11-17
城内に道場があった。
武蔵の父、新免無二斎は子供にマンツーマンで稽古を付けていた。
無二斎は自分の刀の柄に手をかけた。
対面に立った子供はノーガード戦法でだらりと両手を垂らした。色白で目付きの鋭い子供だった。
子供は反時計回りで無二斎の背後に素早く回り込んだ。そして「こじり」と呼ばれる鞘の後ろの先っぽを右手で掴み、尻の上方まで持ち上げた。これで刀は抜けなくなる。
子供はこじりを右手で前に押し出しつつ、左手で無二斎の左手首を後ろに引っ張った。無二斎はバランスを崩してうつ伏せに倒れた。
子供は無二斎の左腕を脇固めで決めた。「こじり返し」と呼ばれる技である。
無二斎はタップした。子供は技を解いて立ち上がった。
無二斎はしばらく立ち上がれなかった。
子供は片手を差し出した。無二斎は小さな手を取って立ち上がった。
「上達のお早い事です」
「お師匠様のおかげです」
「いや、うちの息子の百倍才能ありますよ」
子供は目を輝かせた。
「武蔵殿ですね!私と同じ頃はどんな稽古をなさっていたのですか!?私もやりたいです!」
「それは今日の夕飯の時にでも話しましょう。さあ、後十本!」
「はい!」
武蔵は道場の入り口に寄りかかって稽古を見ていた。
子供は武蔵に背中を向けていた。
無二斎と武蔵は目が会った。
武蔵はお辞儀して立ち去った。
無二斎は金打を鳴らした(刀を少し抜いて戻してカチンと音を鳴らす。誓約を意味する)。
子供は後ろを見た。武蔵はもういなかった。
無二斎は子供に呼びかけた。
「道場であっても戦場と同じ気持ちで!隙を見せてはなりませんぞ、延由様!」
木下延由は振り返って、元気よく「はい!」と答えた。
(終わり)
一か月ほどしたら
現代の大阪を舞台に、剣と魔法と近代兵器で高校生が犯罪組織と戦う話やります。