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夜、大野治長は弟の大野治房と織田頼長を自宅の茶室に招いた。
頼長は織田有楽斎の長男で、秀頼側近グループのリーダー格である。城内の反徳川派をリードしていた。
三人は狭い密室で水タバコを吸った。煙が充満した。
大野は頼長に言った。
「片桐は大阪を徳川に売った。お前に言いたくはないんだが、お前の親父殿は……」
「いいですよ、言ってくださいよ」
「ずる賢い。自分の手は汚さずに他人を煽る。いざとなればすぐ逃げる。
我ら兄弟が頼りにしているのはお前だ。自分の信念のために体を張れる。最後まで逃げない。上方一の勇者だ。
正直な所、俺はこれからどうしたらいいか分からない。お前ならこの局面、どう切り抜ける?」
頼長は呟いた。
「殺すしかねえな」
「うん。殺すかあ……」
「お二方がやらないなら俺がやりますよ。俺は日本一の勇者だ!気合じゃ誰にも負けねえ!」
「頼もしい!左門は三国志の張飛のようだ。
しかし本当の問題は殺した後だぞ。駿府がどう出るか」
治房は答えた。
「いつも通り何も出来ません。『もうしないでくださいね?』ってまた頼んでくるだけです。徳川に戦争する根性があったらもう百回ぐらいしてます。むしろこちらから挙兵すべきです」
「俺も九割方何も起きないと思っている。しかしここで運悪く一割を引きたくない。
徳川が攻めてきた場合に備えるべきだ。
左門は側近衆をまとめろ。俺と治房は上様と親父殿の説得だ。全体の意思を統一した上で、全国の豊臣恩顧の諸大名に挙兵の檄文を飛ばす」
二人は承知した。
頼長は尋ねた。
「戦争になったら誰が指揮を取るんですか?」
「ああ、そういう問題もあるんだな。さすが左門。鋭い」
大野は考えた。
一人の男が頭に浮かんだ。彼にだけは頼みたくなかったが、この際文句は言っていられなかった。
「前内府(織田信雄)を推す。左門はあの方を口説き落としてくれ。お前なら話も通じるだろう」
頼長は内心不満だった。彼の望みは豊臣軍の総大将だった。




