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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
11話 天王寺・岡山の戦い
133/145

11-5

 毛利隊は陣地死守の命令を無視して突撃を開始した。


 前線指揮官の本多忠朝には三つの選択肢があった。

 安定を取るならラインを下げる。特攻プレスに律儀に付き合う必要はない。

 命令を遵守してこの場で守る。竹束の間から銃を打っていれば突進の勢いはいつか止まる。

 命令を無視して打って出る。悪党を返り討ちで所領倍増だ。


 本多隊五千は陣地を出て正面突撃を敢行した。


 本多隊の後ろには榊原康勝隊五千が展開していた。

 榊原隊も連動して前進した。


 榊原隊の後ろには酒井家次隊五千が展開していた。酒井隊の後ろに家康本隊一万五千が控えていた。

 両隊はまだ動かなかった。


 左サイドの前線指揮官、松平忠直は本陣でお茶漬けを食べていた。

 伝令がやってきて緊急を告げた。


「天王寺の毛利豊前が攻めてきました!本多出雲守様は迎撃のためご出陣!」


 家臣団は浮足立った。自分達も突っ込むべきか。それともこの場で待つべきか。

 忠直はお茶漬けのお代わりを小姓に要求した。

 家臣A、Bは「我らも続きましょう!」、「このままでは天下の笑い者です!」と急かした。家臣C、Dは「持ち場を守るべきです!」、「大御所の指示は絶対です!」と止めた。


 忠直は黙らせた。


「二度と言わんぞ。だ・ま・れ」


 家臣団は静まり返った。

 小姓はお代わりをよそった。お茶漬けを掻き込むサラサラした音が響いた。

 忠直はお茶漬けを食べ終ると、立ち上がって茶椀も箸も放り投げた。


「これで飢餓道に落ちる事はない(戦死した兵士は飢え地獄に落ちると信じられていた)。さあエンマ大王の所に行くぞ!」


 忠直隊一万五千は陣地を飛び出して茶臼山に怒涛の突撃を開始した。

 後方の三万五千は動かなかった。


 本多隊、毛利隊は前進射撃を繰り返しながら接近し、やがて白兵戦に突入した。


 本多は親衛隊を率いて真っ先に切り込んだ。彼は鎌倉武士のように叫んだ。


「我は本多中務大輔忠勝の次男、大多喜五万石の城主、本多出雲守忠朝なるぞ!」


 忠直本隊は北上して両隊の戦闘エリアに接近した。

 忠直は別動隊を派遣して毛利隊の側面を突かせた。毛利隊も別動隊を出して側面攻撃を防がせた。

 忠直本隊は毛利隊の相手を本多隊と別動隊に任せて茶臼山に向かった。


 茶臼山の幸村は毛利隊に「すぐに引き返せ。命令を守れ」と伝令の使者を送った。

 その間にも対面の忠直隊が接近してきた。

 幸村は自部隊に迎撃準備を命じた。とりあえず一旦馬防柵で受けて、ダメージを与えた所で逆襲だ。


 毛利隊に出した伝令が帰ってきた。


「敵が攻撃を仕掛けてきたため、仕方なく反撃に転じました。最早引き返す事は出来ません。このまま前進するとの事です!」


 副司令官の毛利は率先して約束を破った。

 毛利隊は豊臣軍の中核戦力だった。天王寺で粘って打撃を与えるのが彼らの任務だった。

 しかし毛利は秀頼も仲間も信用していなかった。この状況を個人技で打開しようとして正面突撃を仕掛けた。


 毛利は勝手に攻守のバランスを崩して攻めに行った。守備に穴が開いた。


 幸村は指示を出した。


「我が隊は命令通り戦います。陣地を守って上様のご出馬を待つ。命令あるまで茶臼山から出ないように。手薄になった天王寺にはこちらから増援を派遣します」


 忠直隊は横に広がって茶臼山陣地と天王寺陣地に攻めかかった。


 秀忠の本陣にも伝令が駆け込んで一報を報じた。

 秀忠は即断した。


「分かった!こちらも出よう!」


 秀忠は作戦参謀ポジションの立花宗茂に意見を求めた。


「左近、構わんな?」


「はい。このままでは敵後方の遊軍一万五千が毛利豊前の元に向かいます。二万二千対三万では大御所の命も危うい。

 御勝山の大野主馬を攻めて遊軍を呼び寄せましょう。万一に備えて救援部隊を大御所の元に送りましょう。

 敵の勢いは半刻(一時間)持ちません。時間が来れば必ず崩れます。それまで本陣は決して下がらせないように。我らはこれより敵全軍を食い付かせる餌、そして味方全軍を鼓舞する旗となります」


 秀忠隊先鋒の前田隊二万は岡山の防御陣地に攻めかかった。

 治房は弟に援軍の使者を要請した。


 秀忠は四天王寺~岡山間の守備隊にも攻撃を指示した。

 治胤は守備に徹しつつ、余った部隊を岡山に送った。天王寺方面に部隊を送る余力はなくなった。


 秀忠は天王寺~岡山間に展開していた土井利勝隊を天王寺方面に向かわせた。追加で前田隊の後ろにいた井伊隊、藤堂隊も送り込んだ。

 前田隊の後ろが薄くなった。秀忠は本隊から増援を出して前田隊の後ろに付けた。


 家康の本陣にも伝令が駆け込んで一報を報じた。

 家康は即断した。


「本陣を下げるぞ!」


 本陣が慌ただしく動き始めた。


 本陣は三つの組織に分かれていた。

 首脳陣が詰める司令部。司令部を守る数百人規模の近衛部隊。馬印や旗といった司令部のシンボルを掲げる数十人規模の儀仗部隊。


 司令部の突然の陣地変更で儀仗部隊の一部は混乱した。旗を管理する旗奉行は家康とはぐれてしまった。

 近衛部隊と馬印を管理する馬印奉行は司令部に付いていった。

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