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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
10話 道明寺の戦い
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10-14

 道明寺から撤退した豊臣軍は下を向いて歩いた。

 敗走する部隊は勝手に物を捨てる。

 槍や鉄砲、弾薬は道沿いにポイ捨てされた。体力的に持って歩きたくないし、精神的にももう戦いたくなかった。

 隊列から離れて逃げる兵士もいた。


 道明寺の敗因は勝成の素早い判断と、後藤のスタンドプレイだった。


 勝成はいち早く河内国分を占拠した上で前線の小松山を空にした。後藤は罠に嵌った。幸村隊は急いで救援に向かったが、後藤隊は幕府軍の猛攻で瞬間的に溶けてしまった。

 後藤隊は半日に渡って勇敢に戦い続けた、幸村隊は遅刻して救援に遅れた、というのは後々作られた話である。


 幸村隊は正面からの打ち合いに巻き込まれた挙句、兵力と物資を浪費して敗北した。

 豊臣軍は強豪チームと百二十分戦っても決着が付かず、PK戦で負けた。相手はベンチメンバーが豊富なので幾らでも代えがいるが、豊臣軍は疲れ切ったこのメンバーで明日の連戦を戦わないといけない。


 この戦いで伊達隊の同士討ちが起こったと言われる。

 現代戦でも死者の十%前後が同士討ちで殺される。戦国時代なら頻繁に起こっただろう。

 しかし否定説も根強い。


 この同士討ち事件の信頼出来る資料は島津家の記録である。その島津家は現地におらず、「伊達隊が同士討ちを起こした。現地の諸大名は『伊達は卑怯だ』と皆笑っているそうだ」と噂の形でまとめている。

 現地にいなかった人間のまた聞きの証言は信憑性を欠く。証人尋問に出てきても裁判官は証拠採用をためらうだろう。


 この時代の日本人は「皆が言っている」とか「世界一すごかった」という風に、言葉を過剰に大きくする。

 この道明寺の戦いでも、後藤の関係者は後藤の戦死を「源平以来なかった大手柄」と表現している。島津家と細川家は「古今これなき大手柄」、「日本中で比べるものなきお働き」と表現している。

 表現と実態が乖離している。当時の日本人は盛れば盛るほど戦死者への弔いになると考えていた。


 この数日間の戦闘で豊臣軍の兵力は八万から五万に減った。

 戦死者は三万人も出ていない。多くは逃亡者だった。戦地から城に戻らず逃げ出す者、城から夜逃げする者が続出した。

 長宗我部隊と明石隊は戦闘能力を喪失した。幸村隊も半壊した。毛利隊だけが無傷の状態だった。



 夕方、家康親子は枚方の本陣に河内方面軍の諸将を呼んで勝利を祝った。

 藤堂と井伊には勝利給として多額の金銀が贈られた。二人は感謝した。

 家康は他の武将も褒めたが、松平忠直と本多忠朝だけは叱った。


「よくやってくれた。難しい判断(戦闘禁止命令に違反して戦闘に参加した)だったと思うが、勝利のためによく働いてくれた。

 で。(忠直と忠朝に対して)お前達は何故動かなかった?」


 他の部隊は現地に到着次第戦闘に加わったが、この二隊は棒立ちで見ていた。


 忠直はヤカラで有名だった。最近は忠輝と同じく歯止めが効かなくなっていた。しかしだからこそ戦闘禁止の命令を忠実に守ろうとした。

 忠直は元気よく答えた。


「大御所のご命令がなかったからです!」


「時と場合による。あの時は命令違反を犯しても攻めるべきだった。父の名を汚す行動を取るな。もっと修行して判断を鍛えてくれ」


 秀忠は二人をフォローした。


「誰にもで起こり得る事がたまたま今日起こってしまっただけだ。気に病む必要はない。

 これからは果敢に挑戦して堂々と失敗しろ。徳川の世は盤石。お前達が何度失敗しようが揺らぎはしない」


 二人は頭を下げた。

 家康は諸将に命じた。


「全軍天王寺に向かう。決戦は明日の昼。俺の総攻撃の合図を待て」


 諸将は「応!」と答えた。


 夜、豊臣軍は大阪城の四キロ南の四天王寺に到着した。一帯は天王寺と呼ばれていた。


 四天王寺の西に茶臼山古墳、東に岡山古墳があった。

 茶臼山~天王寺~岡山に至る全長二キロのラインにかけて、長篠の戦いのような馬防柵が構築されていた。

 馬防柵の前面にはなだらかな窪地が広がっていた。攻める側は坂道を上って攻めないといけない。


 ここが最終決戦場となる。


(続く)

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