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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
6話 木津川口の戦い
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6-10

 十八日夕方、奇襲部隊一万一千は船場の南に移動した。

 運河を挟んだ対岸に敵の守る木津川口砦があった。ちょうど夕飯時で、砦から白い炊事煙が上がっていた。

 運河を西に進むと木津川に出る。敵の水上部隊が川筋に展開していた。


 奇襲部隊は三つの家の合同部隊だった。

 紀伊和歌山藩主の浅野長晟。領地経営が不安定で、常に一揆の危険を抱えていた。浅野は村々から人質を取って小屋に押し込み、その周りに干し草や薪を置いて、逆らった焼き殺す用意をしてから出陣した。戦場での反乱を防ぐため、同郷の人間を別々の部隊に配置した。


 阿波徳島藩の蜂須賀至鎮。こちらは領地経営に成功して名君と慕われていた。兵数は浅野の半分程度だが、部隊の団結力は高かった。


 淡路由良藩主の池田忠雄。十二才の少年である。家康の孫で、妻は蜂須賀至鎮の娘。実際の指揮は実家の姫路藩池田家から派遣された重臣が取っていた。


 浅野家と蜂須賀家は祖父の代から秀吉に仕えた古参中の古参である。豊臣家も期待して援軍要請の書状を送ったが、浅野家は使者を切り殺して未開封の書状を駿府に送った。蜂須賀家は未開封の書状と一緒に隠居した父親も人質に送った。両家は強い拒絶の態度を示して信任を得た。


 砦の様子は近江高島藩主の佐久間安政がすっかり調べ上げていた。


 砦は牢人部隊八百人が守っていた。指揮官は元宇喜多家重臣の明石全登(大野治房と薄田兼相が守備していた説もある)。

 この時、明石全登は会議で大阪城内にいた。弟の明石全延が代理の指揮官を務めていた。

 厳しい指揮官がいない砦は解放感で乱れた。勝手に遊びに出かける者が大勢出た。

 いつもは一升炊き(十人前)の大釜で炊事煙が八十本上がる。しかし今は四十本を切っていた。


 浅野、蜂須賀、池田は本陣で会議を開いた。


 作戦は明日朝スタート。

 最初に蜂須賀水軍三千が木津川の水上部隊を撃破。そのまま運河に入って舟橋を架ける。

 次に浅野隊七千が舟橋を渡って対岸に上陸する。

 浅野隊は逆時計回りで砦の北側に回り込む。蜂須賀水軍も上陸して砦の南側に展開する。両隊で南北から砦を挟み込んで攻撃開始。

 敵が逃げ出したら池田隊一千を投入して追撃する。


 会議が終わった。

 蜂須賀家の重臣、樋口正長が自部隊の陣地に帰ってきた。

 兵士は「ご家老様。どうなりました?」と口々に声をかけた。

 樋口は金の扇を開いて頭より高く掲げた。


「今夜我らのみで攻める!手柄は独り占めだ!」


 部隊は大声を上げた。

 騒ぐと浅野隊にばれてしまう。樋口は「落ち着け、落ち着け」と静めようとしたが、興奮はしばらく収まらなかった。


 武蔵も樋口隊に混じっていた。彼は赤と黒の鎧、「赤黒片身替白糸威二枚胴具足」を着ていた。


 深夜、蜂須賀家の水上部隊は極秘に出撃した。

 小早(武装ボート。速い)と関船(武装屋形船。遅い)が計四十隻。たいまつは使わない。月明りだけが頼りだった。


 淀川は阿波座の北西で西に進む本流と、南に進む支流に分かれる。支流は木津川と呼ばれている。

 阿波座の西側をこの木津川が南北に流れている。

 阿波座の南側を道頓堀川が東西に流れている。二つの川は阿波座の南西で十字に交差する。


 水上部隊は木津川を北上した。正面に敵の姿が見えた。

 木津川と道頓堀川の合流地点に警戒任務の敵船団が展開していた。

 関船一隻と小早四隻で計五隻。横一文字の陣形で、かがり火を大量に焚いている。長良川の鵜飼いのようだった。


 味方は火縄銃の火縄に火を点けた。暗い川筋に無数の小さな火が浮かび上がった。

 敵はざわついた。

 味方は敵に向かって発砲した。


 敵船団に大量の玉が飛んできた。ほとんどが水面に落ちたり、船の間を通り抜けていった。まぐれ当たりで船体に当たった玉も幾つかあったが、けが人はいなかった。

 味方は全員で大声を上げて威嚇した。

 敵船団は陣形を乱して北東の阿波座に逃げた。


 味方の小早船団は高速追撃した。

 敵の小早は阿波座の陸地に船を乗り上げて逃げた。足の遅い関船が逃げ遅れた。


 味方の小早船団は関船に追い付いた。数隻が関船の正面に回り込んで逃げ道を塞いだ。

 味方兵士は銃を構えて、「諦めろ!」、「降参して出てこい!」と投降を促した。


 関船の中から船団の指揮官と側近数名が出てきた。彼らは両手を上げて降伏した。

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