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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
6話 木津川口の戦い
62/145

6-3

 大阪は城下町全体が堀と土塁で囲まれていた。これを「惣構え」という。

 惣構えの南側は空堀。西側は水掘。東と北は天然の川を利用した水掘だった。


 南の空堀の幅は三十メートル。深さは五メートルあった。

 学校のプールが二十五メートルで深さが一、五メートル。空堀はプールの三倍深かった。

 堀際と堀底に前進を阻む木の柵が設置された。長篠の戦を描いた映像作品でよく見る物体である。


 空堀を掘った土で高さ六メートルの土塁が盛られた。土塁の上に高さ三メートルの土塀が築かれた。

 空堀の底から土塀までの高さは五階建てのビル程度になった。


 土塀には二メートル間隔で弓鉄砲を打つ狭間が開けられた。土塀の後ろには家々の旗指物が飾られた。

 要所には高床式倉庫をもっと高くしたような物見櫓や門が設置された。

 土塁の長さは東西二キロ。城下町は土で出来た万里の長城で守られていた。


 北、東、西の惣構えも二キロ程度あった。


 惣構えの外では砦の建設が始まっていた。豊臣家首脳部は西側に防御の重点を置いていた。

 西には淀川河口の中州地帯と大阪湾があった。首脳部は惣構えから河口までの一帯に複数の砦を築き、海から大阪入りする援軍や輸送船団の安全を確保しようとした。


 首脳部は惣構え内部の城下町も強化した。

 寺や武家屋敷は即席の砦に改造された。道は土を詰めた米俵で封鎖された。

 攻める側は砦を落とし、惣構えを抜き、市街地戦を突破しないと大阪城本体の攻城戦には入れなかった。


 現在の再建大阪城と当時の大阪城は違う。あそこまでしっかりした石垣はないし、櫓の数も少ない。有名な「蛸石」、「肥後石」は寛永年間の物である。

 二重の水掘は今と変わらない。外堀の南には三の丸と呼ばれる防衛設備が当時あった。


 大阪城は三十年近く前の技術で基礎設計された。三十年あったらショルダーホンも5Gスマホに進化する。

 城が出来た後に様々な戦争があり、多くの戦訓が得られた。築城技術は天下普請で絶えずアップデートされてきた。大砲の射程は二倍、三倍に伸びた。

 江戸城は東西二、二キロ、南北一、八キロ。城だけで大阪の惣構えに匹敵する。大阪城中枢部の本丸は新型大砲の攻撃範囲内に収まっていた。


 豊臣軍は主力を惣構えに配備した。城本体の守備は手薄にした。

 惣構えの土塀には色とりどりの沢山の旗が立っていて、大相撲開催中の両国国技館のようだが、城本体にはほとんど旗が立っていなかった。

 一応二重、三重の防衛ラインになってはいるが、一旦惣構えを突破されるともう止める術がなかった。またがら空きの城本体を攻撃されると非常に脆かった。


 南の空堀を挟んで寺社町が広がっていた。これも有事の際は砦として活用出来た。

 南の空堀を右サイド、中央、左サイドと三つのレーンに分けた時、右サイドだけ寺社町の広がりが薄かった。


 幕府は京都の豪商、後藤庄三郎を通じて織田有楽斎と密かに接触した。

 後藤家の使者は首脳間のホットライン開設を提案して有楽斎の同意を得た。戦争中でも交渉の窓口は維持される事になった。


 交渉を終えた後藤家の使者と武蔵が右サイドの土塁の門から出てきた。二人は商人の身なりをして、笠を被っていた。

 二人は空堀に架かる橋を渡った。


 傭兵希望の牢人衆が橋の上に長い列を作っていた。

 豊臣家の家臣が門の前で彼らの氏名を書き留めていた。

 牢人は一人一人「〇〇家の家来、××!」、「△△家の家来、□□!」と元気よく名乗った。


 恐ろしい顔のヤカラばかりだった。育ちのいい商人は青ざめた。

 武蔵は「いつも通りに」と小声で指示した。

 二人は牢人衆の横を通り過ぎた。


 列の真ん中に山伏が立っていた。粗末な身なりだが、腰に差した刀だけは立派だった。

 武蔵は思わず刀を見た。

 山伏は微笑んで会釈した。


 入城した山伏は大野治長の屋敷を訪れた。

 門番は薄汚れた山伏を見て追い返そうとした。

 山伏は弁明した。


「決して怪しい者ではありません。

 大峰山の伝心月叟と申します。大野修理殿に『例の件で来ました』とお伝えください」


 大野は城で会議中だった。門番はとりあえず中に通した。


 夜、大野は全力ダッシュで自分の家の廊下を走った。勢いよく座敷の障子戸を開けると、綺麗に正装した真田幸村が座っていた。

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