8-11
二十日、両軍は正式に講和条約に調印した。家康は砲撃を停止させた。
休戦が成った事で、味方は堀底の友軍の死体をようやく回収出来るようになった。
回収部隊は空堀の底に下りた。
死体には虫や犬、鳥が群がっていた。兵士は空砲を打って追い散らした。
部隊は蛆虫を踏み潰して死体に歩み寄り、飛び回るハエを手で払い、変わり果てた仲間と再会した。
顔は腐って判別出来なかった。家紋入りの胴丸でどの部隊か分かった。
部隊は体液が染み込んだ地面に酒を注ぎ、死体に手を合わせた。
埋め立て工事が終わるまで、大野の息子は岸和田藩主の小出吉英に人質として預けられる事になった。小出は豊臣政権と縁の深い大名だったが、関ヶ原も今回も幕府に付いていた。
諸将は茶臼山の屋敷を訪れて勝利祝賀の言葉を述べた。
色んな人がひっきりなしにやってきて、似たような事を言って帰っていく。家康と幕僚は終始にこやかに対応した。
とある大名が退室した。メンバーは笑顔から真顔に戻った。
小姓数人が茶や菓子を持って広間にやってきた。
正純は音を立てて茶を啜った。家康はようかん一本をチョコモナカジャンボのように頬張った。
別の小姓がやってきて廊下に座った。彼はメンバーに次の面会予定者を告げた。
「次は大野修理様、織田侍従様、七手組頭の皆様です」
正純は「待たせておけばいいだろ」とぼやいた。
崇伝は面会を促した。
「向こうも不安でしょう。早く会って安心させてやりたい。坊主の無駄な仏心を受け入れてくだされば幸いです」
大野と有楽斎、七手組隊長七人は広間に通された。さすがに周りの視線は厳しかった。
九人は頭を下げて許しを請うた。
家康は謝罪を受け入れた。
「顔を上げてくれ。もう終わった事だ。これからは共に前を向いて歩いていきたい」
九人は顔を上げた。
家康は大野を褒めた。
「俺はお前を甘く見ていたようだ。今回、お前は主将として見事に軍勢を指揮した。その武勇はもちろん、前右府への忠節も比類ない。あっぱれ上方一の勇者である。
正純。お前もあやかれ。
修理に頼みがある。その肩衣をくれないか。正純に着せてやるのだ」
家康はユニフォーム交換を求めた。
大野は感激して泣いた。
「何とありがたいお言葉。武将冥利に尽きます……」
泣きながら着物を脱いでいると、これまでの苦労が思い返されて更に号泣した。
正純は鼻水でグチョグチョの着物を着せられた。
茶人でもある有楽斎はメンバーに茶を振舞った。和やかな雰囲気で戦争は終わった。




