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1-7

 京都入りした秀頼一行は隊列を組んで街中を移動した。

 全部で三十人ほど。片桐兄弟に大野、有楽斎の姿もあった。

 秀頼は駕籠に乗っていた。


 一行の中に大野治房がいた。

 治長の弟である。かつて治房と片桐貞隆は一人の美しい女性を巡って争った。女性の父は粗暴な治房を嫌がり、貞隆に娘を嫁がせた。

 治房は貞隆夫妻を恨んだ。兄の且元も憎んだ。幕府の事もひたすら気に食わなかった。彼は城内で最も過激な反片桐、反徳川派になった。


 住民は道沿いに出て心配そうに見送った。会見で何かあれば戦争の時代に逆戻りする。駕籠に手を合わせて祈る者もいた。


 一行は二条城に到着した。

 国宝の二の丸御殿の玄関前に幕府側の出迎えが立っていた。その中に豊臣最大の敵がいた。


 大御所の徳川家康。健康には細心の注意を払っていた。食事管理とスポーツに励んだ体はバク転出来るほど若々しかった。

 秀頼と違い勉強熱心だった。城にいる日は必ず学者を呼んで講義を受けた。


 一行は一目見て時間稼ぎは無駄だと悟った。またこの太った秀頼で大丈夫なのか、と不安にもさせられた。


 一行は二の丸御殿の前で止まった。駕籠から秀頼が降りてきた。

 家康と秀頼は挨拶を交わした。


 大野治房は後ろを向いて屈強な家臣二人に目配せした。金剛力士像のようにムキムキの男達である。

 金剛A、Bは静かに隊列を離れた。


 金剛コンビは城を出て住宅街に入った。笠を被った大男が付いてきた。


 金剛コンビは角を左に曲がった。笠男も付いてきた。

 金剛コンビは次の角を右に曲がった所で駆け出した。


 笠男は近くにあった路地裏の細い道に駆け込んだ。家と家の間を壁ジャンプで飛び上がり、瓦屋根の上に乗った。

 二人の動きが上からよく見えた。笠男は屋根の上を走って先回りした。


 金剛コンビは住宅街から川岸に出た。

 金剛Aは立ち止まって振り向いた。笠男はいなかった。

 辺りに黒い影が落ちた。

 抜刀した笠男が二階の屋根から飛び降りてきた。Aは袈裟切り(右上から左下にかけて斜めに切り落とす)で真っ二つに叩き切られた。


 Bは振り返って刀を構えた。

 笠男は脇差を抜いて二刀流になった。肩の力を抜いて脱力し、ボクシングのノーガード戦法のような構えを取った。


 ボクシングのハードパンチャーはジャブ一発でKO出来る。笠男は筋力と瞬発力が異常発達しており、体重移動を行わずに素早く強い攻撃を繰り出せた。


 Bは助走を付けて真っ向切り(剣道の面)を打った。

 笠男はノーモーションの逆袈裟切り(左下から右上にかけて斜めに切り上げる)で振り下ろされるBの両手首を切断した。そして左の脇差を腹に突き刺した。刃は体を貫いて背中から突き出た。

 笠男は「レ」の形に脇差を切り下げ、抉り、切り上げて致命傷を与えた。


 家康と秀頼は二の丸御殿の立派な座敷の前に立った。

 偉い方が先に入るのがマナーである。どちらが偉いのか。周りは緊張した。


 家康は「一緒に入ろう」と言い出した。

 秀頼は断った。


「大御所が先にお入りください。私は後から参ります」


「主として客をもてなすのが礼儀だ。先に入って上席に」


 秀頼は先に入った。

 偉い方が部屋の奥にある一段高い席に座るのがマナーである。秀頼は高い席と向かい合う形で平間に座った。

 家康は高い席に座るように促したが、秀頼は「いえいえ私はこちらで結構です」と譲らない。

 家康は仕方なく高い席に座った。


 二条城会見で幕府と豊臣家の上下関係が確定した。正確には一六〇九年に年賀の使者を送った時に確定していたのだが、会見でそれが世間一般に周知された。

 家臣秀頼には主君家康に従う義務が発生した。これ以降の敵対行動は謀反と解される。


 しかしその意味を豊臣サイドが理解していたかは怪しい。

 家康も気を使って特別扱いを続けた。この後、幕府は全国の諸大名に忠誠を誓う誓紙(当時の念書。法的拘束力は低い)の提出を求めたが、秀頼には求めなかった。

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