買われる少女_3
ステージ脇の階段を下ってすぐの扉の向こうには客室があった。
部屋の中はそれほど広くはなく、またものの数も控えめといった感じだ。部屋の中央に机と椅子が二脚、他には壁に掛けられている数枚の絵と部屋の四隅にある壺や彫刻の飾りくらいだ。
ただ、机から飾りに至るまでどれも高級感があり、少女のみすぼらしい姿を際立たせるには十分すぎる程だった。
それから程なくして、反対側の扉から男が入ってくる。
先ほど少女に1億の値をつけた男だ。
おそらくこの部屋で奴隷の引き渡しが行われるのだろう。
その男は部屋に入り少女を見るなり、愉悦の表情を浮かべてさっそく手を伸ばしてきた。それに対して、少女はとっさに身を守るかのように後ずさってしまう。
「……これはしつけが必要だな」
客の男は少女の反応に顔を歪ませると、再び手を伸ばし今度こそ捉えようと距離を縮めようとする。
「おっと、ちょっと待ってください。お金の支払いと契約書への署名が先です。それまでは、そいつはまだこちらの商品なんでね」
奴隷商人の男が淡々とした口調でいいながら何枚かの紙を用意して片側の椅子に腰を掛ける。
奴隷商人の男の言葉に舌打ちで返した客の男は、不機嫌な態度を隠すことなく、反対側の椅子にどかっと座り口を開いた。
「ふん!何が信用を第一に考えてきただ。客の中に回し者を忍ばしよって。わしの金額に上乗せしてきたのはお前らのところのものだろ」
その言葉に対して奴隷商人の男は何も答えない。
「まぁよい。さっさと手続きを始めろ」
「では、こちらの書類に目を通していただいた後、問題がなければ署名をお願いします。また、お金の引き渡しは金額が高額ですので後日で結構です」
客の男は、机の上に置かれた数枚の書類に特に確認することなく署名をし、それを向かいの奴隷商人に向かって突き返した。
「金は一週間以内に用意して下のものに持ってこさせる」
「かしこまりました。では、最後にこちらが手錠の鍵になります」
客の男は鍵を受け取り上着のポケットにしまうと、少女の腕を掴みもと来た扉へと連れていく。
「さぁ、こっちだ」
少女は必要以上に強く掴まれた腕が痛むのを我慢しつつ、客の男の後に続いた。