第2話: 薄い光の揺れ
春の昼下がり、ハルのアパートに柔らかい陽光が差し込む。学校から帰ったハルはランドセルを投げ出し、ソファに倒れ込む。「今日も…何も変わらない…」と呟き、目を閉じる。いじめっ子に囲まれた記憶が頭をよぎり、膝を抱える。そんな時、玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けると、瑞稀が「ハル君、お姉ちゃん、お菓子持ってきたよ。入っていい?」と笑う。ハルが「…うん」と小さく頷くと、瑞稀が「ハル君、顔色悪いよ。大丈夫?」と心配そうに覗き込む。ハルは「別に…いつも通り」とそっぽを向くが、瑞稀の優しい声が耳に残る。
瑞稀がクッキーをテーブルに置き、「ハル君、お姉ちゃん、昨日ハル君が笑ってくれたの嬉しかったんだ。また笑ってくれると、もっと嬉しいな」と言う。ハルが「…笑う理由なんかないよ」と呟くが、瑞稀が「じゃあ、お姉ちゃんが理由作ってあげるよ」とクッキーを手に持つ。「はい、あーん」と差し出すと、ハルは「子供扱いしないで」と顔を赤らめる。でも、仕方なく口を開けると、クッキーの素朴な甘さに少しだけ表情が緩む。
「…お姉ちゃん、変な人」と呟くハルに、瑞稀が「変でもいいよ。ハル君が元気ならね」と笑う。ハルの心が一瞬揺れ、「もしかしたら、この人には…少しだけ…」と思うが、すぐ「いや、どうせ裏切られる」と打ち消す。
夕方、ハルがゴミ出しに行くと、いじめっ子の一人が「オイ、ハル、明日も楽しませてくれよ」と近づく。ハルが「…やめて」と呟くが、押されそうになった瞬間、瑞稀が「お姉ちゃん、怒るよ! ハル君に何する気?」と現れる。いじめっ子が「チッ、うぜえ」と逃げると、瑞稀が「ハル君、大丈夫? お姉ちゃん、守ってあげるから」と手を差し伸べる。
ハルが「…お姉ちゃん、なんでそんな優しいの? 僕、なんの価値もないよ」と言うと、瑞稀が「ハル君、お姉ちゃんには価値あるよ。生きてるだけで十分」と目を潤ませる。ハルは目をそらし、「…信じられない」と呟くが、瑞稀の手を取る。彼女の手の温かさに、「もしかしたら…この人には…」と小さな光が心に灯る。でも、「どうせ消える」とすぐ打ち消す。
夜、瑞稀が「お姉ちゃん、ハル君の好きなもの知りたいな。何かある?」と聞くと、ハルが「…昔、お母さんがスープ作ってくれたの好きだった」と呟く。瑞稀が「そっか、お姉ちゃん、明日スープ作ってあげるよ。楽しみにしててね」と言うと、ハルが「…別に期待してない」と言うが、心の中で「少しだけ…楽しみかも」と感じる。
瑞稀が帰った後、ハルはベッドで「瑞稀お姉ちゃん…変だな」と呟き、眠りにつく。夢の中で、瑞稀の笑顔と母のスープが重なり、少しだけ温かい気持ちになる。でも、目覚めると「どうせ夢だ」と冷たく思う。
翌日、学校でハルがいじめられ、帰宅すると瑞稀が「お姉ちゃん、スープできたよ。ハル君、食べて」と鍋を差し出す。ハルが一口飲むと、懐かしい味に涙が溢れる。「…お母さんの味に似てる」と呟くと、瑞稀が「ハル君、泣かないで。お姉ちゃん、嬉しいよ」と頭を撫でる。
ハルが「お姉ちゃん…ありがとう」と初めて素直に言うと、瑞稀が「ハル君、お姉ちゃん、そばにいるからね」と笑う。ハルの心に小さな光が揺れ、「もしかしたら、この人には…少しだけ信じても…」と思う。でも、「裏切られたら終わりだ」と警戒を解かない。
その夜、ハルの部屋に甘い香りが漂う。窓の外に赤い目が光り、「ハル…お前は…」と呟く声が聞こえる。ハルが「また夢…?」と呟くが、心に不穏な影が広がる。