ここはフィズカルセンターの 肉体改造プログラム実戦スクール。
「母さん、流星です。やっと会えましたね。
母さん、どうしましたか?」
「おお、流星、立派になりましたね~。
やっとお前に会えたというのに・・・私は・・・」
花梨は涙ぐんで声にならない。
「母さん、僕は医師です。
必ず助けますから安心してください。
百合や銀河にも会わなくっちゃね」と言いながら
流星は母親の小さな両手をしっかりと握った。
そして、そのまま流星も目頭が熱くなり涙ぐむ。
スクリーンを見ていた銀河は
「母さん、母さん」と叫び、目に一杯の涙を浮かべた。
「どうして看護婦長の母さんが・・・病気に」
流星は母親に「とにかく検査をしてから
治療の判断をしましょう」と、優しく言う。
しかし、流星は
相当進行している末期の胃がんでは
と推測していた。
鴻池銀河は、今の自分の立場を考えたら
母親に会いに行けない。
他の訓練生の立場も考えなくてはいけないのだ。
100%会えないわけではないが
ほぼそれに近い運命だ。
「兄さん、母さんを頼む」
銀河は心で祈った。
ここはフィズカルセンターの
肉体改造プログラム実戦スクール。
「銀河、皆に見本を見せてやれ」と、教官が命じる。
「はい、連続回転をします」
バック転の連続回転10回&バック宙。
「いいか、あのスピードだ」
教官が大きな声で言う。
「次はステップ前宙だ。先ず10人馬になれ。
銀河、跳んで見せろ」
「はい、いきます」
「よし、見たか、皆、真似して跳べ。先ず馬5だ」
体操と忍者プログラムを終え、空手プログラムの番だ。
「銀河、敵を一撃で倒す蹴りを見せろ」
「はい」
銀河は、前方にある5つのダミーを蹴りで倒す。
その時間、わずか3秒。
今日の最終訓練は水泳。
人工的に流れを起こした急流の川での水泳訓練だ。
「川上に向かって泳げ! 流されるな!」
この訓練が一番きつい。
決して息を抜けない緊張感と溺れる危険性がある。
又、荒波の川の横断訓練は半端じゃない。
溺れて救急隊の世話になった生徒が何人もいる。
生命を賭けて潜る深海訓練はすごい。
200メートル潜った所にある金塊を
素潜りで取ってくる訓練は
潜る者も見張る者も真剣そのものだ。
全ての訓練を終え
部屋に戻って来た訓練生たちは
言葉を発する元気もなく
くたびれたラッコのように
風呂にどっぷりとつかって動かない。
擦り傷がヒリヒリして、悲鳴を上げる者もいる。
打撲で痛めた脚や腕を冷水で冷やす者もいる。
死んだようにうつ伏せになり、起きない者もいる。
「もういやだ、こんなこと。僕は帰りたい」
3年生(8歳)の山田が泣いて言う。
「僕も帰りたいです」
同じ3年生の南もつられて言う。
銀河は、自分が辿って来た道を
山田と南も歩んでいるので
彼らの気持ちは痛いほどわかる。
だから何も言わない。慰めはしない。
彼らは帰れないことは分かっている。
ただ、言ってみたかっただけなのだ。
一晩泣きつかれて寝たら、又元に戻る。
それが彼らの運命だから。 (8)