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2-2

 北条家滅亡後、豊臣秀吉は徳川家康に関東転封を命じた。家康は江戸を本拠地に定めた。

 江戸は将来性の高い土地だった。複数の街道が通る交通の要衝であり、品川港や墨田川を使った海運、水運も盛んだった。

 日本一の大都市になるポテンシャルを秘めてはいたが、入江や沼地が多い地形で、乾いた平地が少なく、大規模な都市開発が出来なかった。


 家康は江戸一帯の山を崩して入江や沼地を埋めた。広大な平地に道を敷いて寺や家を建てた。街道と宿場町を整備し、河川を付け替えて水上交通路を確保し、今の銀座辺りにあった江戸港を拡張した。全国から商人、職人を呼び寄せて商工業を振興した。

 江戸の人口は十五万人に急成長した。三十万の京都、二十万の大阪に次ぐ日本三位の都市である。


 家康時代の江戸は京都や大阪のような碁盤目の都市だった。長くて広い一本道の奥に江戸城がそびえ立っているのが見えた。

 大きさは大阪城の二倍。日本史上最大の城だった。


 街の東側に一般市民が住んでいた。西側には武士が住んでいた。都市人口の三分の二が武士階級だった。

 江戸でも治安悪化が問題になっていた。大規模な公共工事と、それに伴う労働者流入によって、街の東側全体が山谷と化していた。

 西側は西側でファベーラ並みの危険地帯だった。戦闘員がそれだけ集まれば治安も良くなりそうだが、そうはならなかった。


 武士にもランクがある。

 大名。大名に仕える藩士。藩士に仕える武家奉公人。下に行くほど数が多い。武士の都の大半は武家奉公人で占められていた。

 奉公人は終身雇用ではなく、町人、農民が契約社員として短期雇用される。この武家奉公人が一六一〇年頃から準暴力団化して社会問題になっていた。


 北九州の成人式のような集団が江戸の通りを練り歩いていた。集団のリーダーは線路の踏切のように長い刀を肩に担いでいた。

 人々は恐れて道を開けた。


 通りに面して口利き屋があった。現在の派遣会社である。

 北九集団は店に押し入った。客は恐れて逃げ出した。

 北九集団は「店長を出せ」と騒ぎ立てた。


「うちの可愛い甥っ子がよ!見た目が悪いって無理やり辞めさせられたんだ!おかしくねえか!」


 甥っ子は水戸の成人式のような恰好をしていた。

 集団は口々に叫んだ。


「おう、責任取れや!」

「誠意見せろ誠意!」


 北九集団は店員を殴り、店の物を引っくり返して滅茶苦茶にした。


 リーダーの踏切は武家奉公人として大番組頭(徳川秀忠の親衛隊の部隊長)の柴山正次に仕えていた。


 斬殺された踏切の死体が柴山家の畳の上に転がっていた。


 柴山が部屋から廊下に出てきた。体は踏切の返り血で汚れていた。

 部下が心配した顔で立っていた。柴山は彼に命じた。


「片付けておけ。あんなクズを雇っていたなんて柴山家の汚点だ」


 事件に怒った柴山は踏切を殺害した。


 数日後の夜、柴山が乗った駕籠が江戸城から出てきた。駕籠は警護数人に守られて暗い通りを進んだ。


 一行の正面に沢山の提灯が見えた。

 北九集団百人が通りを塞ぐ形で立っていた。集団は弓、槍、鉄砲で武装していた。

 集団は口々に叫んだ。


「仇討ちじゃあ!」

「逃げんな柴山!切った首便器にしてやるよ!」


 警護は駕籠を捨てて逃げ出した。


 数日後、柴山殺害事件に加わった百人が逮捕された。

 江戸町奉行は見せしめとして、百人をふんどし一丁にして通りを歩かせた。大勢の見物人が集まった。


 囚人は全身に入れ墨を入れていた。浅草三社祭のような集団だった。囚人は見物人を睨み付けたり、手かせを嵌めた両手を上げて勝ち誇ったりした。


 江戸町奉行の米津田政は宿屋二階の窓から囚人のパレードを見ていた。

 米津は就任以来、市内の治安安定に心を砕いていた。大小便を食わせる拷問を発明して「くそくらえ」の語源になったという。


 数日後、米津は政権幹部と奉行所の座敷で面会した。

 下総佐倉藩主の土井利勝。秀忠政権の官房副長官ポジションに就いていた。若手のエース格だった。


 米田は紐で綴じた書類を土井に見せた。組織メンバー三百人の名前が書かれていた。


「一味の頭領は大鳥逸平。元は大久保石見守の家中にあった者です。捕えた者は『大鳥の指図で殺した』と証言しています」


「分かった。徹底的にやろう。金は出す」


「ありがとうございます」


「長引くと問題になる。速やかに解決してくれ」


 一六一一年六月、江戸町奉行所は大鳥グループ壊滅に向けて動き出した。

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