お弁当を卒業したかった
家族が起き出す前の、静かなひととき。そんな中、わたしはキッチンで手を動かす。
どうしても当日の朝に加熱調理したい、卵焼き、スティックブロッコリーの肉巻き、焼き塩鯖。朝炊き上がるように炊飯器のタイマーをセットしておいた炊きたてのごはんとともに、それぞれをバットに広げて冷ます。
作りおきのお惣菜は、詰める直前まで冷蔵庫にスタンバイしていてもらう。今日のメンバーはさつまいものはちみつレモン煮、こんにゃくのピリ辛炒め煮、根菜の炒めサラダ、ほうれん草のごま和え。
さつまいもは紫いもを使った、赤紫色。炒めサラダの根菜はごぼう、れんこん、人参をよく炒めてから合わせておいた調味液に漬け込んでおくきんぴら風の味付け。
お弁当の彩りって、なんだっけ? と、寝覚めの悪い頭でぼんやりと考える。
赤、黄、緑、黒、白の五色があると良いという。
赤は人参と肉巻きの肉。黄は卵焼き。緑はチラ見えブロッコリーとほうれん草、黒はこんにゃくと鯖の皮。魚の皮はちょっと無理があるか、青魚だし。そして白はごはん。
よし、今日はクリアできている。
ここに紫色が入るとぐっと大人っぽくなるのだが、わたしが入れるとなぜか地味になる。盛り付けが下手な点を棚にあげても、どうにも納得がいかない。
しば漬けを入れたときは地味に怒られたからな。苦手なスナップえんどうを入れたときにものすごい剣幕で怒られて以来だ。
毎日お弁当を作っていると、どうしても色が偏る日がある。そんな日は諦めて流れに任せることにしている。そんな日に限ってなぜか好評だったりもして、なんだか悔しい気持ちにもなる。
おかげで、頭の中が常にお弁当だ。
しかしそれも、もうすぐ終わり。
子どもが高校を卒業すれば。大学生は学食へ行ってくれるものと信じている。
今日を入れてあと何食のお弁当になるのか。少しだけしんみりとしながら、お弁当箱へ詰めていく。
しかしあまり感傷に浸っている余裕はない、寒い時期は自ら起きてくることはないから。家族を容赦なく叩き起こしに、部屋をまわるのだ。
高校生活最後のお弁当を持たせて数日後、人生の先輩でもある年の離れたきょうだいと顔を合わせる機会があった。もうそんな年齢なんだねと志望校への合格を祝われたのち、気になるひと言も受け取る。
「お弁当、たぶんまだまだ続くよ」
誰か、嘘だと言って。
その願いもむなしく、数週間後にお弁当作りを再開しているわたしの姿があった。
誰か、嘘だと言って。
学食の混雑が怖くて入れないって、高校でも昼の売店に行けなかった(つまり、弁当作りがサボれなかった)から知ってたけど、知ってたけどさあ!!!!