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1-3

 淀は三人の父親に実際の政務を任せていた。三人はそれぞれ持論を述べた。

 有楽斎は感情を説いた。


「本来ならば摂関家は在京して朝廷のために働くべきなのです。しかし現実にはこの城に十二年間留まり続けている。新院が御即位されるという今この時もです。世間は上様を天下一の怠け者と言っています。

 今回大御所から招きを受けたのに怖がって上洛しなければ、世間はいよいよ上様を怠け者の上に卑怯者だと笑うでしょう。どうぞお受けなさってください」


 片桐は理屈を説いた。


「戦争になったら勝てません。向こうは五万。こっちは二万。大博打に出て全てを失うなら頭を下げた方が安い」


 大野は道理を説いた。


「新院が御即位されるからついでに会おう。そんな馬鹿な話はありません。

 大御所の目的は豊臣家の従属。主君の実権を奪おうとする謀反に他なりません。何故それに従わなければならないのでしょう。お受けなさるべきではありません」


 他の家臣も口々に意見を述べた。

 会見賛成派が優勢だった。反対派は負けを認めず大声で反論した。


 城内は四つのグループに分かれていた。

 穏健保守の譜代重臣グループ。片桐を支持している。勢力は最も大きい。

 中道右派の織田親族グループ。有楽斎を支持している。勢力は最も小さい。

 中道左派の旧浅井家臣グループ。大野を支持している。勢力は二番目に小さい。

 過激左派の若手側近グループ。秀頼を支持している。勢力は二番目に大きい。


 研究が進んだ現在、淀は一貫して親徳川派だった事が明らかになっている。


 豊前小倉藩主の細川忠興は「秀頼は成人しているが中身は乳幼児。大阪は淀の独裁政権」と評価した。しかし淀本人の意向が反映される事は少なかった。非力な独裁者だった。

 実務を担う三人の父親は一致団結して淀を支えず、権力闘争を繰り広げていた。


 片桐は淀の意向を汲んで親徳川路線を推進した。他の家臣が秀頼を上様(日本の支配者を意味する呼び名)と呼ぶのに対し、片桐だけは家康を上様と呼んだ。

 大野は反徳川路線を取る事で片桐の追い落としを狙った。

 有楽斎は時に応じて親徳川と反徳川の顔を使い分けた。片桐が勝てそうな時は片桐に、大野が勝てそうな時は大野に付いた。


 次期政権を担う秀頼側近グループは豊臣家の王政復古を掲げて広く支持を集めていた。

 しかし具体的な方策を尋ねられても「家康は年だからすぐに死ぬ。跡取りは無能の秀忠だから勝てる」ぐらいしか言えなかった。それ以上聞くと切りかかってくるほど気も荒かった。


 大野グループは将来を見据えて側近グループに接近した。両グループは野党共闘連合を組んで片桐政権と対抗した。反徳川政策が採用される事が増えた。


 片桐は十年以上一人で政務を取り仕切っていた。

 大野は権力闘争を好むポピュリスト。有楽斎は表裏比興のバルカン政治家。側近グループは過激な政治活動団体。三者の実務能力は怪しかった。仕事が出来るのは片桐だけだったので、彼一人に権力が集中した。


 大野、有楽斎、側近グループは片桐の地位を狙っていた。

 特に大野は強い権力欲を持っていた。不倫の噂が本当であればだが、淀に接近したのも百%愛情だったとは言い難い。


 会議は紛糾した。

 見かねて隣の部屋から淀の側近、大蔵卿局がやってきた。淀の乳母で大野治長の実母である。

 秀頼以外の面々は淀の代理人の大蔵卿にひれ伏した。大蔵卿は淀の言葉を伝えた。


「御袋様の御言葉を皆様に伝えます。

『皆の思いはよく分かりました。我が家は今、大変な危機の中にあります。災い転じて福となすよう、よくよく話し合って妙案を出しなさい」


 片桐は提案した。


「クジで神仏の意思を問うのはどうでしょうか。神の判断に間違いはありません。行くにしろ、留まるにしろ、必ずや利益をもたらす結果となるはずです」


 後日、秀頼に仕える占い師が上洛を占うクジを引いた。大凶だった。しかし片桐は占い師を買収して大吉に書き換えさせた。

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