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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
11話 天王寺・岡山の戦い
132/145

11-4

 中央の家康隊は六段に分かれていた。

 前から本多忠朝隊五千。榊原康勝隊五千。酒井家次隊五千。家康本隊一万五千。徳川義直隊一万五千。徳川頼宣隊一万五千。

 この内、義直隊、頼宣隊がまだ来ていなかった。


 家康の本陣は森の中にあった。涼しいが視界は悪かった。本陣後方に義直隊、頼宣隊が徐々に集まりつつあった。

 家康は参謀長ポジションの本多正純に言った。


「各将に改めて『布陣が完了するまで動くな』と命じろ。全員揃ったら戦闘開始だ」


 頼宣は十三才。今回が初陣だった。義直は十四才。冬の陣で初陣を済ませたが、実戦経験は積めずにいた。

 家康は若い二人に経験を積ませたかった。


 家康隊の先鋒は井伊直孝隊が、秀忠隊の先鋒は藤堂高虎隊が務める予定だった。しかし両隊は前日の戦いのダメージが残っていた。

 代わって家康隊の先鋒は本多忠朝隊が、秀忠隊の先鋒は前田利常隊が務める事になった。

 井伊隊、藤堂隊は細川忠興隊と一緒に前田隊の後ろに布陣した。


 松平忠直隊の先鋒は指揮官忠直が率いる本隊が務めた。前日の戦いで疲弊した諸隊は忠直本隊の後ろに布陣した。


 十二時、茶臼山に大阪城から伝令の浅井一政がやってきた。

 浅井は大野治長の片桐且元粛清事件に連座して謹慎処分を受けたが、現在は罪を許されて伝令として活動していた。

 浅井は幸村達に大野の指示を伝えた。


「全て前日の決定通り!上様のご出馬あるまで合戦を始めてはならない、との事です!」


 茶臼山に集まった諸将の中に伊東長実がいた。

 伊東は表では秀頼の親衛隊長を務めながら、裏では幕府に機密情報を流し続けていた。豊臣家は彼の存在に全く気付いていなかった。

 伊東は提案した。


「決定には逆らえません。一旦持ち場に戻りましょう」


 諸将は茶臼山を立ち去った。幸村と浅井だけが残った。

 浅井は幸村に頼んだ。


「我ら伝令も戦闘を固く禁じられています。愚かな願いとは分かっていますが、しかしどうか私に一番槍の名誉を与えていただけないでしょうか!」


「抜け駆けは駄目と言ってきた本人が抜け駆けするんですか?」


 浅井は頭を下げて頼んだ。


「先の戦いでは参戦が許されませんでした。この悔しさ、十四年間九度山で過ごされた左衛門佐様なら分かっていただけると信じております。どうか抜け駆けをお許しください……」


 幸村は背を向けた。


「何も聞かなかった事にします。首を取ったらすぐに帰ってきてください」


「ありがとうございます!」


 浅井は馬に乗って仲間一人と出陣した。

 味方はざわついた。大声で「戻れ!」、「抜け駆けは死罪だ!」と止めたが、浅井達は振り返りもしなかった。

 幸村隊の騎馬武者一人が陣を出て浅井達を追った。


 二人は本多忠朝隊の正面三百メートルまで接近して馬から降りた。

 本多隊もざわついた。一部の兵士は「早くこっち来いよ!」、「びびってるのか!?」と大声で煽った。


 騎馬武者一人と足軽二人が陣地から飛び出してこちらに向かってきた。

 騎馬武者は浅井の十数メートル先で馬から降りた。他の二人はまだ後ろだった。

 武者は槍一本で単身突撃した。


 武者は正面から槍で突いた。浅井は左サイドステップでかわして、カウンターで相手の顔を刺した。

 浅井は刺さったままの槍を押して仰向けに倒した。相手は動かなくなったが気は抜かない。二度、三度と脇や太ももを突き刺した。力いっぱい刺している内に槍の刃先の部分が折れてしまった。


 残りの敵二人は逃げ出した。


 幸村隊の騎馬武者一人がやってきて、「おい!おい!」と馬上から声をかけた。しかし浅井は首を取るのに夢中で聞こえなかった。

 騎馬武者は大声で「おおい!」と怒鳴った。

 浅井は血まみれの顔で振り返った。


 毛利隊四千が陣地を放棄して突っ込んでくるのが見えた。

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