第2話「再会は、気まずさの奥で」
月曜の朝は、週の中でいちばん苦手だ。
それが今朝は、さらに輪をかけて最悪だった。
電車の揺れに合わせて、胃のあたりがきゅっと痛む。
週末のピザとビールはどこへやら。昨日までの自分が、他人のように思える。
「芦澤先輩……ほんとに、来るんだよね……」
念のために再確認したスマホの通知。
「芦澤涼介」の名前は、確かにそこにあった。
やっぱり、運命ってこういうときに悪戯するものなんだ。
五年ぶりに顔を合わせる相手が、「嫌いだった人」なんて。
会社に着くと、フロアの空気が少しだけざわついていた。
新しい異動者がいるというだけで、オフィスはちょっとしたお祭り騒ぎになる。
隣の島の女性社員たちは、誰が来るんだろうとソワソワしている。
そして──
「おはようございます。今日からこちらにお世話になります、芦澤です」
その声は、思っていたよりも低く、よく通る声だった。
そして私は、五年ぶりに、その顔と再び向き合った。
あの頃と、まるで変わらない。
でも、少しだけ違う。
──落ち着いた表情。前よりちょっと、柔らかい気がする。
私を見た瞬間、驚いたように目を見開いて、それからほんの少し笑った。
気のせいかもしれない。
でも、その視線には、あの頃にはなかった何かがあった気がして──
「……久しぶり、椎名さん」
たったそれだけの言葉なのに、なぜか心がざわついた。
「お久しぶりです、芦澤さん」
名前に“先輩”をつけなかったのは、意図的だった。
もう私は新人じゃないし、あのときの私じゃない。
それでも、うまく笑えなかった。
朝礼が終わるとすぐ、上司が言った。
「じゃあ芦澤さん、今日から椎名さんとバディ組んでもらうから、よろしく」
え? バディって──
「よろしくお願いします、椎名さん」
あのときと、同じ声。
でも今度は、私の目をまっすぐ見ていた。