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02 湯あたりには気をつけよう

「あ~びっくりした!まさかあんな驚くなんて思わんかったわ!」


 ハハハ!とのんきに笑っている黒髪の少女。さっき私が幽霊と間違えた人だ。声のよく響く浴室では関西訛りがより一層特徴的に聞こえる。

 ―まあ少女っていっても、見た目だけなんだけどな!

 この黒髪ロリは私の母だ。繰り返し言おう、この少女は私の母だ。義母じゃなくて実母。小柄なのも相まって一見すると9児の母どころか小学生にしか見えない。おかげで二人で浴槽に入っているというのに、まだ余裕がある。実年齢は父さんと同い年と言ってたから45才のはずだ。三番目の兄曰く、私と母が並んでいると姉妹にしかみえないらしい。髪の色とか目の色も一緒だし、このままだと身長もあと3,4年すれば追いついてしまうだろう。なんだそれ最早若作りってレベルじゃねーよ!年相応の外見の父さんを見る限り、異世界だからとかそういうのではなく、きっと母さんが特別なだけである。

 若さの理由を聞いてみると母さんは少し考え込んだあと、「……魔法使いだから?」と疑問形で返してきた。超アンチエイジングの回答に魔法が関係あるかどうかは不明だが、そういやこの人魔法使えたんだったわ。ここ3日間情報収集に夢中で頭の中からすっぽ抜けてたけど。

 前世でRPGなどのゲームが好きだったので、CGとかじゃなくて魔法が実際に使える世界というのはなかなか嬉しい。……魔法教えてくれるかどうかちょっと聞いてみようか。


「ねえ母さん、私、魔法習いたいんだけど……。」


母さんの表情が笑顔から微妙な顔になった。え、これもしかして返答に困る質問?


「えー?うーん、えーと、せやなー……。魔法使いたいって言うてもな、あれや、使えるんは一部の人だけやねん」


母さん曰く、魔法が使える人は世界の総人口の約三割ほどしかいないらしい。誰でも使えるわけではなく、才能がないととても魔法を使うことはできないらしい。

な、なんだと……。それじゃあ私は魔法が使えない可能性が高い!?うう、せっかく魔法が使えるかもしれない環境にいるのに……。


「あー!ほら、なんなら今使えるかどうかやってみるか?もしかしたら使えるかもしれへんし!な!」


明らかにがっかりした私を見かねたのか母さんが慰めるように提案してきた。母さんのそういうとこ私はわりと好きです。


「今できるの?」

「未輝次第やけどな。……じゃ、今からお手本見せるからな、よく見とき!」


 母さんが湯船から手を出すと、目を閉じ何やらブツブツと唱え始めた。


「ウォーター!」


 母さんがそう叫んだ瞬間、どこからともなく水が母さんの手のひらに現れた。最初に見た魔法とはまた違う魔法だ。改めてみるとやはりすごい。興奮してしまう。


「じゃ、やってみ?」


 母さんの指示通りにやってみることにした。今ならどこぞの戦闘民族の気持ちがわかる気がする。ワクワクすっぞ!


「まあ、まずはイメージやな。水が自分の手から湧き出してくるみたいなイメージしてみ?なるべく、手の方に意識を集中させてな」


 自分の手から水が湧き出すイメージ……。あれか、天然水が汲みだされそうな風景をイメージすればいいのか。だめだ、石とか川とか森とかものすごく豊かな自然をイメージしちゃったよ。集中集中……。


「次に詠唱な。今回やるんは『ウォーター』やから詠唱は『水よ集え、ウォーター』でええんや」


 詠唱とかあるんかい。一気にそれっぽくなってきたというか、こう特定の病気にかかってらっしゃる人が好きそうな感じになってきたというか。

 えーと水が湧き出すイメージをして、手の方に意識を集中させて、最後は詠唱。詠唱は確か『水よ集え、ウォーター』だったよな。口に出して確認しとかなきゃな。忘れてもう一回確認するのもアレだし。

 ふっと母さんの方を見ると驚いた様子でこちらを見ている。


「どうしたの、母さん。」

「手!手見てみ!あんた、魔法使えてるで!」


 ん!?使えてる!?自分の手を見てみると手のひらにはさっきまでなかったはずの水があった。い、いつの間に……。魔法発動の瞬間を見逃したのが悔しかったのでもう一度ウォーターを使った。今度はちゃんと発動の瞬間が見られたので満足している。ついでにもう一発やろうとしたら母さんに止められてしまった。


