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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
4話 方広寺鐘銘事件
34/145

4-1

一六一四年二月、キリシタン大名の高山右近は一族を引き連れて金沢を出発した。


前年の十二月、幕府は宣教師や幹部信者の国外追放を命じる法律、「伴天連追放之文」を公布した。高山はこれに従って金沢を出る事になった。


高山はヨーロッパ本国にも知られた有名なキリスト信者だった。

豊臣家は加賀百万石の前田家とキリスト信者の力を当てにしていた。高山を通じてスペイン、ポルトガルから援軍を呼べる、とも期待していた。幕府は豊臣家の期待を断ち切った。


豊臣家は密使の織田頼長を富山の高岡城に送った。

城主の前田利長は闘病中だった。彼は布団に入ったまま頼長と面会した。

頼長は頭を下げて協力を要請した。


「家康は大阪を潰すために軍備を整えています。戦う事は本意ではありませんが、こちらも対抗して兵力を蓄えなければなりません。

兵糧、弾薬の融通、並びに訓練要員の派遣をお願いしたい。またもしも、ない話とは思いますがもしも開戦となった暁には我々の側に立って参戦していただきたい」


利長は遠回しに断った。


「私は十年前に隠居しました。この加賀前田家は全て息子のもの。私の命令で動かせるのは何もありません」


「豊臣あっての前田ではないですか」


「太閤が引き立ててくださった恩を忘れた事はありません。しかし息子は徳川あっての前田と考えています」


「豊臣が滅ぼされたら次は前田ですよ」


「約束します。開戦の際はこの前田利長が一人で駆け付けましょう。もう歩けもしない老いぼれですが、太閤の恩義に報いたい気持ちに衰えはございません。

這いつくばって大阪に向かっている内に戦が終わらなければいいのですが」


頼長は立ち上がった。


「今日はこれで失礼させていただきます。

あなたに何かあれば家康を止める者は誰もいなくなる。どうかご自愛ください」


「うるせぇジジイと思われるでしょうが、一つだけ助言を送らせてください。

太閤は自分に忠告する人間をことごとく殺して回りました。自分のやる事全てが絶賛される心地よい環境を作り上げました。太陽のように輝かしい人だったのに、みじめに狂って日本を滅ぼしかけた。

誤りを指摘する存在は重要です。前右府が間違った行いをした時はどうか恐れず意見なさってください。あなたの勇気は内にこそ向けられるべきだ」


利長は息子を通じて幕府に報告した。

幕府は無視した。


幕府は様々な法律を出して朝廷のコントロールを進めていた。その仕上げとして、この夏に上洛して公家諸法度、そして武家諸法度を公布する予定だった。

朝廷は反発した。徳川秀忠は取り込みを図った。

一六一四年三月、秀忠は自分の娘と天皇を婚約させた。また朝廷から従一位右大臣の官位を授かった。

豊臣秀頼は正二位の前の右大臣だった。秀頼の上級公家としてのプライドは傷付いた。


豊臣家は前田家に軍事援助と参戦を求める書状を再び送った。前田家は再度拒否して幕府に報告した。

幕府は無視した。

豊臣家の挑発外交に対し、幕府は制裁や軍事オプションを行使せず、表面的な友好関係を保ち続けた。


淀は幼い秀頼が成長するまでの代理当主だった。彼女は筆頭家老の片桐且元に実際の政務を委ねた。片桐は淀の意向を汲んで親徳川政策を推進した。

二十一才になった秀頼は周囲を側近で固めて挑発外交を開始した。

片桐は秀頼の政治姿勢を危険視して実権を手放さなかった。豊臣家は秀頼と片桐の共同統治体制のような形になった。


片桐は幕府に忠実な姿勢をアピールするため、伴天連追放之文に従い、領内のキリスト教を取り締まった。教会は打ち壊され、信者数十人が国外追放された。

重臣グループは幕府との対立を避ける片桐を支持した。側近グループは権力の座に居座る片桐を憎んだ。両派は対立した。


一六一四年五月、前田利長は病で死んだ。秀頼と側近グループは幕府が反豊臣政策を加速させるとして強く警戒した。

淀は関西各地の寺社に豊臣家の存続を祈らせた。息子の暴走を阻止出来ず、神に頼った。

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