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2-6

 捕縛された先輩は全てを白状した。米津は大鳥グループ一斉検挙作戦を発動した。


 夜、江戸町奉行所から指揮官役の武士十人が馬に乗って出てきた。一騎に付き数人の護衛が付いていた。

 一行は江戸各地の番所に向かった。


 どこの街にも番所という交番兼公民館が設置されていた。武士が指揮する捕縛部隊はこちらに集結していた。

 住民は部隊に酒や握り飯を振舞った。彼らは腹いっぱい食べて勝負に臨んだ。


 武蔵を含む最精鋭の二十人は大鳥のアジト近くにある神田の番所に集められた。

 飯を食べると動きが鈍くなる。メンバーは畳に座ってじっと待っていた。

 水野勝成は一人で葉巻を吸っていた。


 戦争続きの荒れた時代に完全適応した男だった。勝成は生まれた時代を間違えなかった。


 少年時代は父の城から金を持ち出して豪遊した。家臣が咎めると切り殺して家出した。

 何故か陶芸家になり、丸めた垢を薬として売り付ける詐欺師になり、最後は京都でホームレスになった。やがて準暴力団を結成して対立組織と抗争を開始。多数の死者を出した。

 秀吉に仕えたが暗殺者を送られるほど怒らせて逃げた。仙石権兵衛、佐々成政、黒田如水、小西行長、加藤清正、立花宗茂と錚々たる武将に仕えて厚遇された。

 関ヶ原後は内政能力を発揮して名君と呼ばれるようになった。性格も大分丸くなった。


 奉行所の伝令が番所にやってきた。


「御用聞きの又蔵だ。与力の財部様が間もなくいらっしゃる。道具を持って外に並べ。そのまま大鳥のヤサに突っ込むぞ」


 部隊は捕縛兵器を持って番所の前に並んだ。

 さすまた。はしご。流鏑馬で使う先が丸い神頭矢(骨は砕くが肉には刺さらない)。


 馬に乗った武士と護衛数人がやってきた。

 武士は馬上から部隊に呼びかけた。


「財部六左である!諸君らを率いて巨悪と戦える事、大変嬉しく思う!

 狙うは首魁、大鳥!捕らえた者には特別な恩賞が出る!励むべし!」


 武士を先頭に捕縛部隊は駆け足で移動した。

 勝成は武蔵に話しかけた。


「大鳥って奴。昔なら大名にもなれただろうにな。あいつは生まれた時代を間違えた」


 部隊は十字路の真ん中で止まった。

 北西の角に瓦葺二階建ての町屋があった。ここが大鳥のアジトである。


 部隊は二手に分かれた。

 前衛の突入部隊は南側の玄関前に移動した。武蔵は十手を、勝成は弓を装備してこちらに加わった。

 後衛のサポート部隊は十字路の真ん中で待機した。はしご装備の部隊はこちらに残った。


 伝令は玄関の木戸を叩いて名乗った。


「江戸町奉行所だ!今すぐここを開けろ!」


 指揮官の武士は「開けたら全員で飛び込め」と指示した。


 部屋の中から物音がした。

 突入部隊は武器を構えた。

 賊は家の中から木戸越しに銃撃した。伝令は腹を打たれて倒れた。


 賊数人が一斉に飛び出してきた。

 賊Aはドスで武蔵の顔を突いた。武蔵はしっかり刃物を見てスウェーバックでかわした。

 戦い慣れていない人間は怖がって最後まで刃物を見ていられず、横を向いてしまう。そして側頭部を刺される。

 武蔵は十手で鋭く顔を突き返した。

 Aは顔を右横にそらした状態でスウェーバックした。Aはかわしきれずに側頭部を打たれた。


 賊Bは拳銃を構えた。

 勝成はBの右肩を弓で打った。大きな音がして骨が砕けた。Bは痛みで拳銃を落とした。

 勝成は次の矢を構えてBの顔面を打った。


 賊Cは刀を振り回した。包囲網に穴が開いた。Cは刃物を振り回しながら十字路の真ん中に出た。


 はしご装備のサポート部隊の二人がCの進路を塞いだ。別のはしご装備の二人が背後に回り込んだ。四人はCを包囲した。

 Cは刀を振り回して遠ざけようとした。四人は四方から一斉にはしごで突いて抑え込んだ。


 二階の窓から賊数人が飛び降りてきた。現場は混乱した。


 武蔵は建物に入ろうとした。賊Dが玄関前に立って進路を塞いだ。

 Dは刀を真っ向切り(剣道の面)で振り下ろした。武蔵は左ステップでかわして、振り下ろされた刀の峰を十手のY字部分で上から挟んだ。

 武蔵はDに歩み寄った。十手は刀の根本の部分までスライド移動した。

 武蔵は痛覚が集中している鼻の下の部分に頭突きを入れた。Dは前歯をへし折られて倒れた。


 武蔵は建物に入った。

 中は書院造りの座敷になっていた。誰もいなかった。床の間に「二五まで生き過ぎたなぁ 逸平」と書かれた掛け軸が飾られていた。

 掛け軸が落ちた。後ろの壁に抜け穴が掘られていた。


 大鳥はふんどし一丁で夜の通りを走って逃げた。


 大鳥グループは一斉検挙で壊滅した。しかしリーダーの大鳥だけはこつ然と姿を消した。

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