「魔力の適性がございません」
◆◇◆◇◆『イセスマ』
ロッツォに言った手前、無策で突っ込んで瀕死になって運良く覚醒、なんてラッキーを男は勘定に入れてはいない
「ここがギルドか」
都市の中心に聳え立つ塔の麓、そこには人だかりができている。朝のいざこざの野次馬などという下世話なものではなく、立派な仕事の最中として人だかりになっている
都市の賑わいをそのまま詰め込んだ様な騒がしさに片耳に指をさして男は歩き出した
「ここら辺の建物って一階が飲食店になってないといけない建築基準でもあるのか?」
ギルドの近くまで来た時、男は目頭を押さえた
鼻をくすぐるパンの香ばしい匂いやスパイス、肉の焼ける豪快な音を含め、目的としている行為を妨げるのには十分な環境がそこにはあった
朝食を食べていない男は早々に目的を達成し、食事にしたいと思いながら人だかりの中をスルスルと縫うって歩いた
男の目的はギルドへの登録と従業員も使っていた『処置』の手段に使われていた『魔法』なるものを学ぶために来ていた
男がカウンターへ着くと受付嬢がにこやかに微笑んで対応を始めた
「ギルドへの登録をお願いしたいのですが」
「はい、かしこまりました」
「簡単に登録の説明をさせていただきます」
◆◇◆◇◆『イセスマ』
ギルドとは仕事の斡旋場の様なところというよりは派遣会社の様な組織とのこと
『登録』───ライセンスを取得後ギルドの取り扱っている仕事の中から当人もしくは当人の所属する小隊で依頼をとして受領、解決するといった流れだ
依頼はその難易度によって大きくランク分けされている。基本的には下級ランクの者が上級ランクの仕事を受けることはできない
同行者の半数が上位ランクに達していれば、下位ランクの者がいても、上位ランクの仕事を受けることができるとのこと
依頼を完了すれば報酬が貰え、依頼に失敗した場合はギルドより違約金が発生する
もし依頼を連続的に失敗する───悪質な行為が行われたと判断された場合、登録の抹消のペナルティが課せられる
◆◇◆◇◆『イセスマ』
「最後の依頼完遂以降、五年間依頼を完了されませんと登録失効になりますのでご注意ください」
「分かりました」
男は受付嬢から用紙を受け取るとスマホを眺めながら用紙に必要事項を書いていく、書き順や書いてる意味が分からず───試験用紙の空白埋めの様な行為に体力を使いながら書き上げた
「それではこちらのカードに血液を垂らして下さい」
受付嬢は用紙を受け取るとカウンターから何やら光を一切反射しないカードをその上に翳した後、男に手渡した
男はカードと共に渡された小さなピンを手渡され、言われるがままにピンで指に刺し、その指でカードに触れた
カードに変化は起こらなかった
「あら?」
「ん?」
受付嬢は男に断りを受け、カードを受け取り、何やら呪文を口ずさみ、表情が険しくなった
「えっと?どうされましたか?」
「いえ、少々お待ち下さい」
その後、受付嬢が代わりに持ってきたカードに同様の作業をしても何の反応もカードからは返ってこなかった
「本来ですと、文字が浮かび上がるのですが」
「◾️◾️様には魔力が通っていないのかと」
「こんなこと初めてです」
追加で対応にあたった2人の受付嬢もこの事態に困惑を隠せていない様子だった───男には『魔力』がカケラも発せられていなかったのだった。それどころか男の周りの『魔力』は消失しているとさえ見えたのだった