00.選定者の狂言
これは、ある男の狂気染みた独白である―――。
『00.選定者の狂言』
我らが狂い始めたのは、いつの頃だったろうか。
今では思い出せない程に我らは歪み、狂っている。
……いや、我が思っている程、我らは狂いきってはおらんのやもしれん。
狂っていると自覚しているのだからな。
だが、やがていつかはそれすら忘れて狂うのやもしれんな。
それもまた一興。そう、君たちも思わんかね?
……ふむ。そうではないと言うのだな君たちは。そうか、それは残念だ。実に残念なことだ。
ああ、何も君たちがそう思うことを否定したいわけではないのだよ。
何せ君たちは若い。その若さ故に常識に囚われているのだろう。
君たちが我らのように永きに渡る生を享受したのなら、我の言葉を理解する者が現れるやもしれん。
我は、そう思う君たちの今後に期待するとしよう。
君たちが“あ奴ら”と同じ道を辿ることを。
あ奴らは、君たちよりも先に狂うことへの愉しさを見出した者たちだ。
狂うことで、最高の快楽を得る者たちが増え、あの世界は狂い出した。
その世界に我は堕とした。我の玩具を。
狂い行く彼の地に堕としたアレは一体、
何を見る?
何を想う?
何を願う?
―――ああ、分からぬ。
アレが何をするのか、我には分からぬ。
分からぬからこそ想像は広がり、退屈な日々を暮らす我に一種の娯楽をもたらす。
ああ、君たち。我は非常に気分がイイのだよ。
たのしくて、
タノシクテ、
楽しくて、
愉しくて、愉しくて、愉しくて、たのシくてぇッ嗚呼ああああぁああぁあぁっあぁぁああぁッ……!!
……ああ、失礼。
つい、年甲斐もなく興奮してしまったようだ。
―――ああ、我の愛しい玩具。
我の愚かなるオモチャ。
我は今、かつてない程にタノシクテ仕方がないのだよ。
だから、我に失望を与えてくれるな。幻滅させてくれるな。
我を愉しませておくれ。
その身を愉悦と快楽に染め上げて、我のためだけに狂っておくれ。
我の可愛い、―――しゅな。
* * *
愚者が一人“選定者”による狂言より。
彼の者の狂気は留まることを知らず、彼女はかくして生贄となった。
彼女は、踊らなければならない。
彼を愉しませるためだけに踊り、狂わなければいけない。
全ては彼の望むがままに―――。
次回予告。
両の手を紅で染め上げても尚、まだ足りぬと。
渇いた心は満たされず、血を求め、彷徨う亡者と成り果てた。
次回『01.血の海で亡者は嗤う』