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お疲れ様です。
さあ、これで最後ですよ。
頑張ってくださいね。
ああ、そうそう。お伝えしていませんでしたね。
あなたの目の前の扉、その先に行くと、ここの記憶はなくなります。
でも、"保持"した記憶は程度はどうあれ残りますからね。
ご安心ください。
そうですね。お疲れなご様子のあなたに、少しお話をして差し上げましょう。
……どこでもドアって知ってます?
あれ、便利ですよねえ。あったら欲しいものです。
でも、不思議じゃありません?
どうやって長い距離を結ぶのだろう、と。
……御伽話で済ませて仕舞えばいいのでしょうがね。
科学やら論理やらがこの世の定義を駆逐したこの時代。とある説が浮上しました。
「どこでもドアをくぐる前の自分と、くぐった後の自分は同一ではないのではないか」というものです。「どこでもドアの思考実験」といえばわかりやすいでしょうかね。
具体的には、どこでもドアをくぐったとき、くぐった人間の肉体を分子レベルでスキャンする。その後データを移動先に転送して、完全なその人のコピーを作る、というものです。
しかしそれだと、くぐった時とくぐった後、同じ人間がふたり存在することになるんですよ。
さあ、困りました。一体全体、どうしましょう。
でもね、答えはすごく簡単です。
なかったことにする……もっと言えば、消滅させるんですよ、くぐった時の人間をね。
くぐった時の人間は消滅する。でも、くぐった後のコピーされた人間は、分子レベルで同じ存在。じゃあ、同じ人間なのか?ってね。
そういえば、消滅させる時にとてつもない痛みを感じるとかなんとか……まあ、そのへんは置いときましょう。
……おや、随分顔色が悪いご様子。どうなさいましたか?
ふふ。もしかして怖くなりましたか?今までくぐってきたドアは、もしかして……ってね。
あら、怖いお顔。
残念ながら、私がその疑問に答えることはできないのですよ。
というか、私もわからないのです。
……さて、どうして今この話をしたのか、解釈はおまかせしますよ。
でもね、創造主ははっきり言ってたんですよ。
「この話に、どうにか穏やかな未来をつけたい」ってね。
あの人、解釈とか……まあこじつけに近いんですけど、そういうの好きなのでね。
じゃあ、最後の選択、していただきましょう。
といってもまあ、悩みますよね。
……そうそう。ここに留まることもまた、一つの選択なのですよ。
もしあなたが怖いのなら、ね。
でも、きっと外に出ればわかるはず。あなたはその瞬間、一番頑張って……もしくは頑張ってもらって……出たんだということをね。
……ああ、すみません。口出ししないって言ったのに、余計なことを。
それでは、私が喋るのもこれで最後です。
どうぞお元気で。
あなたの行先に幸在らんことを。




