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豊臣家首脳部は天守閣一階の広い板敷の間に集まって会議を開いた。
首脳部は三つに割れた。
恭順派。牢人衆を解雇して本拠地移転を目指す。
大野治長。織田有楽斎。後藤又兵衛。七手組頭(秀頼の近衛部隊の七人の隊長)が属している。
中間派。牢人衆に歩み寄って本拠地移転を目指す。
真田幸村。木村重成。渡辺糺。明石全登が属している。
再戦派。牢人衆を増員して京都に進撃する。
大野治房。長宗我部盛親。毛利勝永。仙石秀範が属している。
豊臣家の譜代家臣は「幕府相手によくやった」、「自分達はグッドルーザーだった」と考えた。
彼らは恭順派を支持した。さっさと牢人衆と手を切って移住したがった。
牢人衆は「本当は勝っていた」、「首脳部は幕府に騙された」と考えた。
彼らの多数は「偽りの講和条約を破棄して京都を攻めよう」と叫ぶ再戦派を支持した。
少数は「頑張った自分達を追い出すなんておかしい。豊臣家で雇え」と唱える中間派を支持した。
大野グループはミカジメ料を払わずに牢人衆を追い出そうとしていた。
幸村グループはある程度のミカジメ料は必要経費と考えた。
ではそのミカジメ料を誰が払うのか。誰も答えられなかった。
治房グループは京都攻撃を主張した。京都を落とせば金は幾らでも手に入る。
大野グループは理想論で現実性がない。幸村グループは現実的だが具体案がない。治房グループには何もないが牢人衆の支持がある。
三グループは不毛な議論を繰り広げた。
会議が終わった。メンバーは退室した。
有楽斎も天守閣を出ようとした。
振り返ると、治房グループが秀頼を囲んで談笑していた。
秀頼は治房グループを支持していた。彼らに囲まれて「あの戦争は勝った」、「豊臣の大勝利だった」と毎日聞かされていると、本当に勝った気にもなった。
有楽斎は家臣を連れて天守閣から本丸に出た。
天守閣の近くに君主の住む本丸御殿があった。戦争で損傷を受けたが、大工が入って修復工事を進めていた。
有楽斎は本丸の門から二の丸に出た。
講和条件の一つが大阪城の破壊だった。二の丸の門や堀、櫓は破壊された。家臣の屋敷は無傷だった。
大工が勝手に櫓の再建工事を始めていた。
有楽斎は工事現場に怒鳴り込んだ。
「お前ら何やってる!?」
大工は手を止めて有楽斎の方を見た。
現場監督は「いいから作業を続けろ!」と怒鳴った。
有楽斎は「おい!」と大工に詰め寄った。
武装した牢人数十人が集まってきた。
有楽斎一行は逃げ出した。
牢人衆は「腰抜け!」、「また逃げるのか!」と煽った。
治房グループは城の修復工事や堀の掘り返し工事を開始した。兵糧の備蓄も始めた。
これらは講和条約違反に当たり、再戦の理由になる。
しかし治房グループは「来るなら来い」ぐらいの気持ちだった。幕府には一度勝ったと思っているので怖いものがなかった。