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大坂の陣で豊臣軍と戦う宮本武蔵  作者: カイザーソゼ
9話 大和郡山城の戦い
112/145

9-13

 二十四日、家康親子と幕府首脳部は二条城大広間で豊臣家の使節団と面会した。

 使節団は淀に近いメンバーで固められていた。

 淀の妹の常高院。淀の側近の大蔵卿局と正栄尼。そして青木一重。

 首脳部が開戦コースに舵を切る中、淀は一人で和平交渉を主導していた。


 本多正純は使節団に返答した。


「一国加増の件について返答いたします。

 摂津、河内の荒廃が激しく、例年通りの収入が望めないので加増して欲しい、との事でした。

 こちらの調査の結果、摂津の荒廃に関しては認定しますが、河内は十分な収入が得られると判断しました。よって加増の件は認められません。


 こちらは牢人衆の解雇と大和国への転封を求めます。

 牢人とは先の戦いに備えて雇われた者共です。戦争以前に雇い入れた者(冬の陣前にも牢人を雇用していた)の解雇は求めません。

 大和への転封は一時的なものです。こちらの責任で摂津と大阪を七年計画で復興させます。大阪が今より豊かで美しくなった後に皆様に戻っていただきます。


 簡単に申し上げますと、ともかく一旦大阪城を出ていただきたい。後はもうこちらがやります。牢人の処理も戦後復興も。全部終わったらまた元通り大阪城に住んでもらって構いません」


 使節団は顔を見合わせた。信じられない内容だった。

 家康は使節団に頼んだ。


「これで何とか前右府を説得して欲しい。

 俺は豊臣家を残したい。だからあらゆる手を尽くす。目的のためなら誰にでも喜んで頭を下げよう。

 俺の強さを弱さと思わないでくれ」


 使節団は幕府からの正式な書状を持って大阪に向かった。

 青木は京都に残った。板倉に「大阪に戻ったら幕府に仕えている弟を殺すと脅されたから」と公式には説明されている。


 豊臣家首脳部は本丸御殿の大広間に集結した。

 襖一枚隔てた隣の座敷に淀や側近が集まった。

 大野治房は書状を読み上げた。


 淀と譜代家臣は喜んだ。

 七年離れる事になるが、ともかくまた大阪城に住める。その間に幕府が荒れた土地も治してくれるし、忌々しい牢人衆も処分してくれる。


 治房グループは反発した。グループの力の源は牢人衆だった。城内でこれからも大きな顔をし続けるには彼らが必要だった。


 幸村グループも反発した。幕府は豊臣家には限界まで譲歩したが、牢人衆にはある程度の歩み寄りに留まった。


 会議は紛糾した。


 秀頼が強い指導力を発揮する局面がやってきた。いや、有楽斎のように城から逃げるだけでいい。後は全部幕府がやってくれる。

 木村は秀頼をちらちら見た。秀頼は腕を組んでずっと黙っていた。


 隣の部屋から大蔵卿局がやってきた。家臣団は口論を止めて頭を下げた。

 大蔵卿は淀の言葉を伝えた。


「御袋様からのお言葉を伝えます。

 とても良い案です。是非お受けなさい。

 私達は十五年間粘って最良の条件を引き出しました。売り時を間違えてはいけません。

 もう危ない綱渡りは止めましょう。売るのはこの時をおいて他にない。さあ誇らしい勝利を胸に城を出ましょう……」


 秀頼は遮った。


「受ける、受けないは当主の私が決めます。母上は口を挟まないでいただきたい。

 国替えだけは絶対に認められない。牢人衆の解雇も拒否する。この話は受けない」


 治房グループと幸村グループは喜んだ。治房は笑顔で書状を破り捨てた。

 後藤は秀頼を説得した。


「謹んで言上仕ります。

 国替えと言っても七年です。上様は二十二才。二十九才になればまた戻ってこられる。どうかしばらくの間ご辛抱ください」


「二十二才が二度あるか!?俺は一日だって出ないぞ!」


 秀頼は立ち上がって治房と治胤(大野兄弟の三男)に先鋒を命じた。


「我が意は決した!治房は奈良の筒井を攻めろ!

 治胤は堺を焼け!卑怯者の巣を火と血の海に変えてやるのだ!

 俺の判断に異論ある者は今すぐ名乗り出ろ!この手で城壁から突き落としてやる!」


 一同は頭を下げた。

 治房グループと幸村グループは遂に開戦だと興奮した。

 譜代家臣は憂鬱な顔だった。

 襖の向こうから女性達のすすり泣く声がした。これで豊臣家はお終いだ……


 秀頼は牢人解雇はともかく、転封だけは何としても拒否し抜いた。最後は秀頼の個人的感情で開戦が決められた。

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