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【ローファンタジー】 『ありふれた怪異、街の名物』

ケモ耳神社

作者: 小雨川蛙

 ある神社が話題になっている。


 寂れた神社だ。

 趣のある。

 雅な。


 そんな神社に巫女がいる。

 若く、美しい巫女だ。

 だけど、美人なだけじゃない。


「それ、本物なの?」


 訪れた参拝客の問いに巫女は頷く。


「本物なわけないでしょー?」


 そう言って彼女が頭の上についた狐の耳をぴくぴくと動かして見せる。

 途端に参拝客達の沸く声が響いた。

 主に男性の。


「うわ! すげえ!!」

「うそでしょ!?」

「どうやって動かしているの!?」


 そんな問いかけに彼女は舌をペロッとだして笑う。


「ないしょ~」


 スマホのカメラで写真が取られる。

 まるでここはイベント会場のようだ。


 神社なのに。


「ちょっと! 写真撮るのはいいけど! ちゃんとお金も落としていってよね!」


 実に罰当たりなやり取りだ。

 しかし、参拝客はついでとばかりにお金を落としていく。

 ご神体の名前も姿さえも知らないままに。


 この神社が寂れていたのはつい先日までだ。

 趣があり雅だったのもつい先日までだ。


 今じゃ大盛況だ。

 良いか悪いかは別として……。




 人々が去った夜。

 巫女は舌打ちをして服を脱ぐ。


「ほんっとに情けない……」


 言葉と共にその体は狐に変わる。

 つまり、この神社の神様に。


「言っただろ? これが現代の実情なんだって」


 そんな言葉と共に一人の男が現れる。

 肌は荒れ、髪の毛もぼさぼさ、おまけに小太りの如何にも冴えない男だがこの神社の神主でもある。

 そして此度の『商い』を考え出した男でもあった。


「ほんっとに情けない……今の男共は女の尻しか見んのか……」


 狐としては半信半疑と言うか、半ばヤケクソというか、そんな気持ちで化けてみたら……ご覧の有様である。


「いや、昔も似たようなもんだろ。目を背けんな」


 男の言葉に狐はギロリと睨みつける。


「坊!」

「そんな風に睨まれたって……消えるよりマシだろ?」

「消えた方がマシじゃ!」

「なら消えればいいじゃん」

「ぬぅ……」


 苛立つ狐の隣に座り込み、男はスマホを器用に操って言う。


「次の戦略だが今度は露出を増やしてイラストやフィギュアなどのグッズ化を狙う」

「ぐ、ぐっず? 何故、そんなものを……」

「今のままじゃその内飽きられて終わりだ。コンテンツとして成長させないと……」

「あの化けた姿が世界中にばら撒かれるというわけか? とてつもなく嫌なんじゃが……おい。聞いとるか?」


 渋る狐を無視して男はスマホの操作を続ける。

 そんな男の画面を見つめていた狐が不意に悲鳴をあげる。


「坊! まさか次はこれをなどと言うのではあるまいな!?」

「次はこれだ」

「ふざけっ……!」

「本気だ」


 きゃいきゃい騒いでも一切反応を見せない男に狐は言った。


「貴様を末代まで祟ってやる」

「多分、俺が末代だぞ」

「そうはさせぬ……!」

「はいはい。どうも」


 夜の神社の中、神様と人間の企みは今日もまた密やかに続いていた。

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― 新着の感想 ―
とても面白いです!なんだろう、社会封鎖的な魅力が感じられます!映像が頭の中で浮かぶような、わかりやすい!!ありがとうございました!僕の小説の成長にも繋がりそうです!良い衝撃をありがとうございます!!!
 しょ、正体が神ではなく仕えるモノ……  まあ、“ば”かされる方が悪いのでしょうけど、人の愚かさをこれでもかと皮肉る所はさすがですね。笑
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