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2-1

 一六一〇年十二月、大小三十隻の兵船が南から長崎湾に侵入した。

 武装ボートの小早。速いが火力は低い。数は多い。

 武装屋形船の関船。遅いが火力は高い。数は少ない。

 船団は島原藩有馬家の木瓜紋の旗を掲げていた。


 一隻の西洋軍艦が長崎港から出撃した。

 箱根海賊船のような船である。とても遅いが火力は非常に高い。マストにポルトガル国旗を掲げていた。


 北上する有馬水軍。南下するポルトガル艦。両軍は距離を詰めて戦闘を開始した。


 ポルトガル艦は船首を西に向けて側面の大砲を連射した。

 砲弾の九割は海に落ちて水柱を上げた。一割は小早に直撃した。

 砲弾は水兵を頭から真っ二つに割って船底に穴を開けた。血まみれになった周囲の漕ぎ手は必死になって水を掻き出した。

 停止した船の両脇を元気な船が追い越していった。


 有馬水軍は側面を避けて東の船尾側に回り込もうとした。

 ポルトガル艦は船首を南に向けた。


 両軍はすれ違いながら鉄砲、大砲で打ち合った。

 下から打ち上げる形の有馬水軍が不利だった。銃弾は軍艦の側面に吸い取られた。

 ポルトガル艦の水兵は高所から有馬水軍を狙い打った。


 ポルトガル水兵は陶器製の手りゅう弾、「ほうろく玉」を投げ込んだ。船団は炎上した。


 二隻の小早がポルトガル艦の正面を塞いだ。ポルトガル艦は二隻を体当たりで粉砕して突き進んだ。


 二人の男が小高い山から長崎湾を見下ろしていた。


 長崎奉行の長谷川藤広。幕府の海外貿易を取り仕切っていた。普通の日本人には優しいが、犯罪者と外人とキリスト教には厳しかった。

 旗本の岡本大八。元は長谷川の家臣だったが、今は幕府幹部の本多正純に仕えていた。今回は監査役として現地に派遣された。


 有馬水軍は切り札の井楼船を投入した。

 小早二隻を直列つなぎに並べて、その間に井楼という木製ジャングルジムを組んだ船である。ジャングルジムの上から攻撃出来た。

 井楼船は正面からポルトガル艦に接近した。有馬家一の狙撃兵がジャングルジムに乗っていた。


 軍艦は船首の大砲を発射した。

 砲弾は井楼船の十数メートル右に落ちた。井楼船はメトロノームのように左右に揺れた。狙撃兵は揺れが収まるのを待った。


 一人のポルトガル水兵が有馬水軍の関船にほうろく玉を投げ込もうとした。

 井楼船の有馬兵は狙撃した。銃弾は水兵のこめかみを左から右に打ち抜いた。


 ほうろく玉は足元に落ちて爆発した。

 水兵は予備の弾薬を身に付けていた。一人一人が火の元だった。

 火は引火して瞬く間に燃え広がった。船上の水兵は火だるまになった。


 ポルトガル艦は炎と煙に包まれた。艦の動きが止まった。

 船長は最早これまでと、生き残りを退艦させて火薬庫に火を点けた。


 軍艦は木っ端みじんに吹き飛んだ。

 山上で見ていた二人は驚いた。


 海上の有馬兵は勝利の雄叫びを上げた。

 岡本も興奮して大声を上げた。

 長谷川は複雑な気持ちだった。


 有馬家はイエズス会と組んで海外貿易を行っていた。当主の有馬晴信は領内のキリスト教徒を保護してイエズス会の歓心を買った。

 信者は領内の寺社を破壊し、その廃材で教会を建てた。宣教師は集めた住民の前で仏像にツバを吐きかけた後、叩き壊して薪にした。有馬は仏教徒の女性や子供を拉致して教会に献上した。


 長谷川は有馬を憎んだ。勝つのは嬉しいが、嫌いな人間が褒められるのは嫌だった。


 ポルトガル艦の生存者はボートで脱出した。

 有馬水軍は脱出ボートに接近した。生存者は両手を上げて降伏した。

 ポルトガル語が出来る有馬兵が呼びかけた。


「お前達の命は保証する。こちらの船に移れ」


 生存者は命が助かってホッとした。泣き出す者もいた。


 山上から見ていた長谷川は呟いた。


「……手ぬるい」

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