8月30日、防災クッキングと青い花の午後
草津市公民館の和室は、午後の陽射しが障子を透かしてぼんやりと明るい。
畳の匂いと、遠くで聞こえる子供たちの歓声が、まるで「夏の終わりのBGM」のようだ。
私はいつものように遅れて駆け込み、智子たちがすでに座布団に陣取っているのを見て、
「ごめんごめん!息子が靴下脱げなくて大騒ぎして」
と言いながら座ると、智子が目を輝かせた。
智子「ねえねえ、今朝の地方ニュース見た?草津市の山田こども園で、アオバナ染め体験やってたの!」
美咲がお茶菓子のクッキーを頬張りながら、ぽわんとした声で聞き返す。
美咲「アオバナ?それって……食べられるお花?」
私と智子が同時に「違うやん!」とツッコむと、佳代が呆れたようにため息。
佳代「美咲は本当に耳がフワフワしてんな。アオバナ染めっていうたら、昔ながらの青い染料で布染める伝統工芸やろ」
智子がスマホの画面を見せながら、ますますテンション上げる。
智子「ほらほら、佐山貢司さんっていうおじいちゃんが指導してて。園児たちが花摘んで、ジップロックの中でコネコネしながら染料作ってた!」
私は画面を覗き込みながら、つい笑った。
私「この子、真剣な顔して花びら潰してる。でも……ちょっと待って、これ本当に青く染まるん?」
佳代「昔は大根の葉っぱ使うとか聞いたことあるけど、アオバナって確か別名で『はなだ』って言うんやって。でも栽培大変そうやな」
美咲が急に真剣な顔で。
美咲「でもさ、子供たちに『これでTシャツ染めたら』って言われたら、絶対失敗するやん。青じゃなくてグレーになっちゃう」
私「それある!うちの娘も前にクッキー焼くワークショップで、焦げたやつ持ち帰ってきて『これ、石炭』って言うてた」
会話が盛り上がる中、智子が次の話題を投げる。
智子「それでさ、湖南市で伝統野菜『下田なす』の収穫体験やってるって!親子でクッキングもできて、なすの天ぷら作ったり」
美咲がまた聞き間違えた。
美咲「下田ネズミ?えっ、ネズミ料理!?」
佳代が思わず吹き出した。
佳代「美咲は完全に耳がネズミやな。下田なすっていうたら、地域限定の細長いナスやろ。スーパーで売ってる安いやつより、味濃いって聞くけど」
私「でも正直、スーパーの特売の方が手軽やし……って、佳代も同じこと考えてた?」
佳代「当然やろ。伝統野菜って響きはええけど、値段高そうやし。でも子供たちに『地域の食文化』って教えたい気持ちも分かる」
智子が写真を見せながら。
智子「ほら、親子でナス収穫してるとこ。でもこの子、ナス持ってるのに泣いてるやん。なんで?」
私「確かに……ナスの形怖いって思う子もおるんかな。うちの息子はきゅうりが嫌いで、『蛇みたい』って言うてた」
美咲「でも天ぷらなら食べるんやろ?子供って矛盾してるよね」
話題は次々と変わり、今度は大阪市浪速区のニュースに。
智子「それでさ、浪速区で子育てサロンで防災ワークショップやってるって!非常食クッキング体験とか」
私「防災……聞くと真剣になりそうやけど、子供たちが参加するなら楽しそうやな」
佳代が皮肉っぽく笑う。
佳代「非常食クッキング?火事場のクソ真面目ってやつやな。でも子供たちが『これ、おいしい!』って言うたら、親は複雑やろな」
美咲「確かに……非常食って言うたら、カロリーメイトとか缶詰やろ。クッキー作るのは意外」
私「でも災害時に子供が喜んで食べるやつ作るのも、親としては重要やもんな」
智子「ワークショップで、地震体験コーナーもあって。子供たちが机の下に隠れる練習してる写真あった」
美咲「机の下に入るの、結構楽しそう。うちの娘、『お家でもやりたい』って言い出して」
佳代「それで結局、遊び感覚で終わるんやろな。でも、無理に真剣にさせるより、覚えてくれる方がええか」
私たちはクッキーをポリポリ食べながら、ふと窓の外を見た。
公民館の庭で、子供たちが追いかけっこしてる。
美咲「あれ、うちの息子や!なんで公民館に?」
私「体育館でサッカー教室やってるんやって。見てると、本当に平和やな」
智子「私たちがこうして雑談してる間も、子供たちは成長してるんやろな」
佳代「成長してるかどうかは分からんけど、確実に汚れて帰ってくる」
私たちは顔を見合わせて、くすくす笑った。
智子「まあ、くだらないこと言い合っても、楽しい時間やもんな」
美咲「そうそう!私、アオバナ染めやってみたいって思った。でも絶対失敗する」
佳代「失敗しても思い出や。それに、子供たちの青い手が可愛い写真になるかも」
私は最後に、お茶を一口飲んで。
私「今日も、特に結論は出んかったけど……なんか充実した午後やった」
智子「また来週も集まろう?次はどこのニュースかな」
美咲「下田ネズミ……じゃなくて、下田なすでも食べに行こうか」
佳代「スーパーで安いやつ買って、家で天ぷら揚げたらええやん」
私たちは笑いながら、バッグを片付けた。
障子の向こうで、子供たちの声がまだ響いている。
「また来週ね~」
「うん、またね~」
そんな軽い挨拶で、今日の井戸端会議は幕を閉じた。
特に何も解決してないけど、これでええんや。
こんなくだらないけど笑える時間が、私たちのちょっとした幸せなのだ。