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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
10話 道明寺の戦い
121/145

10-7

 東高野街道の西側を玉串川が流れている。

 玉串川の五キロ西を長瀬川が流れている。

 二つの川に挟まれた低湿地帯の南側が八尾。北側が若江と呼ばれている。

 一帯は小川と田んぼが入り組んだ地形だった。大軍が歩ける広い道はなかった。移動は田んぼと田んぼの間の細いあぜ道を使った。


 朝四時、木村隊六千は長瀬川を渡って八尾西部に入った。

 予定は大幅に遅れていた。本当ならもっと深く北上して、家康親子の本隊を側面から攻撃する予定だった。

 木村隊は焦って道を急いだ。

 部隊は戦う前から疲弊した。下を向いて歩く者が多くなった。槍は規則で真っ直ぐ持つ事になっていたが、お辞儀するように傾いた。

 後続の長宗我部隊との距離が開いていった。


 南の方から銃声が聞こえた。

 指揮官の木村は南を向いた。


 兵士が二人、霧の中に立っていた。顔は日焼けして黒かった。

 二人は慌てて玉串川の方へ逃げていった。


 豊臣軍の兵士は城内で暮らしているので真っ白だった。肌が黒いのは夏場の野外で活動している幕府軍だ。


 木村は伝令を呼んだ。


「土佐守様にお伝えしろ。敵は玉串川の東岸にいる。我が隊は若江に向かう。土佐守様は八尾に布陣されたし。ここで火ぶたを切る」


 木村は北上して家康本陣を奇襲するプランを諦めて、街道を通る敵の先鋒部隊を待ち構えて奇襲するプランに切り替えた。


 幕府軍の先鋒は藤堂隊五千。その後ろに井伊直孝隊三千が続いていた。

 既に南の道明寺では戦闘が始まっていた。藤堂隊は道を急いだ。井伊隊との距離が開いた。


 藤堂は側面からの奇襲を警戒して、玉串川の西岸に偵察部隊を送り込んでいた。

 偵察二人が川を越えて帰ってきた。二人は藤堂にありのままを伝えた。


「敵は既に対岸の八尾まで来ています!大将と兵は分かりません!千は確実!」


 藤堂は進軍を一時停止。各隊の指揮官を本陣に呼び寄せて緊急会議を開いた。

 また新手の偵察部隊を送って更に詳しい情報を集めた。後方の井伊隊にも伝令を送って警戒を強化させた。

 前線部隊は玉串川の東岸に展開させて敵の攻撃に備えた。


 家康は各隊に勝手な戦闘を強く禁じていた。しかしここで見逃す事も出来ない。放置すれば敵は本陣側面を狙う位置まで北上する。


 話し合っている間に偵察部隊が帰ってきた。

 若江に敵先鋒の木村隊六千。既に展開を終えていた。

 長瀬川の西岸に後続の長宗我部隊五千。こちらは展開が遅れていた。


 今突っ込めば八尾を抑えられる。藤堂は攻撃を決断した。


 朝五時、藤堂隊は二手に分かれて玉串川を渡った。

 本隊四千は西に向かって八尾を抑える。その後、進撃してきた長宗我部隊を長瀬川を挟んで迎撃する。

 別動隊千は北西に向かって若江の木村隊と戦う。目的は木村隊の南下阻止。時間を稼ぐだけでいい。

 後一、二時間で井伊隊が到着する。それを待って東と南、二正面から木村隊を本格的に攻める。


 藤堂本隊は西に進んで八尾を占拠した。

 本隊三千はこの場で待機。先鋒隊千は数隊に分かれて細いあぜ道を西進した。


 先鋒隊は長瀬川方面から東進してきた敵先鋒隊百を発見した。向こうはまだこちらに気付いていなかった。

 先鋒隊は火縄銃で先制攻撃した。敵先鋒隊は打ち崩されて敗走した。

 先鋒隊は更に西進した。


 長瀬川は川幅三百メートルの大きな川である。両岸には高さ十メートル、ビル三階建ての高さの土手が整備されていた。

 長宗我部隊四千はまだ長瀬川の西岸にいた。長宗我部盛親率いる精鋭部隊千は川を渡って東岸の土手の上にいた。


 長宗我部は家臣数人と大阪入りした。噂を聞いた旧長宗我部家臣は続々と大阪城に入城した。長宗我部は千の手兵を持つ城内最大の勢力になった。

 四国統一を果たした輝かしい精鋭部隊は今、土手の上でワニのようにうつぶせになっていた。


 指揮官の長宗我部は兵士と一緒に這いつくばっていた。

 焦った周りの兵士が「まだですか?」、「そろそろ攻めても」と急かしても、「まーだ!」、「もうちょい!」と待ち続けた。


 藤堂隊先鋒は銃を構えて東岸の土手に接近した。霧で敵の存在にまだ気付いていなかった。

 長宗我部隊の方は鎧のカチャカチャ音で接近を察知した。目を澄ますと霧越しに藤堂家の黒い旗も見えた。


 藤堂隊先鋒は五十メートルまで土手に接近した。

 長宗我部は立ち上がって「かかれ、かかれ!」と叫んだ。


 長宗我部隊は槍を構えて土手を駆け下りた。

 藤堂隊先鋒は慌てて発砲した。長宗我部隊は何人打ち殺されても怯まず突き進み、ミニ逆落としで藤堂隊先鋒に突撃した。

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