界とそう変わらない。家の周りは山と田んぼ。時々民家がぽつぽつとある。スーパーは6㎞先の町にある。色々と不便ではあるが、結構いいところだ。まず周辺の人は全員知り合いなので、こうして私が河原でぶつぶつ魔法の練習をしてても「ああ、またやってるのね」「なんだ、柳さんとこの未輝ちゃんか」とスルーしてくれる。現に、今私のすぐそばで釣りを楽しんでいる斎藤のおじさんも「今日もがんばるねえ」と飴玉をくれてそのあとはノータッチだ。猿とかイノシシなどの野生動物も時々見かけたりする。冬眠から目覚めた熊に遭遇したときは流石にどうしようかと思ったが火属性の魔法「ファイアー」でこんがり肉にした。熊肉を食べる勇気はなかったので自然に還しておきました。
ピイィィーー
ん?なんだろう。鳥の鳴き声と共に上空から黒い影が降りてくる。黒い影は私のすぐ傍の木に降り立った。
「ピイ」
何だ。ピー太か。この鷹はうちのペットだ。小学生のときに河原でけがをしていたので介抱したら懐かれてしまい、そのままペットとなってしまった。名前を付けたのは父さんだ。しかしピー太は拾ってきた私よりも父に懐いている気がしてならない。私や兄達の言うことはあまり聞かないのに父の言うことだけはちゃんと聞くし。
こっちにおいで、と言ってもやれやれしょうがねえなといった様子で渋々近づいてくる。あんた父さんの時はすごい勢いで飛んでくのにな……。動物の言葉は分からないが見下されているということだけは分かる。尊敬してもらいたいとは思ってないからこれでいいんだろうけど。
ともかくピー太がここに来たってことは父さんが行ってくるよう命令したんだな。夕方になる前に帰らなければ。ピー太に早くしろとピィピィ鳴かれ急かされながら私は帰路についたのだった。