第2話
「え?ダメ……ですか?」
「はい。大変申し訳ない話なのですが、魔力の無い方は冒険者にはなれないのです」
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街に着いたケントは乗してくれた商人にお礼を言い、真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。
大きめの木製の扉を押して開き、しっかりとした足どりで中に入る。
中は広々としており、複数の受付カウンターと壁に取り付けられた大きな掲示板。そしてそこには大量の紙が張ってある。
ケントは周りを見回して目が合った女性職員の元に向かった。
「すみません。冒険者ギルドに入会したいのですが、どのカウンターに行けばいいのか教えて頂けますか?」
「はい。新規ご入会の方ですね。入会手続きは一番奥のカウンターで受付ております」
ケントはお礼を言って言われた場所に行く。そこには耳の長い金髪の綺麗な女性がいた。おじいさんから聞いたエルフと呼ばれる種族の人だった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
とても透き通った声だった。
「?……どうかなさいましたか?」
「あっ!すみません。今日は新規入会したくて来たんですが、お願いできますか?」
「かしこまりました。ではこちらに手を置いて下さい」
エルフの女性がカウンターの上に一つの丸い水晶を置いた。ケントは言われるまま水晶の上に手を乗せた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・あれ?」
エルフの女性が首を傾げた。
「しょ、少々お待ち下さいませ」
エルフの女性は一度奥に戻ると新たな水晶を持って戻ってきた。
「もう一度こちらの水晶でお願いします」
「は、はい」
ケントは手を乗せる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・やはりダメみたいですね」
「え?ダメ……ですか?」
「はい。大変申し訳ない話なのですが、魔力の無い方は冒険者にはなれないのです。登録には少量ですが魔力が必要なのです。魔力によって個人の識別をしますので無ければどうしようもないのです」
「魔力が無い人って居ないって聞きましたが、魔力を得る方法って無いのですか?」
「生まれつき魔力の無い者は居ませんが、稀に魔力を失う病気に発症した方は魔力を全て失いますので、本当に少ないですが居ますよ。残念ながら一度全てを失った魔力は取り戻す手段はございません。あなたも発症した方では無いのですか?」
「あぁ…、そういえば幼い頃に大きな病に掛かったと聞いた覚えがありますが、それかもしれませんね。僕自身記憶は無いのですが」
あはは、と後ろ頭をかきながら嘘をついたケント。エルフの女性も特に気にした様子も無く話を続けた。
「そうでしたか。ですが魔力が無い方は入会出来ないのは決まり以前の問題ですので、申し訳ありませんがお引き取り下さいませ。
あっ!依頼は受付ておりますので、お気軽にお越しください」
「はい。わかりました。色々とありがとうございました」
ケントは肩を落としながら冒険者ギルドを後にした。建物を出たケントは腕を組み今後に悩んでいた。
予定では冒険者になり身分書を作りお金を稼ぐ予定だったが予定が狂った。
どうしたものか…。そんな言葉が頭を過る。ストレージリングにある物を使えば日々を生きるぐらい稼げる予定だったのだが……。
「今日はどの依頼にする?」
ケントの横を3人の若者が通りすぎる。その時に会話が耳に入ってきた。
「昨日は薬草の採取依頼をしたから、今日は違うのにしない」
「なら討伐か護衛かな?」
「配達もあるけどあれは大変だからねぇ〜配達品壊したら弁償だし」
「割に合わないよな」
じゃあ討伐だな!と言いながらギルド内へ消えて行く。
「………なるほど。ストレージリング内の物を使うんじゃ無くてストレージリング自体使えばいけるかも。壊れる心配は無いし……やってみるか」
決意を胸に再びギルド内へ入りエルフの女性の前に立つ。
「あっ、先程の方ですね。どうかなさいましたか?もしかして依頼ですか?」
「いえ、依頼では無くて質問…なんですかね」
「はい。なんでしょうか?」
「配達専属の仕事を独自で始めようと思うのですが、ギルドの仕事のようなので話を通すべきかと思いまして。こういう仕事は独自で始めるのはダメですか?」
「いえ、仕事を始める事自体は問題ないはずです。商業ギルドで正式に手続きをして頂ければ我々冒険者ギルドは何も言いません。何より配達依頼をやって頂けるのは我々としても喜ばしい事です」
そう言ったエルフの女性はニッコリと笑った。