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2-9

 一六一二年三月、江戸の大久保長安の屋敷に岡本大八が移送されてきた。

 拷問による精神的圧力ですっかり臆病になっていた。下を向いて目を合わせず、身を守るように自分の腕を掴んでいた。


 岡本は砂利敷きの庭にむしろを敷いて座らされた。

 被害者の有馬や政権幹部は対面の座敷に座った。


 関東総代官の大久保長安。家康政権の経産大臣ポジションに就いていた。全国の金山銀山の運営や、家康の直轄領の管理を務めていた。

 相模玉縄藩主の本多正信。秀忠政権の外務大臣兼副総理ポジションに就いていた。各勢力との交渉や、駿府と江戸の意見調整を務めていた。


 正信は拷問で取った調書を読み上げた。


「有馬修理様から金銭を騙し取った」

「その金で年寄衆、女房衆に運動すると言ったが、本当は遊ぶ金に使った」

「ご朱印状を偽造して修理様に渡した」……


 最後に正信は偽造した空手形を岡本に見せた。


「お前が作った物で間違いないな?」


「はい……」


 有馬は岡本を睨んだ。

 岡本は下から一同を睨みつけて言った。


「皆様は『何でこんな話に騙されたのだ』と思っておられるでしょう。しかしこれは決して荒唐無稽な儲け話ではありません。

 大御所の周りには修理様と同じキリスト教徒が沢山います。政権中枢のキリスト教人脈に働きかければ旧領復帰も夢ではなかったのです。

 確かに実現の目途は低かったでしょう。しかし修理様は長谷川様に対する憎しみで考える力が衰えていました。こんな話にも簡単に乗ってきました。

 修理様は裏では長谷川様に対する暗殺計画まで立てていました。私は『今度は長谷川を沈めてやる』という修理様の発言を何度も聞いています!」


 岡本は最後の力で道連れを図った。

 正信は有馬に確認した。


「どうなんです?」


 しばらく考えた後、有馬は堂々と罪を認めた。


「間違いありません。長谷川が憎くてたまらなかった。いつか殺そうと思っていました」


 取り調べが終わった。正信と長安二人だけが座敷に残った。

 長安は提案した。


「私には法律の事は分かりませんが。

 長崎は金が湧き出る魔法の土地です。あの邪悪な馬鹿に任せてはおけません。この際排除して直轄領にすべきでは」


「殺人予備だけなら隠居で済ます。有馬もそう判断して自白したんだろう。ただあいつには前科がありすぎる。長崎はキリスト教のせいで地獄じゃないか。

 厳しくしなきゃなるまいね……」


 三日後、岡本は詐欺と公文書偽造の罪で火あぶりにされた。有馬はワイロで幕政を動かそうとした罪と、長谷川殺害を企んだ罪で流罪にされた。


 岡本処刑と同日、幕府は直轄領に対して慶安の禁教令を出した。法律自体は以前から準備されたものだった。

 領内の教会は破壊された。宣教師は国外に追放された。家臣や幹部信者は身辺調査の上、キリスト教徒であれば改宗を迫られた。拒否すれば流罪。場合によっては処刑された。

 農民、町人等の一般信者への処分は見送られた。


 長安はキリスト教に寛容だった。彼は幕府の疑いを避けるため、自分が治める多摩地域の監視を強化した。キリスト教信者の家臣が何人も摘発された。


 大鳥逸平は土地勘のある多摩地域に潜伏していた。

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