ほざけ異世界、ワンダーランド
「はぁ?はん…」
スマホから目を離した瞬間、目の前に広がる景色に絶句する。コンクリートだらけの夜道から右見れば緑、左見れば緑、上は快晴、下は土と大凡───現代における僕の帰り道とは思えない景色に絶句する
「これが異世界ってやつか」
『超速理解』───というわけではない。大自然広がる景色だけならまだ希望はあった。飲み会帰りにやらかしたと言う、万に一つの羽目外し。そんなやらかしによる領域の内、しかし無情にも目の前に広がる景色に加えて明らか鳥や飛行機じゃない飛行物体が視界をもの凄い速さで通り抜けたことで馬鹿馬鹿しい現実を受け入れないといけなくなった
「えぇ…どうしよ」
明らか現実離れした景色に最初に思い浮かんだ言葉は
「会社に休みの連絡入れてないよ…」
誰が聞いても馬鹿なものだった
◆◇◆◇◆『イセスマ』
「さてどうしよう」
今後の行動を決めるべく遭難時同様ポケット、カバンの中身をひっくり返して中身を改める
『充電切れ間近のスマホ』『塩分タブレット』
『SIMなしスマホ』『名刺入れ』『自宅の鍵』
『古びた財布』『充電器』『モバイルバッテリー』
『使いさしの絆創膏』『弁当箱と箸、中身なし』
『ハンカチ』『タオル』『ミニ裁縫セット』
「終わった…」
圏外のスマホを片手に天を仰ぎ見る。僕が何か悪いことでもしましたか?神様ヨォ??
「死にたくないし、歩き出すか」
神頼みなんて柄じゃない。そもそも手を合わせる程度の信仰心だしと踵を返して歩き出す。幸い体に痛いところはない、空腹もまだ軽い、僕は渋々気持ちを切り替えると果てまで広がる草原に向けて一歩を踏み出した
◆◇◆◇◆『イセスマ』
「日本と違って湿度はそこまで高くないのかな?」
照りつける太陽の下、靴底に感じる草の弾力と吹き抜ける風を共に歩き続けていた。手首につけている腕時計は最近修理に出したばかりなのでおそらく問題ないと思う。思いたい
太陽の日の光で熱が上がり汗をかくものの早々に乾いて気持ち悪さはなかった。これが日本だったら恐らく蒸し焼きになっているだろう
それ程までに陽の光が元気に辺りを照らしている。雲ひとつないのを見るに絶好の洗濯日和だよ畜生
「水筒…買っときゃよかった」
◆◇◆◇◆『イセスマ』
今にして思えばかなり無謀な賭けをしていたなと思う。しかし、道標のない今の状況で歩き出す以外現状を変える方法がないのも事実だった
幸いなことにその賭けに勝った事は明らかだったと思う。目の前に広がる人工物───石畳の敷き詰められた街道を踏み締めることができているのだから
「ミネラル美味え」
鞄にあった唯一の食料を口に含みつつ街道を歩く、その道中で『スマホ』をあれやこれやと弄り回してみたものの『圏外』の表示は変わらず表示されていた
「怠いわぁマジで」
買い換えたばかりのスマホ、壊れていないことが幸いながらこういう時に使い物にならないのはやめて欲しいと思った
『地図』もない『電話』は繋がらない、そもそも圏外だしね
『アプリ』はうんともすんとも言わないが『買い切り、ダウンロード』タイプは動いたものの『ゲーム』や『映画』が見れるから何だって話だ
そこまで思い返して僕は血の気が引いた
「更新費用どうなるんだ…」
アプリのサブスクリプションは月額で契約している僕は仕事ができない現状、向こうの世界で給与は発生しないとなると貯金から出ていくことになる
「アァ、クッソ最悪だ」
考えれば考えるほど問題が増えていく…考えないように努めても何もすることのない今の状況では考えざるを得ない
「頭も痛くなってきた」
歩き通し、汗は即乾くで水分が徐々に持っていかれている現状は非常に危険だ。唇がまだ潤っているため早急に水分補給をしなければならない訳ではなさそうだ
頭痛の原因も陽の光に対して、眉間に皺を寄せ続けているせいだろう。目頭を伸ばすように努めよう。ただでさえ顔が怖いと言われるのだから気をつけないと
「ま、人に会わなきゃ意味ないがね」
果てまで続く様に見える荒野を前に独り言が止まらない、頭皮から生じた汗が額やこめかみを通り、鼻筋、頬と濡らしていくのを鬱陶しいと思いながら拭わないのはただでさえ減る一方の体力を無駄に使わないためでもあった
◆◇◆◇◆『イセスマ』
「…」
独り言すら億劫になる気持ちの悪さに片膝をつき方で息をする。素人目に見ても分かる。重度の脱水症状、立ち上がろうにも立ち眩みと筋肉がつるため、膝に手をついた上で座り姿勢で身体を支えるのがやっとだった
「…」
失敗だったのだろうか?あの場で誰かが来るまで待つのが正解だったのだろうか?街道で反対に向かって歩くのが正解だったのだろうか?
疑問がついては止まない状況に遂には意識を手放すことになった。20年余りの走馬灯に碌な記録はないままゆっくりと目を閉じた