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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
10話 道明寺の戦い
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10-4

 奈良の法隆寺から生駒山地を通って大阪に至るコースは二つある。

 北回りルートと南回りルート。北回りルートの方が速いが、聖徳太子の時代から「通ると負ける不吉な道」とされていた。


 どのコースを通っても、最終的には生駒山地の西の麓、河内国分で合流する。

 河内国分の北には川が流れていた。東と南と西には山がそびえていた。少数でも大軍と戦える険阻な地形だった。


 勝成は五日の朝には法隆寺に戻った。昼過ぎには大和方面軍は行動を開始した。


 先鋒は信濃飯山藩主の堀直寄。秀吉からも家康から評価された武将である。

 堀隊は北回りルートの入り口の前で立ち止まった。正直この道は行きたくなかった。


 堀隊の後ろを勝成の本隊が通り過ぎた。勝成は「早く行けよ、オラ!」と煽った。勝成本隊は南回りルートを使う予定だった。

 堀隊は嫌々北回りルートを上り始めた。


 大阪城の南東に自由都市の平野があった。

 豊臣軍の主力部隊二万は天王寺を出て平野に入り、同地を占領した。


 五日午後、司令部は接収した豪商の屋敷で作戦会議を開いた。

 いわゆる五人衆の内四人と、秀頼側近グループの幹部格三人の内二人がこちらに来ていた。


 味方は今日夜に街を出発。十キロ南東の河内国分に移動して迎撃態勢を整える。というのが大まかな作戦だった。


 幸村は注意喚起した。


「地元の者に話を聞きました。明日は霧が出るかもしれないとの事。夜間行軍には不向きな天候になります。

 十分注意して進みましょう。迷子にはならないように。明日の朝は全員で河内国分で朝食を取りましょう」


 メンバーは笑った。側近グループ幹部の一人、渡辺糺は「自分の領地で迷子になる譜代がどこにいます?」と突っ込んだ。

 後藤はニコリともしなかった。彼は浮いた存在だった。


 夕方、堀隊は河内国分に到着した。夜には全軍三万五千が集結した。


 幸村は大和方面軍が先に河内国分を抑えた事も、幕府軍主力が大和方面から来ない事も知らなかった。

 司令部の見通しが外れる事はある。問題はそこからのリカバリーだ。偵察部隊を派遣して、状況を把握し、次善の策を素早く下さないといけない。


 旧武田家臣が残した甲陽軍鑑には、「長篠の戦いで織田軍はズルした」、「何もない場所だと見せかけて(実際は大規模な野戦築城を施していた)こちらを戦場におびき寄せた」といった記述がある。

 武田勝頼はこの時まともに偵察していなかった。あるいは偵察隊が正しい情報を持ち帰っても「これは偽情報だ」と判断した。

 偵察にはとびきり優秀な兵士を選ぶ。武田信玄は真田昌幸に偵察任務を任せた。


 幸村は勝頼と同じ失敗を犯した。彼は既に破綻した作戦を忠実に実行し続けた。


 夜、幸村と後藤は縁側の廊下に座って、月を見ながら水盃を交わした。


 夜空は晴れて綺麗な月が出ていた。風は弱く、地面は日中降った雨でぬかるんでいた。こういう日は霧が出る。


 後藤は自嘲した。


「お前も俺が裏切ったと思っているだろう?」


「疑いをかけられない方法は一つだけ。自分が疑う側に回る事です。だから今、城内は皆が皆を疑っています。

 隠岐守殿(後藤)だけではありません。私だって疑われていますよ。信じ合わなければ勝てないのに。

 だから私は隠岐守殿を信じます。何があろうと決して疑いません」


「いや、疑われてもしょうがない……

 大御所から播磨五十万石で誘われた。この俺に五十万だと。さすがだよ。本当にありがたい話だから断ってやった。あの方の友情に報いるためにも、決戦では真っ先に死ぬ覚悟だ。俺が死ねば豊臣は終わりだからな」


 後藤は非常に強気な性格だった。牢人グループを引っ張って反徳川派の急先鋒として活動していてもおかしくない立場だったが、実際には大野治長と組んで融和路線を主導した。


 後藤の長男は毛利輝元に仕えていた。幕府は輝元と長男を通じて水面下で後藤に働きかけていた。

 長宗我部が唱えた後藤スパイ説は百%根拠のない話ではなかった。


 午前〇時、幸村隊二万は平野を出発した。

 予想通り霧が出て天候が悪化した。


 午前一時、木村隊六千、長宗我部盛親隊五千が大阪城から出発した。

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