7-16
大野は秀頼と本丸御殿の大広間で面会した。
秀頼は笑顔だった。
「よかった、よかった!きっと神仏に祈りが通じたんだろう!正月は江戸で迎えているかもしれないなあ!」
大野は本題を切り出した。
「徳川は再起不能の打撃を受けました。今全軍で出撃すれば大勝利間違いなし!」
「そうだよ!」
「しかしながら、太閤は敵にも情けをかける仁者でありました。落城前には必ず使者を送って降伏を促したものです。亡きお父上の教えに習い、敢えて、敢えてここで停戦の使者を送るのはどうでしょうか」
秀頼は怒った。
「お前もそんな事言うのか!?ふざけんなよ!」
大野は頭を下げて頼んだ。
「敵味方の損害を最小限に抑えて勝つ!これぞ王者の戦と申すもの!」
秀頼は立ち上がった。大野は再び頼んだ。
「上様!どうか和睦してください!」
「お前がやれって始めた戦争だぞ。なのに張本人が今更止めたいってどういう事だ?
最後までやる。和睦はしない。家康が死ぬか、俺が死ぬかだ!」
秀頼は退室した。
秀頼や牢人衆は「真田丸は大勝利だった」、「今こそ反撃だ」と考えていた。MVPの幸村の発言力は大きく向上した。
一方、大野は「勝ちは勝ちだが戦局を変える大きな勝利ではない」と考えていた。彼は勝利を得ても強気になって幕府との交渉を切り上げたり、講和条件を釣り上げたりしなかった。
両者の軋轢は深まった。そして多数決になれば六万人が勝つのは目に見えていた。
十二月五日、家康は本陣を南の住吉から前線の茶臼山に移動した。秀忠以下南部方面の諸将が茶臼山の屋敷に呼び出された。
家康は説教した。
「現場の判断で勝手に攻めた事。これはいい。前線でしか分からない事もあるからな。
返り討ちにあった事。これもいい。
いいかい。人間だから失敗はする。それはしょうがない事だ。でも挽回すれば失敗じゃないんだよ。
お前達はすぐに手を引いて次の手を考えるべきだった。なのに攻め続けて被害を拡大させた。許される事ではない。だが今回は許す。
寄せ集めの牢人だからと侮るな。戦わずして勝つ方法を考えろ」
諸将は神妙な面持ちで頭を下げた。
家康は参謀長ポジションの本多正信を叱った。
「俺はお前ならと信頼して前線を預けていたんだ。なのに止めるどころか、そそのかすなんて。三日前のお前は何を聞いていた?」
「そうは仰いますが、武士の仕事は戦場で手柄を稼ぐ事です。悪いのは武士に満足な恩賞を与えない側です。
そうだ、全部殿が悪い!腹切って我らに詫びるべし!」
家康は静かに息を吐いた。
諸将は震え上がった。正信は平然としていた。
家康は諸将に命じた。
「さっき言った事は俺にも当てはまる。この敗戦を挽回してみせよう。お前達の面目が必ず立つようにしてやる。
一つだけ条件がある。二度と、勝手に、動くな」
諸将は「はい!」と声を揃えた。
幕府軍は黙々と塹壕工事を進めた。二十万の部隊は徐々に惣構えに接近した。土塁からの銃撃は土壁が全て吸収してくれた。
幕府軍は数日かけて城から二百メートルの位置に達した。
南部方面の部隊は砲台を築き、大砲を据え付けた。
南の土塀に向かって、幕府軍の大砲が一斉に火を噴いた。
(続く)




