悪役令嬢を助けた褒美に貴族になれと言われたが断った平民の話
ある気だるい日の午後だったかな。
『おい、そこの船頭、手配書だ!』
『ヘイ・・・』
役人が船着き場にやってきた。
とても綺麗な令嬢の姿絵を見せてワシに言う。
『都で悪逆の限りを尽くした一族の最後の令嬢だ!逃走中だ。見つけたらすぐに知らせろ。金貨100枚の報酬金を出す』
『ヘイ・・・』
仕事が終わり家に戻ると人の気配があった。
『何者ですか?!』
『何者って、ここの家主だよ・・・』
メイドが小刀を構えている。後ろに・・・あの姿絵の令嬢がいた。庇っているのだ。
『メリー、失礼ですわ。どうか、家主様、一晩匿って下さいませ』
見た事もない綺麗なお辞儀をした。
後に知ったカーテシーというものだ。
ワシは思わず見とれてしまった。
何だ。噂とは大違いじゃないか?
『・・・やっぱり無理ですわね。貴方も巻き添えになりますわ。無関係な民を巻き添えにしてはいけませんわ。メリー、行きましょう』
『はい、お嬢様』
『ちょっと、待て!』
ワシは荷造りをして、船着き場まで案内した。
『一晩河を下ると・・・中州に着きます。明日には他国の船が到着します。運賃を払えば乗せてくれます』
『まあ、でも路銀が・・・』
『大丈夫、今日の売り上げを差し上げます。この荷に食料と路銀が入っています』
『グスン、隣国に行ったら、絶対に恩返ししますわ』
『まあまあで良いです』
何でか敬語になっていた。
これは令嬢の生まれついての気品のせいか?
令嬢をなんとか中州まで連れて行き。
必死に河を遡って朝に船着き場まで着いた。
『おい、船頭、どうした?』
『いえ、何でも・・・ちょっと釣りに』
税を運ぶ仕事だ。遅れちゃなんねえ。
それから1年、すっかりあの令嬢の事は忘れて仕事をしていたら・・・
荷が変わった。武具や兵隊を運ぶ仕事になった。
『そこの船頭、徴兵だ。戦に加われ』
『ヘイ』
詳しいことは分からないが、隣国が攻めて来たらしい。
激戦が続いたが、我が王国は敗れワシは捕虜として王都まで連れて行かれた。
兵隊まで軒並み死刑だ。
『船頭として悪逆王に加担、こやつを斬れ!』
『了解』
ああ、短い人生だったな。
だが、鈴の音のような声が響いてきた。
それでやっと思い出した。あの令嬢だ。
『はあ、はあ、はあ、お待ちなさい。この方は私を助けて頂いた方ですわ』
『王妃殿下!』
息が切れている。そこまでしてワシを探してくれたのだ。
『隣国の陛下と親戚ですの。王都を追われ亡命し兵を挙げて頂いたわ。暴虐王を捕らえて王族は処刑しましたのよ』
話を聞くと動いたのは王直属の騎士団と兵団のみ。
ワシは王国の暴虐兵として捕まったようだ。
正直、有難いと思ったものじゃ。
そしてな。令嬢はワシに言うのだ。
『船頭さん。貴方に褒美を差し上げますわ。伯爵位と領地を差し上げますわ』
ワシは言ったのだ。
『お断りします』とな。
・・・・・・・・・・・・・
「はあ?何で?おじいちゃん。嘘に決まっているけど、おかしいわ」
ここで孫のルーシーがワシの回想に口を挟んだ。息子夫婦は王都で商売をしている。
船着き場の次代として由来話を聞かせていたのじゃ。
「ごほん。良く聞け。ワシの・・・・」
☆☆☆
『・・・ワシの罪はご令嬢を逃がしたことだ。その時は罪。それで褒美をもらったら示しが付かない』
『それは気にしないで良いことだわ。貴方は私を助けたのよ。すぐに恩赦を出すわ。褒美も渡すわ。王族領を分割するわ。伯爵はどうかしら?』
『伯爵は・・・ちょっと』
『なら、侯爵を』
『それも無理です』
『分かったわ!なら、私の親戚の令嬢と結婚して公爵位を差し上げますわ。旧王族領を全部・・・』
ワシは・・・
『なら、あそこでブルブル震えている娘を助けて下され・・・』
ワシは処刑場で一番若い子を指差した。
グルグル巻きに縄で縛られているご令嬢がいたのじゃ。
若い。12,3歳かのう。
『・・・そいつは、旧王族の末の姫よ。贅沢で国を傾けたのよ。最後の1人だわ』
『その年齢では致し方ないでしょう』
私の村でも恨みは当代まで、末っ子はのぞくが仕来りです。
でないと、村は恨みの連鎖が永代まで続き滅びるのです。
『皆殺しにしたら、ほら、慣習とかが出来て、政争が起きたら皆殺しでその怨念が続きます』
ご令嬢はしばらく考えた後。
『そうよね・・・そうね。貴方はそんな人だわ・・・だから私を助けたのよね。分かったわ。私も公爵家の末娘、王族の末娘に恩赦を出しましょう。他に褒美をあげないと気が済まないわ』
『なら、あの中州を管理する権限が欲しい・・かな。すみません。言い過ぎました』
『差し上げるわ。すぐに手はずを』
『畏まりました』
・・・・・・・・・・・・・
「そしてな。こうして、ワシらの一族は中州を管理する役職をもらったのじゃ。
ここの中州は皆仲良く使うのが決まりじゃ」
「・・・分かったけど・・・・でその王女様は?」
「ルーシーや。お爺ちゃんからの由来話は終わりましたか?」
「お婆ちゃん」
お婆ちゃんが入って来た。お爺ちゃんよりも10歳年下だ。おしどり夫婦として有名だった。
「これが、代々伝える宝石です。ルーシーに差し上げますわ」
「うわ。これ、絶対に良い物だわ。都で買ったの?」
「ええ、そうですわ」
先の大戦で武功を立てて領地持ちになった貴族たちの多くは汚職や政争で敗れて失脚したと云うわね。
旧王族領は豊かな地で狙われていた。並の手腕では維持が出来なかった。結果として良かったのかしら。
もしかして、お婆さまが王女だったなんて、今度聞いてみよう。
最後までお読み頂き有難うございました。




