男は、銀河に寄り添って静かに目を閉じた。 神から与えられた制限寿命がクローズした瞬間だ。
銀河は、正式に軍隊に入隊する前に
今の世間の現状を自分の目で確かめるため
1人で街を散策することにする。
そして、運命の制限寿命に怯える
1人の男に公園のベンチで遭遇した。
その男は、見知らぬ銀河に身の上話をする。
「俺はライフ26で生まれたんだ。
背中の数字が遂に{1 }になった。
俺にはもう時間がない。
設計士として10年間も教育訓練を受け
やっと一人前になって社会に出て
生活も安定してきたんだ。
だから、そろそろ親に家を建ててやろうという時に」
「あなたのご家族は?」
「俺はまだ独り身だ。
地球から消えたって誰も悲しまないさ」
「そんなことはありません。
あなたは卒業して
11年間も社会に貢献してきました。
それ自体があなたの親の誇りであり
親孝行をしたのだと思います」
男は銀河の顔をじっと見て
「俺は親孝行をしたのか、これで良かったのか」
うっすらと涙を浮かべて言う。
「いずれ誰もが神のお傍に逝きます。
そして、神の楽園で幸せに暮らすのです。
私も近い将来、必ずそこに逝きます」
「そうか、みんな来るんだ・・・又逢えるんだ。
又逢えるんだ・・・」
男の声が小さく細くなった。
とその瞬間、男は銀河を押し倒し腰の光線銃を奪う。
「何をするんだ、止めろ!」
「俺はもう死ぬ。独りで死ぬのは嫌だ・・・一緒に死んでくれ」
「待て、撃つな! 自分で生命を絶っては天国に逝けないぞ。
神が自然寿命を与えてくれたんだから」
男は一瞬天を仰いだ。
その瞬間、銀河は忍者のごとく空中を飛び、男を押さえた。
あなたの気持はよくわかります。
私からも神にお願いをしてあげます。
素晴らしい天国に召されますように・・・」
男は、銀河に寄り添って静かに目を閉じた。
神から与えられた制限寿命がクローズした瞬間だ。
「おい、俺の数字を消して80と彫ってくれ」
ガラの悪い大男が、拳銃を突きつけて
彫り師を脅かしている。
男の制限寿命の数字は{5}となっていた。
元々は{45}だったので
もう40年は生きている。
残り5年しかないことに動揺したのだろう。
彫り師はこの男に脅迫され
已む無く{5}を焼き切る。
男の顔が歪み「ウー!」とうめき声を上げた。
すると、青白い煙りが「ジュー」っと音を立てて上がり
今あった{5}が消えて、{4}の数字が現れた。
不正をしたので、寿命が1年短縮されてしまったのだ。
銀河は、街かどのキリスト教会を覗いた。
牧師が、信者たちに説法をしている。
「あなたがたはもうじき神の楽園へ導かれます。
十分地球に寄与されてきました。
神からも感謝申し上げます。
何ら苦痛はございません。静かに神に導かれます」
残る寿命が1,2年になった人間が
教会に集まっている。そして、賛美歌を歌ったり
牧師の話を聞いたりして、静かに神の導きを待っている。
銀河は人間本来の姿を見て、生と死の深い意味を理解し
自分なりにこの地球という惑星に尽くしていこうと決心する。
そして、この人達を救うことができないかと苦悩し
神(GOD)の存在を追求していく。 (13)