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2-4

 宮本武蔵が道場に入ってきた。

 藩士は一斉に武蔵を見た。無二斎は「気を抜くな!」と叱った。

 藩士は慌てて稽古に戻った。


 藩主の木下延俊は壁際に座って稽古を見ていた。

 武蔵は挨拶して木下の隣に座った。

 木下は依頼した。


「この間捕まった連中。熱した針金を尿道に突っ込まれて白状したそうだ。

 御公儀(幕府)は近く大々的に取り締まりを行う。相手は江戸だけで三百人。全国の一味を合わせると三千人になるらしい。今、奉行所は金で捕り手を集めている。どう?」


「どうって」


「俺だって殿様じゃなければ捕り手に加わりたいよ。江戸が好きだからな。俺の代わりに行ってくれない?」


「嫌です。素人と戦ったら腕が落ちる。虎がミミズを食いますか?」


「板倉様の所では密偵の真似事やってるのに」


「京都はちゃんと強い牢人を食えますから」


「あんまりこういう事は言いたくないんだけど。

 俺、お前助けた事あるよね?別に返せとは言わないけど、申し訳ないな、いつかは恩返し出来たらいいな、と思うのが人の道じゃない?」


 巌流島の決闘の後、武蔵は相手の弟子の大集団に襲撃されそうになった。木下は部隊を派遣して日出まで護衛した。

 武蔵は何も言い返せなかった。


 日出藩の江戸屋敷に新たな武家奉公人がやってきた。年は十代前半。剃ったばかりのさかやきが青々としていた。

 先輩の奉公人はおしゃれな美青年だった。仕事も出来て優しかった。一から十まで教えてくれて、失敗しても怒らなかった。

 イケメン先輩は新人にあれこれ尋ねた。


「この仕事は初めて?」、「どこ住み?」、「馬は好き?」


 二人は「今度一緒に馬を見に行こう」と約束し合った。


 ある日の休日、後輩は芝浦を訪れた。

 オランダから輸入した大型のフリージアンホースが数頭、馬繋ぎ場に繋がれていた。

 宣教師が「日本には馬にいた猛獣がいる」と本国に報告するほど、日本の在来馬は小型で気性が荒かった。立派な馬格で気性も穏やかな欧州馬は別の生き物のように思われた。


 ビジュアル系演歌歌手のような集団が馬繋ぎ場に集まっていた。その中に先輩の姿もあった。


 先輩は後輩にビジュアル集団を紹介した。

 昔からの仲間で、たまにこうやって集まって馬を乗り回している……


 ビジュアル集団は大型馬に乗って日本橋まで移動した。後輩は先輩の後ろに乗った。

 道行く人は恐れた顔で顔を背けたり、憧れの目で眺めたりした。後輩は気分が良かった。


 ビジュアル集団は日本橋の料亭で酒を飲み、昼食を食べた。飲食の後は銀のキセルでタバコを回し飲みした。

 秀忠はタバコの生産、売買の禁止令を出した。入れ墨とタバコが当時のヤカラのシンボルだった。彼らは違法薬物を吸ってグループの結束を高めた。


 同性愛でも繋がっていたという。

 先輩は隣に座った後輩の手をそっと握った。後輩は先輩の手を握り返した。

 こうしてまた一人、反社勢力の構成員が増えた。

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