『ユニーク・歩く神仏』
◆◇◆◇◆『イセスマ』
静まり返る都市に足音1人分が響き渡る。朝の涼しさと静けさを独り占めにする男はため息をひとつした
それは静けさにより鮮明に聞こえた言い争う声により朝の静けさを壊されたことに加え、厄介ごと、人だかりが眼前に現れたからだった
「朝から忙しないな」
道を塞ぐ人だかりが男の行手を阻み避けては通れない状況に追い込んでいた。耳に届く言い争う声の音量が増していくと只事ではないことを如実に男に伝えていた
それと同時に嫌悪感が増した男はここで見て見ぬ振りをするのは見ていて何もしない野次馬と同じと渦中へと飛び込んだ
◆◇◆◇◆『イセスマ』
恐らく白の着物に紺の袴
白い足袋に黒鼻緒の草履
腰には大小の刀をさした
侍の装いをした女人
それを囲んでいる剣やナイフを抜き放っている10人近い数の男たちを認めた。ナイフや剣からは赤い液体が垂れており、それを認めた男は全身の血がカッカと沸き立つのを必死に抑えたが10人いる男達に向かって吠えた
「恥を知れ!」
『無策』───あまりの醜態に思わず我慢が間に合わず叫んだ男に集団が振り返った
握り拳に極めて強い力みを込めたせいで軋み、指の隙間から血液がひとつ、またひとつと雫を滴らせていた
振り返った男達は最初こそ反抗の意思を示していたが、今にも視線だけで人ひとりを殺めんとする男のその剣幕にたじろぎを見せた
「な、何だよ」
「誰だよお前」
「何だオメェ」
口々に男に対して不満を述べ、男達も引き下がることなく退いた足を一歩踏み込みその場にとどまった
「ひとりに寄ってたかって恥ずかしくないのか」
「お前には関係…」
「にいちゃんこれはな…」
◼️◼️は男達の言葉を待たずに歩き出した
歩む度に地を揺らす錯覚───全身の毛が逆立ち、肌が開くと全身の震えが止まらなくなる男達はひとり、またひとりと尻餅をついた
観衆はその姿、背中に尋常ならざる気配を受け、蜘蛛の子を散らす様に瞬く間に野次馬はいなくなった
男は静かに、誰をも傷をつけぬ歩みで女侍の元へと着くと片膝をついて容態を確認した
「背中から斬りかかったのか」
男は女侍の背中で馴染み白い着物を染める温かい赤い液体を目の前にして再び修羅になる予兆を見せた
「◼️◼️さん!」
「…」
そこに現れたのは従業員を連れたロッツォの姿だった。急いできたのか息を切らし今にも倒れそうな様子を見せていた
「どうか、落ち着かれてください」
「落ち着く」
「このままではその方にも障ります」
従業員が◼️◼️と10人の男達を抜けていくと女侍を丁寧に運び始めた
「◼️◼️さん」
「すみません」
二度の呼びかけにより男は落ち着きを取り戻すと啜り泣く様に深く息をついた。目頭を押さえ駆け寄ろうとするロッツォを静止すると大丈夫であることを告げた