「もうこんな時間や。早く上がらんとのぼせてまうで!」


 そういや母さんは長湯が苦手なんだった。よく見ると母さんの顔色が悪い気がする。無理をさせてしまったようだ。……私ものぼせてきたかも。母さんの言葉に従って出ることにした。

 それにしても今日は大きな収穫があった。本当に魔法が使えてしまった。……ゆくゆくはRPGで使われてたような魔法とか使いたいな。




■■ 柳四季 視点 ■■


 ”髪の色、目の色が濃ければ濃いほどその者の持っている魔力は大きい”

髪の色が白、茶、金の者は魔力がないか少しある。桃色や水色など混色の者は魔力がそこそこある。

赤、黄、青の者は魔力がたくさんある。

―それでは黒の者は?答えは、分からないほどたくさん。


 生まれつき、黒い髪、黒い目の私は自分の容姿にコンプレックスを持っていた。一度髪の色を変えようとヘアカラーリング剤なんかも使ってみたが、髪色が黒以外の色になることはなかった。亜麻色の髪を揃いで持つ家族はよく「自分の髪の色のことは気にしなくていい、お前はお前でいいんだよ」と言ってくれたが、出歩く先々で珍獣扱いされているのに変わりはなかった。町を歩けば通行人にギョッとされる、買い物をしようと店に入れば店員に怯えられる、バスや電車に乗ればたとえ満員だろうと私の周りだけ人が少なくなる。魔力だけ持ってても魔法の才能なけりゃ意味ないって分かってるだろうが。と常に言いたい気分でこの45年間過ごしてきた。

 まあ魔法使えるけどな。ときどき無断で写真を撮られたのでそういうアホな奴に何回かお仕置きに魔法を使った事はある。就職が決まって、私は家族以外で唯一黒の髪を怖がらなかった親友の咲ちゃんと結婚した。初めて妊娠したときは自分の色が子供に遺伝してしまったらどうしよう、と色々考えたものだが杞憂に終わった。第一子は銀の髪だったから。その後産んだ子供達にも私の色は移らなかった。ただ一人を除いて。


「どうしたの、母さん」


 普段構ってやれない娘のお願いを気まぐれできいた。未輝は氷魔法が好きなようで、この前も怒って押し入れに閉じこもっていたときもこれ一発で機嫌が直っていた。それで興味を持ったのだろうか、魔法を使いたい。というのでちょっと実験のつもりで教えてみた。魔法を使えるのはなんせ世界の人口の三割だ。それに、才能があっても人にちょっと教えてもらっただけでは魔法は発動しない。流石に発動なんかしないだろうと思っていた。なのに。詠唱を終えたとき、未輝の手の中には水があった。それだけじゃなく未輝の周囲には魔力が漂っていた。上質すぎる魔力が。生き物にとって上質すぎる魔力はかえって毒だ。魔力に耐性のない人がこれをあてられたら死んでしまうだろう。そう咄嗟に判断した私は未輝に魔法の発動を止めさせ、風呂場の周りに結界を張って魔力の流出を防いだ。成功したのは良かったが、未輝の魔力に少しあてられてしまった。 



「うぷ……」


 未輝を寝かしつけ、リビングのソファーに横たわる。気持ち悪い。魔力酔いやろうな、こりゃ。しかし、未輝の魔力があそこまで高かったとは……。咲ちゃんたち、大丈夫やろか。風呂場の周りに魔法結界貼っといたし、多分大丈夫やとは思うけど。体に溜まった未輝の魔力を中和していると、上から水の入ったグラスが差し出された。咲ちゃんか。


「……大丈夫か?」


「あんがとさん。だいぶ落ち着いたわ。」


「……風呂場に結界が張ってあった。まさか、未輝か…」


「うん。未輝が、魔法使ってん」


そう告げると、咲ちゃんは少し驚いたような顔をし、「……まあ、お前の子だからな。今更何が起こっても不思議じゃない」とどこか諦めた目をした。


「……しかし、魔法が使えると分かったなら報告しないといけないんじゃないか?……面倒な事になりそうだな……」




 未輝はこのときぐっすり眠っていたので知るはずもないが、この日から確実に人生の目標「長生き」は完全に最高難易度クエストになるのだった。


 

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